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その日、本店から商用で訪れていた金子賢人は原田の悩みを聞くはめになった。
「こういうわけなんですけどね、これ以上やせるにはどうしたらよいですかね?」
と自分の腹をタプタプとさせる。その腹を横目で見た賢人は
「やるべきことはやっているわけだしなあ、水太りかなあ」
と、一応原田の努力は認めるが、そのほかに打つ手はないのでは、と答えに困っている様子だ。既にもやしで増量したラーメンを自炊するなど、涙ぐましい食生活を報告されていた。
「走って通勤するというのはどうですか?」原田は起死回生の策を打ちだす。
マラソンランナーのスリムな体躯が原田の脳裏に浮かぶ。
「それは、そうとう覚悟がいるね。原田くんのアパートは、たしか、横堀町だったでしょう?」
職場までゆうに8キロあったのだ。
「では、先輩は、ぼくにこのまま頓死しろと?」
原田太は涙目になる。
「いいじゃない? 努力はしたんだだし。結果より経過でしょう。それに、沖縄では地元の人は海になんて入らないらしいよ。原田くんも泳がなきゃいいんだから。すっきりした半そでシャツとチノパンツの感じで通せば、ごまかせるよ。多分、の話だけど」
賢人は真理恵の鋭い観察力については度外視して、今や生存の危機に瀕している後輩の身体を慮った。
「すっきりとしたシャツ……」
そうか、と原田は思った。着ているモノで覆い隠すという方法はなんとかなるかもしれない。しかし、すでに夏は訪れている。
今でも十分薄着で仕事をしているのだ。
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