64人が本棚に入れています
本棚に追加
愚鈍な男
広々とした、高級感溢れつつもセンスのない部屋で、その男は首輪をつけたボロボロの服を着た奴隷と思われる女の子に笑いながら鞭を振るっていた。
至るところに生傷があって顔も腫れていて、まだ12、3歳程の女の子が虐げられていた。
男の横には見目麗しい女性が3人、身に付けている服は僅かで殆ど肌が出ているような格好で、男にしなだれかかったりしている。男は嬉しそうに女性の体をまさぐりながら、自分のものに奉仕させ、菓子を口に頬張って笑っていた。
なんだこいつ……
欲望剥き出しじゃねぇか……
気持ち悪ぃ……!
見ているこっちが反吐が出るわ!
いくらこの国で一番偉いっつっても限度があるだろ?! いや、国王だからって偉い訳じゃねぇんだぞ?!
自分の欲望のままに生きてるだけで、こいつは国の為になんかしてんのか?!
けどこんなヤツだけど、こいつの魔力はすげぇ。そんじょそこらの奴等とは比べ物にならねぇ程に、魔力は高い。王城に張ってあった結界を張ったのはこいつだ。魔法の才能にも長けているんだろう。だからこんな偉そうに出来んのか?
そうやってこの男の様子を気分を悪くしながらも見続けていると、扉がノックする音がした。
けど、その音を聞こえなかったかのように、何も変わる事なく同じように女性達に奉仕させているし、奴隷に鞭も振るっているし、菓子もまた手にして口に放り込んでいる。
するとまた扉が大きめにノックされて、
「至急お目通りお願い申し上げます! バルタザール国王陛下っ! 何卒……っ! 何卒お願い申し上げますっ!!」
そんな切羽詰まったような声が聞こえてきたが、それでも気にせずに陛下と呼ばれたこの愚鈍な男は、自分の快楽にのみ忠実に時間を使っていた。
これが一国の王ってか……?
そんなんで国なんか成り立つか! ヤツは強いかも知んねぇ! けどだからって従ってたら、この国に未来なんてねぇぞ?!
男の行動にイライラしつつも、まだその時ではないと冷静を保つようにする。このストレスは半端ねぇな……!
扉の向こうにいたヤツは、思い余って返事を待たずして勢いよく扉を開けた。
扉が開いた途端、無数の氷の矢が開いた扉の方へと飛んでいった。
しかしそれは結界に阻まれて、バキバキと大きな音を立てて粉々になって崩れていった。
「バルタザール国王陛下様! お願い申し上げます! 私の話を聞いて下さいませ!」
「ヴィクトール……お前であっても私の邪魔をする者は許さぬぞ……?」
「も、申し訳ございません! しかし、早急にお耳に入れたい事がございまして……! 『禍の子』と『英雄』についてです!」
「禍の子は殺せば良いだろう? そうすれば英雄は余に恩を感じるだろう?」
「いえっ! そうではなかったのです! 私はその英雄様と会って話をしたのです!」
「何?! それは真か?!」
「はい! 禍の子の気配を察知し、向かっている途中で立ち寄った街の宿に、その英雄様は来たのです! そして、国王陛下様にお伝えするよう言伝てを頂いております……!」
「ほう! あの英雄がか! 余に感謝の意でも申したか!」
「いえっ! ……その……禍の子を襲ったりすれば……その……国王陛下様を……殺しに行くと……」
「なに?! どういう事か?!」
「英雄様は殺されるのが本望とでも言いたいのか、禍の子が自分を殺しに来てくれる事を嬉しそうにしておったのです……信じられませんが……」
「訳が分からん! 禍の子を殺して何が悪いというのか!」
「ですから殺すのではなく捕らえるに留めておけば……いえ、それも英雄様は余計な事だと……!」
「なんだそれは……いや、しかしそれでも英雄を脅かす禍の子はこの世の脅威となろう!? 禍の子を滅すれば、英雄の恩を売れなくともこの世を救った王として、余は英雄の如き誉れ讃えられることだろう!」
「ですがっ!」
「ええい! 先程から五月蝿いわっ!」
短気そうなこの愚鈍な男は、いきなり土の槍をあちこちから出現させて、ヴィクトールを襲った。しかしそれをヴィクトールはまたも結界で弾く。こんな攻撃に慣れているんだろうな。
けどこんな簡単に身内に攻撃するって、何考えてんだ? ヴィクトール程の魔法に長けた奴じゃなかったら既に死んでるぞ?
いや、この国の魔法のレベルは高いかも知んねぇ。この男もヴィクトールも、詠唱無しで魔法を放ちやがった。
魔物が街や村を襲わなくなって、まぁ俺がそうしてんだけど、だから強くなる必要がなくなった人々は、武力も低下していったし、魔法のレベルも下がっていった。これは俺の責任だ。
そんな中、ここまでの魔法を簡単にぶっ放すなんて、なかなか出来ることじゃねぇ。
いや……そうか……
ここはオルギアン帝国の属国じゃねぇ。だから俺はこの国に来たのも初めてだった。って事は、この国にはまだ魔物が蔓延っていて、400年前と同じようにこの国の兵士達や冒険者だかが挙って討伐している、と言うことなんだろう。
そうであれば強くありつづける必要がある。他国とイザコザがあるのかも知んねぇしな。この国の軍事レベルは高いのかもだな……
この国が隣国のシアレパス国を襲ったりすればオルギアン帝国が控えているから簡単には手は出さないんだろうが、その気になれば一国程であれば問題なく落とせるのかも知んねぇな……
それでもこの愚鈍な男が王であるこの国が知略に長けているとは思えねぇ。
いや、それはまだ分かんねぇか。まだ少しこいつを見ただけだ。
これはもう少し注視する必要があるな……
最初のコメントを投稿しよう!