ロヴァダ国

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ロヴァダ国

 ロヴァダ国王の身辺を探るべく、俺は透明になって空を飛んで王都までやって来た。  降り立って姿を消したまま歩いてみる。王都は、他の街並みに比べると建物も石造りであったりして、人々の生活も安定しているようには見える。  けど、そう見えただけだ。  著しく外出している人の数は少ない。露店も無いし、歩いている人は僅かだが、ある程度身なりはキチッとしているけれど覇気がねぇ。  店はあるが全体的に少ない。食堂もあまり見かけねぇ。その代わりと言っちゃなんだが、兵達が至るところにいる。何を監視してんだか、あちこち巡回して目を光らせている、といった感じだ。  王都の中央辺りに広場はあったが、人がいねぇ。憩いの場的な役割の場所なんだろうけど、その役目は果たせてねぇって感じだな。その広場の真ん中辺りが舞台のように高くなっている。まぁまぁの広さがあるが、ここで演説でもすんのか?   しかし、なんかここは変だ。息苦しさを覚える程だ。  俺が育った宗教国とは違うが、感じは似てる。けど、そことはなんか質が違う。あそこの住人は教皇を尊敬し敬っていたけれど、ここはなんか強制的にそうさせている、といった感じだな。  辺りを見渡して歩いて行き、王城のある場所から遠ざかっていく。  路地の方へ入っていくと、大通りからは分かりにくかったが路地裏には家がいっぱいあった。  大通りには石造りの建物が見えてたけど、あれは見せかけだ。殆どがその場所には住めず、路地裏にあるボロボロの家に住んでいるような状態だった。人々の身なりも、大通りを歩く人達は貴族か貴族に召し抱えられてる使用人みたいな感じで、キッチリした服を着ていた者が殆どだったけど、ここにいる人達は皆がツギハギだらけのボロボロの服に靴で、ガリガリに痩せていた。    そこにも兵士はいて、常に住人を監視しているような状態だ。拘束はされてねぇけど、ここら一帯が牢獄みてぇに感じてならねぇな……  住人には表情がねぇ。笑顔なんかは勿論無いが、辛そうな感じも寂しそうな感じもなくて、感情というのが欠落してんのか? と思う程に皆が無表情だった。  そうやって人々がの生活を見ていたその時、いきなりラッパの音のようなのが鳴り響いた。それには兵士も住人達も気づき、誰に何を言われるでもなく皆が同じ方向へと走り出した。俺も気になったから、皆と一緒に向かうことにする。  向かった先は中央広場で、そこに続々と人が集まって来ている。舞台の周りは兵士が囲んでいて、舞台を守っている感じだ。  なにかが行われるのだろうけど、それは日課のようなのか、誰もが特別な事が起きると思って集まっている訳ではなさそうだった。俺は初めてだったから、何が起こるんだろうと思ってしっかり見ることにする。  360度見渡せる舞台を囲むように人々が集まりだすが、誰も何も発言しねぇ。普通こんだけ人数が集まれば、あちこちで雑談があったりしてザワザワするもんなんだけど、そんなのが一つも聞こえてこねぇ。なんか気持ち悪ぃな……  結構な人数が集まってきたところで、またラッパの音が鳴った。  そうすると、舞台に兵士達が罪人と思われる人達を連れてきた。後ろ手に縛られ、腰に縄をつけられて連なって足取り重く歩いてきた。勿論表情は暗く、皆が下を向いてガタガタ震えていた。もしかして、公開処刑でもするつもりか?!  それがこの国の日常なのか?! 痩せ細ったボロボロの服を着た6人の人達の中には子供もいた。って、子供が処刑される程の悪いことをしたってのか?!  貴族らしい奴が前に出て、大声で罪状を述べる。 「この子供が我が国王、バルタザール陛下様を愚弄した! よって本人と、連携責任として両親とその親戚の者を斬首刑に処す!」 「はぁ?! んだよそれっ!」  思わず大声で言ってしまった。 「誰だ?!」と言って俺の方を見た兵士達とその貴族の男だが、勿論俺の姿は見えてねぇ。兵士達は持っていた剣を抜き、威嚇する。  声のした方を見て、俺の横辺りにいた男を睨み付けると、ズカズカとやって来た。周りにいた人達は邪魔にならないようにサッと横に避けて道を作り出す。   「貴様、我らに楯突く気か?」 「い、いえ、そんな滅相もございません!」 