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展示してある車の手入れをする原田はそれだけでも、大量の汗をかき、そして、甘味料入りのドリンクを飲む。水太りは仕方なかったのだろう。
考えあぐね
「じゃあ、自転車っていうのは?」と、原田太は運命的な言葉を発してしまう。
「いいねえ! そのアイデア」金子賢人は無責任に言った。彼は実はこの季節は毎度のことなどだが、妻の体調のことを憂いていて、深く考えずに賛成した。
「でしょ?」
原田は尊敬する賢人先輩のいうことなら、無条件で実行するので、すでに心は自転車通勤にシフトしている。
原田は自転車屋で中古の自転車を手に入れた。もちろんバッテリーは搭載されていない、ママチャリである。フレームはピンクで可愛いかった。まあまあ、似合っていた。
梅雨があけるか開けない頃から、じりじりと酷暑が続くその年は、まさに通勤地獄な毎日だったが、それでも原田は必死だった。
着替えを持ち、会社とアパートを往復する苦行を始める。
その日も、炎天下の通勤を決行し、出社後は空調のない場所での仕事をしたためか、昼になっても体の芯が熱い気分で原田は休憩時間を迎えた。
いつものようにお弁当を差し出す真理恵に、青い顔をして
「吉村さん、今日はお弁当は遠慮します」と小声でいう。
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