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青の石
夜も更けた頃、私はまたロヴァダ国のあの寂れた街へ空間移動でやって来た。
目の前には『黒龍の天使』像がある。
ここは街の中央にある広場で、この街でいちばん賑わう筈の場所だけれど、夜は真っ暗で照明も何もなく、暗闇に紛れるようにその像はヒッソリとそこに佇んでいた。
その真っ暗な中、私だけに青く美しい光が輝いて見えている。
それは像の左手首に模してある腕輪から光っていた。
像の台座に登り、『黒龍の天使』像、リュカの像を優しく抱きしめた。優しく広げるその腕は、私を迎え入れてくれているように感じて、嬉しくも切なくも思えてくる。
像の顔を優しく撫でて、それから光魔法で浄化し、その汚れを全て取り除く。
綺麗にはなったけれど、欠けた部分やヒビは修復する事はできない。それには胸が痛むけれど、今の自分にはこれが限度だ。
「ごめんね、リュカ……」
一言そう謝ってから、短剣を取り出し像の左手首の腕輪部分に当てると、青い光が大きく輝いて私を包み込んでいく。それは体の中に浸透していくように、体の隅々まで馴染んでいくように染み渡っていく。
その感覚は凄く気持ちよくって、懐かしさが溢れているようだった。
青の石の力。それは霊や精霊を見ることが出来る、第六感が目覚めるのだ。
元より精霊を感じる事は出来ていた。けれど、感じるだけで見ることは叶わなかった。
エリアスがつけてくれたであろう、能力制御の腕輪にも青の石がついている。それにも霊や精霊を見えると言う付与があるのだが、今回手に入れた青の石は精霊や霊と話す事も可能になる。
元より適正があればこの腕輪だけでも話しは出来るだろうが、この青の石の方が強力だったのだ。
名残惜しむように『黒龍の天使』像から離れて、空間移動で宿屋の部屋へ戻ってきた。
「テネブレ」
早速、黒の石に宿る闇の精霊テネブレを呼び出す。聞きたい事があったのだ。
私の体から黒い光の粒が沢山滲み出てきて、それが一つに集まって、闇の精霊テネブレへと姿を変えた。
「アシュリー! 我と話せるようになったのだな! 嬉しいぞ!」
「テネブレ、私は今はアリアと言うんだ。そしてアシュレイと名乗っている」
私の前世の名前はアシュリーと言う。テネブレは以前より私をずっとそう呼ぶ。
「我にとっては名前等些細な事だ。で、どうしたのか」
「リュカの事を聞きたいんだ……テネブレは400年前リュカに宿っていただろう? あの時……リュカが呪いを自分の体に取り込んで人々を救っていた時、テネブレは……その、責めている訳じゃないんだけど、リュカを助ける事はできなかったのか……?」
「それは……我の力不足としか言いようがない。リュカは多くの人から呪いを奪って体に取り込んだ。あの呪いは体の細胞を食らい尽くし、壊死させていくのだ。それを我はリュカが呪いを奪う度に滅していってたのだが……」
「それでも……無理だったんだな……」
「リュカの心が弱くなっていたのも要因だ。あの時は一人で寂しいと、ずっと泣いておった」
「エリアスが帰ってこれなかったから……」
「今、アシュリーの体の中にはリュカの魂があるのだな……」
「そうだ。天に還ってきた魂を、私が離さないようにして繋ぎ止めた。そして自分の体に取り込んで生まれて来た」
「しかし、アシュリーは一つの魂ではない。余分に魂を受け入れる等、一つの魂でも到底出来る事ではない。早く魂を手放すのだ。さもなければその体は……」
「手放すなんて出来る訳がない! 私の子供なんだ! リュカは私とエリアスの……!」
「こうやって生まれ変わってもアシュリーは変わらぬのだな……しかし、このままでは体が持たぬぞ?」
「だけど……!」
「努々忘れるな。そう長くは持たぬ。我が手を尽くしても尚だ」
「それでも……私はリュカをエリアスに……」
「ではセームルグを探し、その身に宿すのだ」
「セームルグ……白の石の……」
「セームルグなら何か出来るやも知れぬ。分かったな。セームルグを探すのだ」
そう言い残して、テネブレは黒の光の粒に変わって、私の中へと消えていった。
セームルグは生と死をつかさどる精霊……
だけど前世では私は唯一セームルグを宿す事が出来なかった。白の石を見つけ出してもどうにも出来ないかも知れない。
いや、そんな事を言ってる場合じゃない。リュカの魂を守る為、それは何とかしなくちゃいけないのだ。
次は白の石を、セームルグを探しにいく。
私は一つの魂で成り立ってはいない。双子の兄と魂を分けたからだ。
それは前世でも同じだった。
母の髪はそれは美しい銀の髪だった。この銀髪は、実は精霊の血を受け継ぐ者で、他の人よりも魔力に秀でている。
そして銀髪の部族同士で結婚をし、子供を産むのであれば問題はないが、他の血が混ざると、その子供は大きな魔力を持つ事になり、異常な力を宿して生まれてくるのだ。
いや、殆どが生まれる前にその大きな力に体が持たずに亡くなってしまうか、生まれてすぐに亡くなるか……
まだ魔力制御も出来ない赤子の時に魔法を暴発させて自身をも亡くしてしまう事等が殆どなのだ。
私と兄は今世も銀髪の部族と他者との子だ。
それが今世に生まれる条件となった。
母親の体内で、その魔力の大きさに命が朽ちてしまいそうになった私たちは、また体を二つに分ける事にして命を守った。そうしてしまった。
だから私と兄は、元は一つの魂なのだ。
前世でも同じようにして生まれたが、それは今世でも同じとなってしまったのだ。
だから強く、魂の半分である兄を求めてしまう。会いたくて仕方がなくて、心が、体が兄を求めてしまうのだ。
それはきっと兄も同じ筈で、兄は私をきっとずっと探している筈だ。
その半分の魂でリュカの魂を抱え込んでいるのにはやはり無理があったのか……
それでもリュカを手放す事は出来ない。
私はリュカをエリアスに返してあげたいのだ。そうする事がエリアスの心を救う事になるはずだから。
「リュカ、大丈夫だよ。必ずエリアスに会わせてあげるからね……」
リュカを抱きしめるようにして、自分を包み込む。
早くエリアスに会わなければ……
私の体が正常であるうちにエリアスに会わなくちゃいけない。
その前に白の石、セームルグを探し出さなくちゃ。
大丈夫。きっと大丈夫。なんとかなる。私は出来る。出来るはず。
自分に言い聞かせるように目を閉じて、それから大きく呼吸をして心を落ち着かせていく。
うん、大丈夫!
さぁ、次は白の石の元へ行こう!
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