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原田は「心しておきます」と真理恵には言い、食後の甘いものは今日からはやめよう、と決意して引き出しから手を離す。
ヤングマンドーナツの消費期限を気にするのはやめた。
とたんになにか憑き物が落ちたようになった。
気が付くと机で弁当を食べる真理恵は一口ずつよく噛みしめている。
自分の弁当と同じものだった。自分のはすでに空っぽだったが。
ああ、と原田は充足感を感じた。
幸せだ。と思った。こんなふうに同じ弁当を食べられることのほうが、一人で回転ずしを梯子するより、かなり幸せだと感じた。
ビリー軍曹とは飽きるほど遭遇し、彼の言葉を一言一句暗記するほどだったが効果は出ているのだろうか? 腹は少しへこんだし、体重もやや減ってはきているが、0コンマ単位だ。
リバウンドもあった。リバウンドすると投げやりになる自分がいた。思わずコンビニに走ろうとする自分を必死に押しとどめた。
そんなつらい時、原田は秋の社員旅行に思いを馳せた。
常夏の沖縄での薄着の真理恵を妄想した。
しかし、ダイエットとは往々にしてうまくいかないものである。
季節は真夏になっていた。その年は酷暑であった。汗かきの原田はつい自販機で、コーラや炭酸ドリンクを買ってしまう。口当たりがよいのでがぶ飲みする。さらに、お客さんに差し入れされた缶コーヒーも飲んだ。
体重はいまや、Vの字を描き限りなく上昇し、もとの体重に近づきつつある。
「これはまずい」原田は軌道修正しようとした。
自販機で買う飲み物をイオン飲料に変えた。しかしイオン飲料とてカロリーがある。
どうにもこうにも体重が減らなくなった。
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