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折檻するウイルスは
プアン、プアン、プアン、プアン、プアン。
鳴り響く警告音。
白塗りの壁面を赤色灯が血の色に染めていた。
ここは、極秘生物兵器を研究する中酷科学学院武漢病毒研究所。
表向きは中酷で起きる自然科学とハイテク総合研究の総本山。裏では、重症急性呼吸症候群(SARS)やコロナウイルス、H5N1インフルエンザ、日本脳炎、デング熱のウイルス、炭疽菌の研究のほか、そのデータを元に様々な病原菌を使ってコントロール可能な生物兵器を研究していた。勿論、極秘である。
中酷人民共和国の思惑は経済・権威で世界を牛耳ること。表向きは経済支援、裏では経済力を背景に強引な略奪と支配、それが中酷人民共和国の本質だった。
軍事による世界征服は、机上の空論。
発明や独自性と縁がなく、地道な努力を好まず、実りある人材、研究を金の力で我がものにし、または、不正に入手したデータを元に商品を製造し、安価な人件費を武器に安価な商品を世界に流通させ、経済的に急成長を遂げた盗人国家だ。
盗人猛々ししいとはよく言ったように潤沢な資金は、本来、国民のために使われる税金を、国内のインフラや生きる術に用いことなく、海外の優秀な人材や研究獲得、他国の政治家への賄賂、企業へ買収、自国企業への不明瞭な支援、中共党員の厚遇と高官の私腹を満たすのに用いられていた。
自国民の才能では、新たな物を作り出せない。いままでも、海外に派遣し技術や技能を習得させる政策は採られてきたが、国民の気質が他人の物は自分の物、という略奪が当たり前の国民性に腐敗や横領、自己過信、いい加減さの要素が入り交じり、それらを見事に打ち砕いていた。主席はそれを充分に把握し、略奪ほど効率的で効果的な方法はないと信じ、猿蟹合戦の猿を見事に演じて見せていた。
偉大な研究に与えられるノーベル賞の受賞を目指し、多大な国費を投入するも結果は出る所か「発見・発明・工夫」と言う概念がないことを思い知る結果となったのも彼の思考を強力に後押しすることになった。
楽して儲けよう、奪って儲けよう、それの何が悪い。
それが国民感情であり気質であると開き直ると前途が開けて見えた。賞を取れないのであればその賞そのものを乗っ取ればいい、その方が確実だ。
具体的にはどうすれば、願いが叶うのか?
それは、思ったより簡単だった。世の中は金でる。特に資本主義の世界では金を持ったものが持たないものを支配する。金で動かない愚か者は、弱みを握って脅し、支配下に置く。優秀な研究者、技術者のナンバー2を狙う。トップになれない、才能を評価されない者にターゲットを絞り、潤沢な資金を鼻っつらに垂らす。これは思いのほか上手くいった。
欲しいものは金と二枚舌を駆使して、相手を陥れ、手に入れれば、低姿勢で交わされた契約を高慢な態度で破棄し、都合のいいものに差し替える。自分たちで作れないものは高額な金額でも買うか奪い取る。そうして、フランスから手に入れたのが、病原菌の拡散を防止するための最も厳しい安全基準「P4」を満たす研究施設だった。
派手な動きをすれば世界の注目を浴びる。
この行為は、アメリカのCIA、イスラエルのモサド、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国(UK)のMi6などの諜報機関の関心を集める結果となった。
彼らは、無秩序で方法を選ばない民族性を熟知しており、フランスの行為を「未熟な者に高度なおもちゃを与えるものだ」と警戒を最高度に強めていた。その施設内で、警報器が鳴り響いたのである。騒然となったのは研究所の警備室だった。
「どうした?」
「ウイルスのコントロール研究室からです」
「カメラを切り替えろ」
「何だ?何があった?」
映し出されたのは、防護服を着た研究員の上半身を切断するように、開閉を繰り返す自動ドアの様子だった。
「大変だぁ、直ぐに救出に迎え。ああ、ウイルスが流出しているかも知れない。規定に従い防護服着用の二人で迎え」
「良し」
「研究室ブロックを封鎖する。マニュアルに従って研究員を隔離・検査させるように。念の為、マニュアルを確認してから向かえ、初めての事だ、慎重に行え」
「良し」
警備隊長の郭は、部下が救護活動を行う間に研究員の身元を調べた。もし、ウイルス感染ならその研究員の行動把握は必須だったからだ。
研究員は、陳孫明、三十三歳、研究所近くに住んでいた。隊長は所長に連絡したが不安が過ぎった。所長は武漢市の周先旺市長に連絡はするだろう。
どいつもこいつも中央本部の顔色を見るだけの腰巾着だ、真実は語らない、いや、事は起きたが迅速に対応した、収束に向かっているから安心してください、と嘘を報告するだろう。奴らにとって大事なのは自己保身。叱責を受けるような報告はすることはない。それがこの国の役人だ。
隊長は、密かに処罰覚悟で信頼の置ける陽文精探偵に陳孫明の行動パターンを依頼することにした。隊長を突き動かしたのは親友の死。SARSに注意を払っていた親友をだ。感染症を軽視するのは愚かなことだ、安全な場所でふんぞり返っている奴らに現場の恐怖感などわかるはずがない、その思いだった。
隊長は、陳孫明の上司と他の研究員と監視カメラに残された彼の行動をチェックした。陳は突然倒れ、しばらくして立ち上がり、ドアの開閉ボタンを押して再び倒れた。そこに救護班から連絡が入った。陳の死亡が確認された。
同席していた研究員たちは、戦々恐々。
直様、陳が担当していた新型コロナウイルスのチェックを全職員に実施した。出入り業者にも口実を設け、検体を集め検査した。検査には時間を要したが朗報はあった。新型コロナウイルスの潜伏期間が過ぎて新たな感染者が出なかったことだ。集めた検体からもその時点では陽性反応は検出されなかった。
武漢市の周先旺市長はその報告を安堵の思いで聞いていた。この安堵感が後に悲劇を拡大させる。
