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講義が終わり、お腹の虫が暴れだしそうだったので売店に向かう。そこで久しぶりに、例の友達に会った。
「久しぶりだね! 元気だった?」
「まあ、それなりに?」
「相変わらずスマホゲームしてばかりですか?」
「うっせ」
こんな当たり前のやりとりが新鮮で、心地よかった。
彼女はにこりと笑い、「あんまゲームばかりやってると彼女に振られっぞ」と意地悪な口調で言った。
「余計なお世話」
「はいはい、そうですかーーじゃあ、またね」
彼女はそう言って短く手を振り、俺に背を向けた。暫く彼女の後ろ姿を見ていると、数名の俺が知らない学生達の輪に入って行って楽しそうに笑い声を出していた。
そんな姿を見て、ばく然と、以前のように友達である彼女とスマホゲームをしながらだらだらと過ごしたいーーそう思った。
それから数日後、また友達と売店であった。だけど、どこか雰囲気が違う。
いつもパンツ姿でシンプルな服装だったのに、珍しく花柄のワンピースを着ていた。顔も綺麗に化粧され、耳元で揺れる小さなイヤリングがやけに愛らしく思える。
「なんか、印象が変わった」
「え、そう? 服のせいかな」
「いや……」
確かに服が変わったせいもあるかもしれない。でも、それだけじゃないように思える。
そういえば、数日前にあった彼女もどこか以前の彼女と比べ、何かが違った。
良く見ると、化粧で綺麗になったように見えたが、頬に多少あったニキビが無くなり、肌自体が見間違えるくらい綺麗になっていた。
陶器の人形のように白く、生まれたての赤ちゃんのように瑞々しい。
触れてみたいーーそう思うほどだ。
「お前、最近、キレイになった……?」
そう言うと、彼女は恥ずかしそうに頬を赤らめ、くしゃりと笑った。
「そういう冗談言えるようになったんだ」
「冗談じゃないよ。本当にそう思っただけ」
「ふふ、ありがとうーーじゃあ、もう行くね」
「あ……」
新しいスマホゲームの話、お前はもうインストールしたのか、前みたいに助っ人してくれないかーーそんな適当な話題を振って、彼女を引き留めようとしている自分がいた。
俺の様子に気付いた彼女が、眉を寄せ、小さく「ごめんね」と謝る。
「ーー彼氏が待ってるから」
そう言う彼女は、どこか儚げで、少しばかり悲しそうだった。でも、顔はとても幸せで満たされているように見える。
俺は彼女の言葉に声を失った。何も言わない俺の肩をポンと叩き、「今度さ、ダブルデートでもしますか」と冗談っぽく言う彼女に「しない」と、なんとか返事をした。
「ふふ、だよね!」
彼女は、そう言って手を振り、俺に背を向けて、少し離れたところで待っていた男の元へと駆け寄っていった。
一言二言会話をして、楽しそうに笑う彼女を見て気付いた。
「……お前も俺の好きなタイプだったじゃん」
誰に言うでもなく、一人虚しく呟いた。
どうやら大切なものに気付いたは良いが、それは、一瞬で消えていってしまったようだ。
後ろポケットに入れていたスマホのバイブが鳴る。しかし、それに手を伸ばす気がわかなかった。
どのくらいそうしていたか。
暫く、幸せそうな二人を後ろから眺めていた。
お前が綺麗になったわけがわかったよ。
遠くで蝉の声が聞こえ始める。
ジジジ、ジジジーーか細く鳴き始めた蝉に、夏の到来を感じたが、俺はどこか置いてきぼりにされたかのような孤独な気持ちを胸中に抱き、それを誤魔化すようにサイダーを手に取りレジへ持っていった。
おわり
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