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「テーブルチャージなんかは払わないしな。皿の数の合計で決まる明朗会計。2軒いっても食べる量が同じなら、お支払いも同じ」
それを分割するかどうかという問題なのだった。
店員を呼んで会計と言おうかと、コールボタンに手を伸ばしたとたん、目の前のレーンを寿司をのせた皿がしゅっと通過し、気がそがれた。
「あれは、ちらっとみたところ、納豆巻きだ」
「納豆か、納豆もありだな」
それにしても、一度でも爆食いしてことのあるものならわかるはずだ。
「空腹のときに少しでも何かを口にしたとたん、食べるのをやめるのは困難だ」ということだ。
原田がそのセオリーというか、その鉄則を破るには、忍耐が極端に不足していた。我慢と言う概念も微塵もなかった。
「もういいや。まずくてもいい。ここで、よしとしよう」
声が大きかったのだろう。
独り言を聞いて、むかいのテーブルの親子連れがびくりと原田をみた。
子どもが父親に「ここのお寿司まずいの?」と聞いている。
母親はキッと原田をにらんだ。その日は財布をはたいて奮発して回転すし店に来たのだろう。あんたに味の何がわかる? という表情だった。
いっぽう、少し腹がおちついてくると、自分はどうしてラーメン屋ではなく、こんな回転すし店に来てしまったのだろうと後悔をし始める原田であった。
あのいとしいラーメン。
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