予断を許さない郭隊長のもとに陽文精探偵から報告書が届いた。その報告には陳の行動パターンが記されていた。忙しさが功を奏したのか行動範囲は極端に狭かった。唯一、麻雀屋に出入りし、機密性の高い職業柄、卓を囲む相手に注意を払っていた。そんな陳が心を許す存在に趙軍事がいた。趙は陳が亡くなって一ヶ月以上経っての発病だった。麻雀を打つ面子はほぼ決まっていた。卓を囲みながら、陳の話題は尽きなかった。二次、三次感染が濃厚になっていた。
趙は武漢一と呼ばれる共和医院の脳神経外科で1月7日に外科手術を受けていた。共和医院は、多くの武漢周辺の医師から中央本部に原因不明の肺炎が万延しているとの報告を受け、調査に入った病院だった。趙軍事は、新型のウイルスに感染していたらしいとの疑いが持たれていた。この時点で新型コロナウイルス肺炎の事実は公になっていなかった。それは、研究所も武漢市の周先旺市長も地方当局も「不都合」の隠蔽に走っていたからだ。
2020年1月19日、政府のシンクタンクである中酷工程院院士である鐘南山氏率いる専門家が、研究所のある武漢市の現状視察にやってきた。そこで医師たちの事情聴取から、1月7日に外科手術した趙軍事が術後、原因不明の肺炎に罹り、1月11日に亡くなった事実を知る。その病原菌こそが、新型コロナウイルスだった。
鐘南山氏一行はその事実を知り、急ぎ北京に引き返し中央に報告、始めて周近併は新型ウイルスの現状を知り、1月20日に「重要指示」を発布。
報告を怠った武漢市の周先旺市長を直様、逮捕。世界からの忠酷批判の拡散を恐れて、世界保健機関(WHO)の専門家委員会のディディエ・フサン委員長と会い、都合のいいデータを渡し、彼の目を凝視し、手を強く握った。
フサン委員長はそれが何を意味しているか、手に取るように分かった。その結果、世界保健機関(WHO)は24日、感染が国際的に拡大し緊急の対応が必要な場合に出される「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の宣言を人から人への感染が確認されていないことから、「現時点で国際的なレベルでの緊急事態にはなっていないと判断し、今はその時ではなく、緊急事態とみなすには早すぎる」と見送った。
その報告書は、中酷の思惑が盛り込まれたデタラメなものだった。フサン委員長からすれば、宣言で国際的緊張を発起させる恐れと、国際的やり取りで明らかな改竄・捏造などあり得ないと言う思い込みも絡み合い、まんまと騙される結果となった。
その時。既に分かっているだけで、趙軍事の手術や治療に当たった14人の医師や看護師が新型コロナウイルス肺炎に感染していた。従来の予防対策を取っていた医師、看護師の感染だ。とは言っても、中共高官と無関係の施設の現実は、物資不足、対応策のなさは当たり前。それも、院内感染を広めた可能性だと考えられた。鐘南山氏一行はその事実をありのまま周近併に報告した。
ここで明らかなのは、この時点で周近併は、WHOへの報告とは違い、人から人への感染事実を知っていた、と言うことだ。
趙軍事の行動追跡から武漢市の華南海鮮市場で感染したと考えられた。しかし、聴取から医師、看護師たちは華南海鮮市場に行っていない事が判明。では、なぜ、感染したのか?答えは簡単だった。趙軍事からの感染だった。
周近併は、それを知りつつ、人から人感染を隠蔽した。
中酷人らしい振る舞いだ。後先考えず動き、辻褄が合わず、迷走する。
周近併の迷走は武漢市の周先旺市長の迷走に酷似している。周先旺市長は新型コロナウイルスに関してインタビューを受けた際、「共和病院の脳外科がこの患者に対して入院前に新型コロナウイルスに感染しているか否かを確認しなかったのがいけないのだ」と語っている。これを受けて武漢政府は、人から人感染はないとして「十分にコントロール出来ている」と偽装工作し、ばれれば共和病院の対応のまずさが原因だと開き直り、責任逃れに必死な姿は中酷人の気質を象徴していた。
さらに、周先旺市長は19日に万家宴という人が集まる大宴会を開いていたことを突かれ、あれは昔からの庶民の慣習なので執り行った、と答えている。どこの国の役人も自分への評価が優先し、被災地、被害者より宴会を選ぶ神経のなさは似たり寄ったりで嘆かわしいものだ。
WHO(世界保健機関)は1月1月30日夜に緊急の委員会を開いた。その結果、テドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長は「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言をせざるを得なくなった。
テドロス事務局長は記者会見で、「感染が中国以外にほかの国でも拡大する恐れがあると判断して宣言を出した」と語り、次の5点を強調した。
(1)貿易や人の移動の制限は勧告しない
(2)医療体制が不十分な国々を支援する
(3)ワクチンや治療法、診断方法の開発を促進する
(4)風評や誤った情報の拡散に対策を採る
(5)患者感染者の病理データを共有する、と。
WHOは緊急事態の宣言を見送る一方で、テドロス事務局長がわざわざ中酷を訪問。本来、事務方とのやり取りが通常であるのに対し、何故か、今回は、周近併国家主席らととの密談の形式を取った。
テドロス事務局長は、中酷から巨額インフラ投資を受けるエチオピアの元保健相・外相であり、感染当事国と向き合い『公衆衛生上の緊急事態』に対処する司令塔には不適格であると疑われても仕方がない。事実、周近併は28日、北京を訪問したテドロスに『WHOと国際社会の客観的で公正、冷静、理性的な評価を信じる』と語った。要は、緊急事態宣言を見送るのは勿論、余計なこと言うな、言えば分かるな、と周近併がテドロスに圧力を掛けたと疑われても反論の余地はない。
その結果、テドロスは『WHOは科学と事実に基づいて判断する』と応じたものの『中酷政府が揺るぎない政治的決意を示し、迅速で効果的な措置を取ったことに敬服する』と賞賛し、的外れな発言を行うものとなった。
テドロスを突き動かすのは、祖国のエチオピアが中酷が推奨する巨大経済圏構想『一帯一路』のモデル国家とされる一方、膨大な債務にも苦しんでいたからだ。
国際機関のトップとして最も重要なものは権力、利権に屈しない中立性。弱みを握られた事務局長だからこそ、判断ミス、感染拡大に拍車を掛けたとも言えなくない。
