ベリーベリーブラックベリー

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「そうですねえ。本当にぼくもそう思いますよ」ため息とともにこんな言葉が出る。 「じゃあ、お大事に」ナースはもう心はここにあらずの様子で、病室から出ていった。  原田は荷物をまとめ、といっても、空身で入院したので、寝巻やタオルは全部レンタルだった。入院時、気を利かした真理恵がもってきてくれた通勤用のデイバックを床頭台から引っ張り出した。  入院当日は点滴をうけ、意識ももうろうとしていた。  さらに真理恵は売店で、経口補水液を買ってくれておいてあった。  それらをバックに入れる。今朝まで点滴をしていたので、喉はかわいていないからだ。  いろいろしてくれたことは本当にありがたいが、真理恵なら、ほかの人が倒れたとしても同じように行動することは、原田の薄い脳みそでもよくわかっていた。  何もかも崩れ去ったような気がして病室を出る。 「ああ、またひとりなんだ」原田は寂しさをつくづく感じ、タクシー乗り場に並んだ。
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