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「それは無茶ということですな。では」と白衣をひるがえし出て行った。
原田は自分は医師に見放されたのかと、愕然とする。
「10月ってなにかあるんですか?」ドクターが去ったあと、話をきいていたナースが口を開いた。
「人生の一大事なのです。でも、それはもともと、叶わぬ夢なのかもしれない」
原田は、これからどうしたらよいのか途方にくれて言った。
「あの女性は恋人ではないの?」
救急車に一緒に乗ってつきそってくれた真理恵のことだろう、と原田はわかった。うっすらと記憶にある。でも、恋人なんてありえない。
「いや、会社の人です」
「そうかしら。ずいぶん心配していたみたいだけど。入院時にあなたの生活のことをざっと話してくれましたよ。彼女は、栄養学も学ばれているみたいだから、あの人のアドバイスに沿った生活がよろしいのではないかしら?」と、ナースはさらに追い打ちをかける。
もちろん、よろしいですわよ、と原田は思った。
これからも真理恵がアドバイスをしてくれるならば、だけど。
自分の水分と一緒に真理恵の好意も霧散した気がした。
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