アメリカのカード大統領は、いち早く動いた。
中酷全土への渡航警戒レベルを最も高い「禁止」に引き上げ、さらに過去14日以内に中酷に滞在した外国人の入国を2月2日から拒否。事実上の中酷人の出入国の拒否を表明した。嘘つき中酷と揶揄するカード大統領らしい、大胆な対応だった。他国も警戒を高め、中酷との間で出入国の制限を行う国は、60ヶ国以上に及んだ。
日本は、腰が引けているように世界からは見えた。被害を未然に防ぐのは重要だ。しかし、対策を強化すれば誤った情報が流れ、差別も生まれ、風評被害のような新たな被害を引き起こす。日本には明治から平成まで続いてきた旧伝染病予防法と同法に基づいた隔離重点のハンセン病(らい病)対策の失敗が重くのし掛かっていたのだ。
2019年4月某日、一人の男が武漢天河国際空港に降り立った。男の名は、ムハメド・アルサガ、イスラエルの諜報組織モサドの一員だ。
ムハメドは、中酷の細菌兵器の特定を命じられ、中酷科学学院武漢病毒研究所周辺を隈なく調査した。研究所は、機密性の高い建物だけに容易には侵入できないでいた。そこで出入りする人物を尾行し、それぞれの会話を収集し、可能性を精査した。
ムハメドは、情報集の為、研究所近くにある酒場に入り浸っていた。そこは、研究所の清掃員がよく出入りする場所だった。清掃員たちの愚痴をつぶさに記録し、親密になるための情報と方法を模索していた。
ターゲットは、決まった。清掃員を束ねる王李清掃長だ。
中酷には明確なカースト制度が現存していた。研究員からしたら清掃員はゴミ。給与、待遇は言うまでもなく天と地、いや、宇宙と地下。不満や嫉妬の巣窟だった。ウイルスはバイ菌。そこで好んで働こうとする者はいなかった。それだけに働く者たちの結束は固く、縁故関係の巣窟ともなっていた。ムハメドは、匠に王李清掃長に近づき、親交を深めていった。
「王李さん、聞いてください。政府の気まぐれで首になりそうなんですよ」
「よくある話だ、運がなかったと諦めることだな」
「それはないですよ、私の稼ぎを宛にしている親兄弟が泣きますよ」
「俺に言われてもな」
「ねぇ、王季さんは偉いんでしょ」
「ああ、まぁ、な」
王季は、いつも馬鹿にされたように扱われており、自分を頼りにし、持ち上げるムハメドに悪い気はしなかった。
「じゃ、私を雇ってください、お願いします」
「困っているのは分かるが定員があってな、空きがないんだ」
「もし、定員割れしたらお願いしますよ」
「ああ、ひとり欠けるだけで仕事量が増えるからな。まぁ、そんな事はないと思うが」
「残念だなぁ、知らない土地で家族のように思っている王季さんと働けたら、私はとっても、とっても、嬉しいです」
「そうか、嬉しいねぇ、良し、家族よ乾杯だ」
「おお」
この夜、王季は久々に気分良く酔いつぶれた。それから数日経った。
「清掃長、大変です」
「どうした?」
「宇航(ユーハン)が夕べ、暴漢に襲われたらしく、重症だと」
「なぜ、宇航が」
「仕事に復帰するまでリハビリや治療で半年程は掛かると言うことです。それだけではなく、ひょっとすれば後遺症が残って復帰はどうなるか…」
「そんなに酷いのか」
「そうらしいです。暫く、いや、忙しくなりますね、何とかなりませんか」
「俺にそんな権限はないのはお前もよく知っているだろう」
「それは…」
「まぁ、所長に話してみるよ、期待はするな」
王季は、ダメもとで所長に相談すると「勝手にしろ。人員が増えるわけではない。そんなことで相談に来るな汚らわしい」と、呆気なく承諾を得た。
腹立たしさより、所長の気が変わらない内に急ぎ人員を補充しないと、今の人員でやれ、と言われかねない、その方に焦りを感じていた。とは言っても、嫌われる仕事に二つ返事をくれる者など見当たらなかった。その晩、王季はいつもの酒場に自然と足が向いた。店に入ると先に来ていた清掃員たちと賑やかに会談するムハメドが目に止まった。そうだ、ムハメドだ。ムハメドがいるじゃないか。仲間の賛同も得やすい、うん、決まりだ、と、すぐ行動に移し、話を進めた。
「みんなの賛同を得て良かったな。でも、宇航が復帰するまでだからな、そこは分かってくれ」
「はい。一日も早い宇航さんの復帰を願っています」
「おい、ムハメド、宇航が早く復帰すればお前は首になるんだからな」
「あ、そうか、じゃ、宇航さんゆ~くり直してください」
「お前、面白い奴だなぁ、あはははは」
ムハメドは三ヶ月を掛けて、研究所への侵入に成功した。都合よく宇航が暴漢に襲われたものだ、と言う事は、知らぬが仏だ。
ムハメドは情報収集の為に冷たい視線や態度に屈せず、積極的に誰彼構わず話し掛けた。日々、異常も続けば、日常になる。頑なな態度の職員も日毎にその態度が軟化していくのが手に取るように見受けられた。
清掃員たちからすれば、話すのも臆する人たちと気軽に話し合うムハメドのキャラクターは羨望の眼差しに値した。
ムハメドは清掃員の立場を利用して、細菌の特定を試みるも、肝心な細菌があるはずのゴミは厳重に管理され、特定の者しか触れることさへできなかった。
しかし、ムハメドは耳寄りな情報を手に入れる。最近、研究員が激務に追われて苛立っていたり、規則を蔑ろにする行為が目立っていると言うことだ。
清掃員仲間からは、本来、指定の袋に入れなければならないゴミが、一般のゴミ袋に混ざっていることが多く、無闇に触れず、処理に困ることも多々あると言うものだった。その日から、監視カメラの死角を熟知し、一般ゴミを盗み出し、裏山で防護服を装着して、ゴミあさりの毎日を過ごしていた。実験器具、手袋、着衣、マスク、使用された薬品の空き瓶、空き袋など、手掛かりになりそうなものを片っ端に採取し、新品の手袋にそれらをこすりつけ、武漢市の海鮮市場に出向き、買い物をするふりをして、果物、野菜、魚、野生生物などこまめに手袋を変えながら、街の変化を観察する日々が続いた。
それらしき感染者がでれば、簡易ウイルス検査キットでウイルスを検出するだけだった。あとは、採取したものを本国に送ればいいだけだった。
なぜ、そのような調査がおこなわれるのか?
