気になる

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 やっと見つけられた。  良かった! 良かった……けど!  アシュリーは男に抱きかかえられていた……!  アシュリーのいる場所は、インタラス国にあるイルナミの街だ。あの街にアシュリーは思い入れがある。  孤児院にいたレクスと言う少年と仲良くなったが、聖女の疑いをかけられ、兵達に攻撃されそうになったアシュリーを庇って、レクスは氷の矢を受けて亡くなってしまった。  しかしその後、青の石を見つけて精霊や霊を見られるようになったアシュリーは、レクスの霊がいつも近くにいる事を知って、それから暫く霊のレクスと一緒に旅をしていたのだ。  俺にも思い入れはある。俺のいた宗教国で、俺の友達が奴隷にされて酷い目にあっていたのを助けだし、そこで世話になった。ついでにその時そこにいた奴隷として売られる子供達も助けたが、その面倒をあの孤児院で見てもらったんだ。  だからあそこに俺は『聖女』としてゴーレムを置いた。優しい人達の助けになるようにと、俺が一番はじめに俺の魂を魔石に付与させて作り出したゴーレムを置いたのだ。そうするとかなり能力を上げることが出来るからな。  俺には白の石、セームルグが宿っている。セームルグは生と死を司る精霊だ。だからセームルグに無理言って頼んでそうして貰った。一度そうして貰うと、魂を分け与える感覚が分かって、それからはセームルグに頼らずともそれが出来るようにはなったけどな。  今4体のゴーレムに俺の魂を付与させている。あ、1体は倒されて魔石は持って行かれたんだった。取り返さなきゃな。  まぁ、だから俺の魂は今欠けている状態だ。だからすげぇゴーレム達に会いたくなる。自分の魂を求めてしまうんだろうな。そうなって初めて気づいた。アシュリーとディルクはこんな感じだったのかって。  求めて求めてどうしようもなく求めてしまって、会えたら離れたくなくなって、ずっと傍にいたくなる。  だけど俺の場合は魂の一部だ。4体分合わせても、魂の4分の1程も失ってねぇ。魂の半分が無い状態のアシュリーとディルクのお互いを求める思いってのは、それはすげぇ大きいんだろうって事が、こうなって初めて理解できた。  って、そんなことより!  あ、いや、そんな事とかじゃねぇんだけど、俺が今気になってるのはアシュリーが男といたって事なんだ!  話し掛けるもその男は振り向きもしねぇで向こうへ行った。アシュリーはこっちを悲しそうな顔で見ている。  なんだ? なんでそんな悲しそうで辛そうな顔して見てんだよ?! その男が嫌なのか?! そうなのか?!  その後はどうなった?! って思って見るけれど、助けを断られた『聖女』のゴーレムは、必要が無くなったと感じてその場を去った。  いやいや、ダメだろ?! 俺が気になるんだって!   それからどうなった?! アシュリーはなんで抱きかかえられていたんだ?! あの男はアシュリーの何なんだ?!    気になって気になって、アシュリーが気になって仕方がなくて、暫くは『聖女』ゴーレムの感覚共有を続ける。  すると、遠目でかすかに見えた。  アシュリーを膝の上に乗せて、木にもたれ掛かって座っている二人の様子が……  アシュリーはその男に身を任せている感じで、遠目でハッキリ顔とか分かんねぇけど、なんか恋人同士に見える……!   「嘘だろ……え……これマジか……?」  アシュリーに異能の力があったんだとしたら、今まで身内以外には誰にも触れられなかったかも知んねぇ。けどそうじゃなかったら、既に恋人がいた可能性がある……? ならなんで一人で旅してた? それに、俺を大切な人って言ってくれたんだ。恋人がいてたんなら、そんな事言うか? ……言う……事もあるか……  いや、まだ分かんねぇ! 嫌がるアシュリーを無理矢理膝元に置いて……る訳じゃなさそうだ……  あ、もしかしてディルクか?! ディルクに会えたのか?! そうかも知んねぇ! 雰囲気が何となくディルクっぽい! それなら良かった! いや、だとしてもあんなにくっつかなくても良くねぇか?!  しかしアシュリーはどうしたんだ? 調子が悪かったのか? それともただイチャイチャしてるだけなのか?!  ずっとハラハラしっぱなしだったど、ひとまず無事だったようで安心した。矢を受けたから怪我とか心配だったけど、大丈夫だったみたいだ。良かった。  けどそうだな……もしアシュリーに他に好きな人ができて、ソイツもアシュリーを求めてるんなら、俺の出る幕はねぇって事なんだろうな……  もしそうであったなら、俺はアシュリーの幸せを願って祝福してやんなきゃなんねぇよな。自分から会わないようにしていて、でも動向は知りたいってのは、俺のエゴなんだよな……  分かってる。だから泣くな! 俺!   「どうした? アスター?」 「え? あ、いや、何でもねぇ! あ、また商品は今度持ってくる! 今日はたまたま近くまで来たから寄っただけなんだ!」 「はぁ……そうなのか……? いや、持ってきて欲しい物があったんだが、頼めるか?」 「あ、あぁ、勿論だ!」  そうか、まだ俺は村にいたんだった。動揺しすぎて忘れてた。  俺に話しかけてきた村人の男に次持ってくる物を聞き、承諾すると男は微笑んで去っていった。  もう一度頭の中を整理しよう。  アシュリーは取り敢えず無事だ。けど、また何処にいるのかは分からなくなった。  そして、アシュリーには守ってくれる人がいる。それにはひとまず安心……か? まだどんな奴か分かってねぇから、安心はできねぇか……  でも無事が分かっただけでも良かった。  あ、ロヴァダ国の王はちょっとお灸でも据えてやろうか。あのままじゃあそこにいた人達が可哀想だからな。どうするかは後で落ち着いて考えるとして……  ……って、やっぱどうしても気になる!  アシュリーの事が気になって、他の事が上手く考えられねぇ!  あの孤児院にはまた来そうな気がする。だからあそこにまた別のゴーレムでも配置してやろうか……  それとも俺が行こうか……  こんなに気になっているのに、ウジウジしている自分にも腹が立つ……! 俺はこんな奴だったか?!  ダメだ、やっぱ我慢できねぇ! 会おう! アシュリーに会おう! うん、そうしよう! 決めるのはそっからだ!  そう決めたらいてもたってもいられなくなった。  俺はすぐにインタラス国イルナミの街にある、孤児院まで空間移動で行った。    
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