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しかし、一件目の店の看板が見えた時、思わずハンドルを切り駐車場に乗り入れる。タイヤが悲鳴をあげたが全く気にしない。
たしかに原田の職場にはタイヤが山ほどあるのだ。
だから、タイヤが減ろうが、ぎすぎすに痛もうがおかまいなしであった。
それほど我慢できなかった。空腹なのだ。
この男 腹を満たせることのみに突き動かされていたのだ。
彼は出てきたアルバイトの店員に、一人だと告げると、席に向かった。さらに慣れたしぐさでパネルを操作すると、一気に、巻物を7皿注文した。
さらに寿司が流れて、いや、すっとんで来るやいなやそれを口に運んだ。テーブルの箱にきちんと収まっている箸を使いはじめたのは、5皿目からだっただろう。野獣のように咆哮しながら、醤油を飛び散らせ、すしを口にいれ続けたのだった。
店は平日ということもあり空いていた。原田はなんとかまわりをみまわせるほどに、常人レベルに意識が回復してきたのだろう。
幸せだ、それは、やっと原田に理性が戻ってきたときの感想であった。
その後さらに軍艦巻きをたのみ
「次はなにをたのもうかな?」
やっと巻物以外のものに思考が映ったときに、彼はわれに返った。
「やっぱりこのいきなりすし店より、むこうのすしジローのほうが断然うまいな」
と思ったのだ。
今から、いや、今ならここで止めて、向こうに移ることが出来る。合計20皿のうち、こちらですでに8皿たべていたとしても、むこうで13枚におさえればよい。なぜか1皿プラスされていた。
会計面での差額はないはずだ、と。
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