それは、中酷の開発する細菌兵器が使用された時に備えて、ワクチンを作るため。また、本国がターゲットであれば阻止するためだ。他国もきな臭い噂話の真意を探っていた。アメリカのCIA、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国(UK)のMi6などの諜報機関も人知れず、武漢に入り込んでいた。ムハメドの諜報機関は、財力や必要器具が圧倒的に少なかった。金は掛けるな時間を掛けろ、だった。
研究員たちの口は硬かった。肝心な所に話が及ぶと、上手くはぐらかされていた。かと言って、執拗く聞けば怪しまられる。直接、研究室に入れない以上、触れられる感染者を作り出すのが一番の方法だとムハメドは考えた。
ムハメドの所属する諜報機関は、目的達成のためなら手段を選ばないことで各所に恐れられていた。無関係の犠牲者が出てもお構いなし。ムハメドは忠実に任務に勤しんでいた。
ムハメドが来中してから早くも4ヶ月が経った2019年8月頃、武漢市の華南海鮮市場付近で原因不明の肺炎が万延し始めていた。患者は高齢者が多く、誰も気に留めていなかった。
そんなある日、売れ残りや調理した後の食品ゴミを入れた箱を裏口に置いておいた店の主・楊(ヤン)が、ゴミを漁っている野犬二匹を見つけた。
「この泥棒犬が。えへへ、罰として俺が食ってやるか」
楊は棍棒を手に静かに野犬に近づいた。その気配に野犬は気づき、歯を剥いて威嚇してきた。楊は怯む事なく、駆け寄り棍棒をひと振り。野犬はぶつかり合い一匹が逃げ遅れ、棍棒の餌食となった。
「これはご馳走だ。今晩はこれで腹を満たすか、酒が旨いぞ」
楊が背を向け立ち去るのを確認したもう一匹は、漁っていたゴミからひとつを物色してそれを咥え、裏山に消え去った。それから数日して、その楊の店から二件ほど離れた店の高齢者の主が突然、気を失うように倒れ、病院に運ばれたものの死亡が確認された。その患者を診察を手伝っていた李文亮医師は、専門外だったが武漢市の華南海鮮市場付近に広がりを見せる謎の肺炎を危惧していた。
2019年12月末、中酷のメッセージアプリ「微信(ウィーチャット)」に「武漢の人々がSARSに似たウイルスに感染しており、自分の病院でも患者が隔離されている」と言う投稿があった。それは「微信」でちょっとした話題となった。反響が広がる中、地方当局が知ることになった。
武漢市の周先旺市長も動かざるを得なかった。事が拡大すれば中央の知るところになる。それは失脚を意味していた。
直様、調査団を武漢の華南海鮮市場に派遣し、目立ち始めた肺炎の調査を行わさせた。その調査団の内の二人が、楊の店にやってきた。
「最近変わったこと、困っていることはないか」
「別にないね。あっ、そう言えば、最近、野犬が多いな、何とかしてくれ」
「野犬?」
「そうだ。この間も裏に出した生ゴミを漁りやがって。最も、二匹の内、一匹は捕らえて俺が食ってやったがな」
調査団は、正直安堵した。調査に出たものの何も見つけ出されないでは、周先旺市長に叱責される。調査団のふたりは顔を見合わせ、にたりと笑うとその場を立ち去った。まもなくして、市による野犬狩りが行われた。しかし、芳しい結果は得られないだけでなく、犬の死骸さへも見つからなかった。
武漢市の周先旺市長は調査団の報告を受け、自分の地位を脅かす投稿者に、怒りの矛先を向けた。
「あの投稿をした奴を探し出せ!私を陥れるような事をしやがって。二度と嘘の情報を流せないように懲らしめてやる」
翌朝、李医師の家にふたりの警官がやってきた。情報を入手した経路と情報を共有した理由を聞かせてくれ、と言うものだった。そう聞かれても李医師は、原因不明の肺炎が武漢を中心に広がりを見せている、としか答えようがないと職場へ出向く許可を警官に願い出た。それは聞き入れられなかった。
警官たちは、署で詳しく聞かせてくれの一点張り。ついに李文亮医師は、折れた。報告書に記載する際、専門用語や内容に誤りがあってならないから、確認して欲しいと言われたからだ。李医師が車に乗り込み暫くすると、両脇の警官が李文亮医師の両手を強引に拘束し、手早く手錠を掛けた。
「何、何をするんだ、外せ、直ぐに外すんだ」
しかし、両脇の警官は前方を見たまま身動きもしなかった。その雰囲気に殺気さへ感じた。署に無理やり連れて行かれると取調室に放り込まれた。そこに政府の要員らしき男が入ってきた。対面して座る男の顔は、何か怒りを込めた表情に思えた。僅かな沈黙は李文亮医師にとって、何時間にも感じた。背筋が凍りつとはこう言うことかと全身で噛み締めていた。
「お前は嘘の情報を流し、人民を陥れようとした罪で逮捕された」
「そんな、私は事実を言ったまでだ」
「まだそんな嘘を言いふらす気か、これは帰すのは危険だな。反省するまでここで頭を冷やすんだな」
そう言うと取調官は、部屋を出て行ったのと同時に、警官がふたり入り込んできて、李文亮医師は、強引に連れて行かれ、狭い独房に放りこまれた。次の日、取調官が独房に直接やってきた。
「反省、する気になったか?」
「反省も何も私は、何も嘘は言っていない」
「そうか」
取調官は扉を開けたものの一歩も独房に入らず立ち去った。看守が扉を閉める。湿った鈍い音は、生命の危機を感じさせる威嚇に聞こえた。それから三日ほど経った。たかが三日、されど三日。