「言い訳をするな! おい、コイツも連れていけ! まとめて処刑してやる! コイツの家族もだ!」 「違……っ! 私は何も言っておりません!」 「この期に及んで謀ろうと言うのか! 只ではおけぬぞ!」  俺がつい言ってしまった事で、何の罪も無い人達が殺される羽目になるなんて、あり得ねぇっ!!  ってか、こんなんで処刑とか、なに考えてんだ?! この国……いや、国王は!!  男は兵士達に拘束され、横にいた男の妻と子供二人も拘束されて連行された。    言葉一つ自由に発言できねぇのかよ?! マジあり得ねぇって!  俺は飛び上がって、広範囲に水魔法を分散させた。するとそれは大粒の雨のようになって、王都全体に勢いよく降り注いでいく。  突然の豪雨に兵士達は何事かと驚いたが、人々は一人も動く事はない。すげぇ教育されてんな。そりゃそうか。余計な事を言ったりしたりすれば、自分だけじゃなくて家族にまで処刑の対象となっちまうんだからな。  豪雨を降らせつつ、雷魔法で大きな(いかずち)を放ってやった。いつもは体の中に感電させるようにするから突然人が倒れるって感じになるけど、今回は大きな雷鳴を響かせてあの貴族の頭に直撃させてやった。一瞬にして貴族の男は体を痺れさせてその場に倒れた。  それから次々に、兵士達に当たらない程度に雷をガンガンに落としてやる。狙って当ててるとなったら疑われるからな。勿論、他の人達にも当たらないように配慮はしている。けど、わざとらしくねぇように心掛ける。  いきなりの豪雨と雷に戸惑った兵士達は、倒れた貴族の男を抱えて退避する事にしたようだ。そうそう、良い判断だ。  兵士達が建物の中へと消えていって、残された人達はどうしたらいいのか、といった感じで暫くその場にいた。  俺は舞台上にいた罪人と呼ばれた人達と、俺のせいで捕まった人達を纏めて転送させた。    俺は空間移動が使えるが、前は自分しか移動出来なかった。紫の石を持っていた時は、俺に触れてさえいれば人数は多くても移動はできたし、会いたい人を思うだけでその場所まで移動できた。    今は紫の石は俺の手元にはない。だから会いたい人の元へ行くことはできねぇ。けど、転送陣を構築する事が出来るようになった。これによって、転送陣上にいる人達を移動させる事は可能になった。  そうやって捕らえられた人達を転送させた場所は、アクシタス国にある村だ。ここは昔、盗賊団が作った村だった。捕まえてきた子供や女性を村ぐるみで囲っていたのだが、その盗賊団を撲滅して、この村をそっくりそのまま頂いたって訳だ。  それからここは、親を亡くした子供や働き口の無い人なんかを俺が連れてくるようにしている。ここで農業や酪農もしているし、村全体で孤児の子供の面倒を見るって感じにしてるから、ここは村全体が家族みてぇなもんだ。  って事で、ここに俺は捕まっていた人達を連れてきた。  いきなり場所が変わって、何が起きたのか、どうなっているのか分からないって感じで辺りをキョロキョロ見て、そして俺を見つけて驚いた。透明化は無くして、姿を表したからだ。  勿論姿は変えている。行商人アスターとして対応する為だ。  ここの村長は、俺が作り出したゴーレムだ。他にも人手が足りない所にはゴーレムを置いて賄っているが、護衛の為にも置いている。  戸惑うロヴァダ国の人々に、この村の事を話し、ここで暮らすことが出来る事を告げると、途端に皆が安堵の表情をし、それから涙を流した。  村長な家は広めに作ってあるから、当分はそこに住まわせて、住める家がなければ建てさせる事にしよう。とにかく水に濡れたから、まずは風呂に入らせて、それから食事をさせよう。そうやって指示を村長にして、ひとまずゆっくりさせるように伝えた。  あの国の事は、落ち着いたらまた聞きに来よう。  しかしマジ腐ってんな。ロヴァダ国王って奴は。そしてその支配下にある貴族達もだ。人をなんだと思ってるんだ。考えれば考える程、苛立ちが大きくなるばかりだ。  ダメだ、冷静にならねぇと。  ちょっとクールダウンしよう。  ゴーレムと感覚共有してアシュリーがいないか確認しよう。  そうやって見つけた。  アシュリーの姿を、俺はようやく見つける事ができたんだ。  けれど、アシュリーは男と一緒だった。     
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