考えれば考えるほど最悪な思い、考えが心も頭もを支配していった。冷静になれ、冷静になるんだ、こんな時だからこそ。奴らは、私に何をさせたいのか?したいのか?それを考えろ。考えろ。考えろ。自問自答の結果、囚われてた次の日、現れた取調官が言った、反省していないのか、と。
反省とは何だ?真実を述べることか?なら、奴らの言わせたい返答をすれば、ここから出られるのか、試してみる価値はある。
地元当局が過敏に反応するには、公になっては政府に不都合な事柄に抵触しているからか?そうだとしたら一刻も早くここから出る手立てを打たなければ。
そう考えると身の危険を犇々と感じた。今はここから出ることだ。それが駄目なら地獄だ、出口の見えない闇に引き込まれる。
そう結論づけた李医師は、疲れからか、一筋の光明が見えた安堵からか、深い眠りについた。悪夢に魘され、起きた。起きてもそこは闇だった。眠れない、目が冴えて眠れない。考えまい、考えまい、とすればする程、無駄に頭が冴えた。
考えるのは、悪夢の続きでしかなかった。気が変になりそうだ、いや、もうなっている。正義感など捨てろ、貝になれ、貝になるんだ、真実に関して。朝になり再び取調官がやってきた。
「反省は、したのか」
同じ質問だ。明らかに私を試している、李医師はそう感じた。
「はい、私の愚かさで、状況を見誤った事を強く反省しています。多くの人民にこの通り陳謝致します。また、今後、私の誤った思い込みを一切他言することはありません」
「そうか、今の言葉を噛み締めておけ。喜べ、解放してやる。但し、また、お前が嘘を風潮するようなことがあれば逮捕する。今度はいつでられるか分からないことを覚えておけ。今日から、お前には四六時中、監視が目を光らせるから油断はするな、それがお前のためだ」
「わ、わかりました。決して他言しない」
「その言葉を忘れるな」
「は・はい」
李医師は、「偽の情報をネットに流さない」という旨の誓約書にサインを強要され、応じるとその日の内に解放された。
後方には明らかに自分を監視する男がついて来ている。私服警官だろう。私は、貝になる。それが自分を、家族を守ることになる、そう強く心に刻み込んだ。
直様、自宅に戻ろうとしたが、諦めた。家族を危険に晒したくない、相手の様子を伺うためにも職場に戻ろう。きっと、この数日間のことを職場で聞かれるだろう。家族も同じだ。
ゆっくり、考える時間を作るためにも、李医師は病院に戻ることにした。
毎日のように見てきた風景が愛おしく思えた。病院に一歩踏み入れるとそこは病院とは思えないほど、騒然としていた。
「何事だ、まさか」
そんな不安を抱きつつも、現実を見聞きすると単なる不安では済まされない状況になっていた。人波を掻き分けて院内奥に入ると、同僚の医師が李医師を見つけた。
「李先生、大丈夫でしたか?私たちも誓約書にサインさせられましたよ」
「それは済まなかった」
「何を謝っているんですか、真実を言っただけじゃないですか」
「おい、発言に注意しろ。私には監視がついているんだから」
「そうですか、気をつけましょう」
そこに看護師が、血相を変えて割り込んできた。
「李先生、何をしてるんですか、早く手伝ってください。ああ、防護服を着てください、出来るだけ早く、さぁ、さぁ早く」
「いや、私は眼科医ですよ」
「何を言っているんですか、あなたは患者ですか医師ですか」
「医師だが」
「それなら資格はある。さぁ、手伝って」
「ああっ」
李医師は戸惑いながら、手洗い・消毒を施してから、防護服を着た。
《大変なことになっている。私が拘留されている間にもう、こんなにも患者が増えている。やはり、ただの肺炎じゃない、強力な感染症だ。なら、病院に入ってからここまで、患者にぶつかりながら、また、罵声の合間を縫ってきた。その際、皮膜感染しているかも知れない。こんなことなら、家族の元に戻っておくべきだった。この様子だと今度は病院に拘束され、当分、家には帰れないない》
そう考えると、後悔が胸を突き上げ、自分の不遇に大きなため息が漏れた。
李氏は新型コロナウイルスに関していち早く警鐘を鳴らしたが武漢警察によって圧力をかけられ、沈黙を余儀なくされた。
2019年12月末、中酷のメッセージアプリ「微信(ウィーチャット)」上で、李氏は同僚に「武漢の人々がSARSに似たウイルスに感染しており、自分の病院でも患者が隔離されている」と投稿し、懸念を顕にしていた。
投稿から数時間後、地元当局から「情報を入手した経路」と「情報を共有した理由」について尋ねられた。さらに数日後、李氏と同僚の医師らは「偽の情報をネットに流さない」という旨の誓約書にサインを強要された。
春節が、間近に迫っていた。
人民は、春節を前に安心を手に入れたかった。それに反して得体の知れない病の患者数は、一機に増加した。年が明けた。それでも患者数は収まるどころか、増加の一途を辿っていた。医師も看護師も謂れのない罵倒と受けながらも、懸命に患者と向き合っていた。病院への問い合わせの電話は、鳴り止むことがなかった。それは奇しくも春節を祝う爆竹さながらだった。心許ない問い合わせもあった。
「何をしてんだ、もうすぐ春節だ。家族に会うんだ、何とかしろ」
「こっちだって家に帰りたいわよ、でも、帰れないのよ」
不眠不休の対応に出た看護師は、忙しさと切迫で常軌を保つのも難しい状態だった。自分さへ良ければいい。他人は自分のためにある。そのような考えでは、混乱の終息など望める訳がなかった。
医師、看護師の人数が圧倒的に足りない。薬もない、適切な対応もない。四面楚歌に置かれた医師と看護師は、現状を世間に知らせ、政府を動かそうと微信(ウィーチャット)やダイレクトボイスで病院の現状を訴えた。当局を警戒して、あくまでも家族や友人への注意喚起として。
それは直様、武漢の住人やその情報を知った者からの当局批判となって返ってきた。流石に隠蔽していた武漢市の周先旺市長も何らかの行動を起こさなければ中央からの叱責は必至と言う状態に陥った。
周先旺市長は、同じ中央の役人である中酷科学学院武漢病毒研究所所長に相談を持ちかけた。生憎所長は留守だったがNo.2の劉(リィゥ)が対応に当たった。劉(リィゥ)もまた中央の役人だった。
「武漢で肺炎が流行っている。その原因を探れと世間が五月蠅くなってきてねぇ、何とかしたいが名案はないか?」
「それだったらSARSの時のように野生動物が原因だと答えれば、ガス抜きになるのでは?」
「野味か…。確かSARSの時は…」
「ハクビシンと何だったか…。まぁ、何でもいいさ。それが正しいなんてどうでもいい。原因はこれだ、と示せば、民は納得するから」
「そうだな、で、今回の野味は何にするかな」
「竹鼠でいいんじゃないか」
「あれ、旨いのにもう食えなくなるな」
「私は研究所でモルモットをよく見るよ。でも、食べたいとは思わない」
「食ってみればわかるさ、一度、試してみたらいい」
「遠慮するよ」
SARSの時、ハクビシンを始め疑われた野生動物は後日、無関係だと発表された。失態を顧みずまた、同じ手を使い、躓くことになる。
感染者らしき者が、街中で突然、倒れて救急搬送される事態が複数発生。亡くなる者も見過ごせる数ではなくなってきていた。隠蔽された情報が段々と明るみに出始めた。憶測、デマ、悪意の投稿も日増しに広がり混沌とし始めていた。
中央本部の発表は常に極端に低い値を記していた。現場から中央への救援要請が高まる、がしかし、反応がない。
病院スタッフたちの疲労困憊は限度を超え、個別の訴えが増加する。14人の医師がひとり一日に100人を診察している。それが毎日だ。そして、事態が浮き彫りになってから一ヶ月が経とうとしていた。
病院の至る所がラッシュアワーのように混みあっている。院内感染が懸念される。いや、最早、現実味を帯びていた。
武漢市閉鎖、ロックダウンだ。
その周辺地域の省(日本で言う県)も分断されていく。陸路も絶たれていく。人が集中する交通機関や飲食店、職場も人の動きはない。
ゴーストタウン。
そんな言葉が現実化している。それでも、中央の出す新型コロナウイルスの実態を表す数字は、被害状態に反して低いものだった。
モサドの調査員ムハメドも、中酷科学学院武漢病毒研究所に潜入したはいいが成果を上げられずにいた。いや、正しくは上げた。当初の任務は、新型ウイルスの特定だった。それは容易に手にれることが出来た。
病院で死者が出る。亡骸はビニール袋に包まれ、何体かが集まれば車でとある場所に運ばれていた。ムハメドはその車を追跡し、遺体安置所を突き止める。当初は、集められた遺体は直様、土を深く掘った穴に投げ込まれ、油を撒き焼き払われていた。しかし、次第に追いつかなくなり、放置されたまま日付を跨ぐこともあった。使えるものには興味はあるが使えなくなったゴミには興味がない。ぞんざいな扱いは、遺体の扱い方に顕著に顕れていた。そこからサンプルを採取する。本国に送る。任務終了のはずだった。しかし、本国の要望は単なるサンプル採取ではなかった。本国の欲するものは、通常考えられる以上の二次感染例を引き起こす者を指すスーパー・スプレッダーのサンプルだった。
諜報員にとってこんな厄介なものはない。どの遺体、感染者がスーパー・スプレッダーなのか?体の部位の変化、炎症などがあれば見つけられるかも知れない。現段階では、識別が出来ない。他国の諜報員も頭を抱えていた。
映画であれば、中酷科学学院武漢病毒研究所に奇襲をかけ、銃撃戦も止むなしで搾取するだろう。実際には、現実的ではない。絶対的な確証がない。下手に動けない。相手が否定しても否定しきれない状況を作る必要があった。
ムハメドは焦っていた。厳戒態勢が、空路や海路に及ぶようになれば、輸送手段が失われる。今の状況が続けば、遅かれ早かれ、隠蔽は効力を失い、最悪の状況が訪れるだろう。そう思うと、焦りの色を隠せないでいた。
アルコールの効きが悪くなり、自然と摂取量が増えた。その夜も酒場を求めて徘徊していた。中酷人の集まる店は避けたかった。ムハメドが苦悩していた頃はまだ、街中の厳戒は然程、目立つものではなかった。皆は知らないが、私は知っている、そこが如何に危険な場所かを。中酷人の集まる店は避けて行き付いたのが、外国人たちが集まる酒場だった。今は、SNSで情報交換し、旅行者が集う場所も簡単に探し出せる。ムハメドは物陰に隠れて、酒場の入口を注視していた。その中で白人が多く出入りする店を見つけた。
肌の色を気にする方ではなかったが、相手が気にしては新たな疲労感が生まれる。それでも今は選択肢がなかった。幸いなことに店内は薄暗く、スタンディングバーである一角が空いていた。バーボンを注文し受け取り、円卓に肘を付き、一口分、喉に流し込むと頭を抱え込むようにして、これからのことを思案していた。
「ハーイ、ひとり?悩み事?」
一瞬、空耳かと思ったが人の気配を感じ、声のする方を見ると白人の美しい女性が対面にいた。
「ああ、ひとりだが」
「私もひとり。じゃ、一緒に楽しんでいいかなぁ」
「ああ」
ムハメドは憔悴のせいもあり、酔の周りが速かった。元気であれば、あわよくばと思うが今はそんな気分ではなかった。白人女性は、一方的に自分は、世界を一人旅しているとか、初めての出会いを謳歌しているとか、それをyoutubeに上げて生活しているとかを羨ましくなるほど、はつらつとまくし立てていた。
陽気なその女性は、アメリカから来たアルティアと名乗っていた。ムハメドはアルティアの陽気さに感化され元気が漲るのを全身で確認できるまでになっていた。アルティアは、拒むムハメドに何かと理由をつけ、バーボンを競い合うように飲ませていた。すっかり、普段のムハメドに気分は戻っていた。
「そんなに俺を酔わせて、どうするつもりだ」
「それ、私の台詞よ。あんた、男だから私が酔ったら介抱してよね」
「俺が怖くないのか」
「なぜ?私はひとり旅が仕事みたいなものだから、人を見る目はあるのよ」
「その目は曇ってるぜ。早めに眼科に行ったほうがいい」
「へぇ~、ラッキーと思わないんだ、変わってるね」
「それこそ、俺の台詞だ」
「仕事は何を…、まぁ、いいか、そんなのどうでも。それより、そんなに飲んで大丈夫」
「ようく言うぜ。生憎、明日は休みだ、お気遣いなく」
他愛のないやりとりの間にバーボンが喉に流し込まれる。ムハメドは、中酷に来て始めて開放感を味わっていた。ムハメドに笑顔が増え、羽目を外しても神は戒めを与えないだろう、いや、寧ろ、苦労している自分に神がくださったご褒美ではないかと思うようになっていた。そんな心の変化を見透かしたようにアルティアが驚きの提案をしてきた。
「…そうなの。私たち気が合うみたいね。私の部屋に来ない、飲み直そうよ」
「初めて会った俺を誘うのか?」
「見た目に似合わず、野暮な事を言うのね。あら、見た目通りか」
「五月蝿い」
「初めて会ったって言ったよねぇ。私、一人旅が日課よ、毎日、初めて会った人ばかりよ。あなたが特別なわけじゃないわ。なに、モテたとでも思った。それなら、残念。私は一人旅の醍醐味を満喫しているだけよ」
「いつも、こんな感じで男を誘うのか?」
「そうよ、悪い。そうそう、日本の諺に、旅の恥はかき捨て、って言うのがあるの。私にぴったりよ。本当の意味は知らないけどね。そうそう、一期一会ってなものもあったわねぇ」
「俺も日本に一年程いたよ、大阪にな」
「へぇ、お仕事?」
「まぁな」
「大阪弁、私、好きよ。何か言ってみて」
「そうだな…武漢はもう、あかん。これからの事を思うと悪寒がするわ、ってね」
「おかん?って、お母さんのこと?」
「いや、怖い目に合いそうな予感がした時、鳥肌が立つ感覚かな」
「日本語の難しい表現ね」
「まぁな」
「ねぇ、もっと聞きたいわ。じゃ、続きは、後で。ここは、私が払うわ。気にしなくてもいいわよ。これからたんまり肉体労働をしてもらうんだから」
そう言うとアルティアは、半ば強引にムハメドを店から連れ出した。当初は、警戒していたがアルティアの開放的な性格に萎えていたムハメドの心は、癒されていた。
幾度か足元をふらつかせるアルティアがムハメドに寄りかかる。その際の肌の温もりがムハメドの胸を高鳴らせていた。
そうだ、これは真面目に働く私への神の思し召し、ご褒美だ。なら、有り難く頂くのが神への感謝になる。そう、ムハメドは自分に言い聞かせていた。
部屋に着くといきなりアルティアはムハメドを抱擁し、
「シャワーを浴びてきて、私、汗臭いのは苦手なの。これからかく汗は好きだけどね。私、待たされるのは嫌いだから早く出てくるのよ」
と、ムハメドの耳元に囁いた。シャワールームに向かうムハメドの背中に向けてアルティアは
「ガウンは私のだから。あなたはバスタオルでも巻いて。でも、すぐに剥がしちゃうけどね」
と、おどけて見せた。ムハメドは職業柄、うまい話には裏があると常々思っていた。警戒心が薄れる中、最低限の注意だけは払っていた。シャワーを浴びて出ると入れ替わるようにアルティアが入った。
ムハメドは、テーブルや部屋の様子を視線で探った。シャワーを浴びる前と後での変化を。行動に移さなかったのは、アルティアが直ぐに出てくると悟ったからだ。
それは的中する。一本煙草を吸う間もなく、ガウンを着たアルティアはシャワールームから出てきて、冷蔵庫から赤ワインを取り出した。振り向くとアルティアの左手にはワイングラスがふたつあった。そのグラスにワインを注ぎながら、ムハメドに近づき、横に並んで座った。
「じゃ、乾杯しましょ。素敵な夜に」
アルティアは、一気にワインを飲み干し、口元をガウンの袖で拭り、空になったグラスをテーブルの上に置いた。ムハメドはアルティアが何か細工をしないか見張っていたが、余りの手際の良さと大胆さに気を取られていた。
「何?飲まないの?疑っている?そんな悪い女に見える私。じゃ、いいわ、私の飲んだグラスに入れてあげるわ」
「いいよ」
「いいから」
アルティアは、空になったグラスにワインを注ぎ入れた。
「疑ったバツよ、一気に飲み干して。じゃ、改めて、チェーアズ」
アルティアのペースに飲まれムハメドもワインを一気に飲み干した。アルティアは中酷の食文化で驚いた話をし始めた。勢いよく話し続けるアルティアにムハメドは、「何しに来たんだ、ここに」と思いつつも、彼女の機嫌を損ねないように注意を払っていた。しばらくして、アルティアの声が遠のいていった。目覚めた時、アルティアは椅子の背もたれを胸に当て、椅子にまたがった状態でこちらを覗き込んでいた。
「やっと、お目覚め。この薬、思った以上に効くのね」
と、アルティアはムハメドに割られたカプセルを摘んで振って見せた。
「薬、だと、いつ、入れた」
「わからなかった。飲み干した時よ。口の中に仕込んだカプセルを歯で割って薬をグラスに注ぎ込んだのよ。口に残った薬は、直ぐにガウンで拭ったわ」
「何が目的だ」
「あなたモサドの諜報員でしょ、隠さなくてもいいわよ。ここ数週間、あなたを調べていたんだから」
「お前は」
「私、CIAよ」
「そのCIAが俺に何の用だ」
「目的は同じはずよ。それに困っている内容もね。そうそう、先に言っておくわね。この薬、48時間以内に解毒剤を飲まないと、あなたのご自慢の水鉄砲も心臓も使えなくなるわよ。寝てる間にご挨拶したけど、水鉄砲までも眠っちゃうなんてがっかりだったわ」
ムハメドはその時初めて、腰に巻いたはずのタオルがないのに気づいた。同時に両手は椅子の後ろ手に縛られ、両足は、椅子の両足に縛られ、手と足の括り目を繋がれており、身動きできないことにも気づいた。
「時間がないの、わかるでしょ。私たち、協力して任務を遂行しない」
「こんな真似をしておいてか」
「言ったわね、私、待つのが嫌いなの。押し問答している時間はないの。まもなく、空路も海路も街も封鎖されてしまうわ。それまでにウイルスを手に入れないと厄介なことになるわ」
「わかっている。それで俺に何をさせようと言うんだ」
「スーパー・スプレッダーを探せ何て無理よ、そうでしょ。だったら、研究所にあるウイルスを頂くしかないじゃない。でも、侵入するのは無理。でも、あなたは潜入してるわ。あなたなら出来るでしょ」
「出来るなら、もう、やってるさ」
「そうよね、でも、出来ない。だからお互い力を合わせようってこと。私はあなたが盗み出せるように薬と逃走を手助けする。あなたは、作戦通りに実行する、ただそれだけよ」
「分かった議論の余地はないようだ。話してみろ、その作戦とやらを」
「飲み込みが早いのね、あっちの方も早いのかしら、うふふ」
「無駄口を叩くな、時間がないんだろ」
「そうね。あなたは所内に詳しいでしょ」
「ある程度わな。しかし、研究室には入ったことがない」
「ええ、知ってるわ。ほら、ここに見取り図があるの」
アルティアは、フランスから入手した研究所の設計図を広げて見せた。
「地下のこの部分にウイルスはあるはずよ。以前、研究者が謎の死を遂げた場所よ。その死は私たちが求めているウイルスが原因。あなたはその部屋に出入りできるターゲットを絞り込み、薬を与えるの。ターゲットが研究室に入ってから薬は効き始め、倒れる。救護班が向かう。医師と助手のふたりでね。その助手と入れ替わるの、除菌室を通るタイムラグを使ってね。防護服を着ているから分からないわ、顔を合わせなければ。冷静ではいられない緊迫な状態だし。救護に向かって研究室に入れる状態で医師を眠らせて、ウイルスを奪うの」
「監視カメラがあるだろ」
「警備室の者は、ただ見守っているだけよ。救護のタイミングで私が事前に吹き込んだあなたの声で警備担当者に連絡を入れる。気をそらしている間に除菌室に入れば、担当者は気がつかないわ。あとは、いつもの清掃員の服に着替えて堂々と正面から出ればいい。後は私が車で拾うわ」
「そんなことなら俺、ひとりでもできるよ」
「じゃ、なぜ、やらなかった?」
「手に入れたウイルスを持ち運び、母国に安全に輸送なんて出来ないでしょう。でも、私たちは出来る。ウイルスの解析もね。勿論、ウイルスはあなたにもプレゼントするわよ、安全な形でね。それが嫌なら、二つ盗み出すのね。その後、あなたの望む場所まで送り届けるわ」
「俺が裏切るとは思わないのか」
「思ってるわよ、だから、薬をプレゼントしたのよ。解毒剤は、ウイルスの真偽がなされたら担当の者が渡してくれる手はずよ。あっ、そのウイルスの真偽に6時間ほど掛かるって言ってたわね」
「有難う、6時間も短くしてくれて」
「決行は明日よって言っても、現実には今日か」
「分かった。遅かれ早かれ、パンディミックが起こる。俺も感染しているかも知れない。選択肢はないってことか」
「私も同じよ。あなたと過ごして濃厚接触もしている、粘膜接触はしていないけどね」
「同じ貉ってやつか」
「よく知っているわね、私たち同期の桜よ。咲くのも同じ、散るのもね」
「分かった、やるか」
「そう、成功したら、性交してあげるわ、ご褒美にね」
「お前は、馬鹿か」
同意を得たアルティアは、ムハメドの緊縛を解いた。ムハメドは服を着て冷蔵庫から缶ビールを取り出し、一気に飲み、アルミ缶を握りつぶし、テーブルに置いた。
「ターゲットは決まっている。飲ませる薬を渡せ」
「これよ。強力な睡眠薬よ。あなた自身が経験したから分かるわね。摂取してから一時間程で効き始めるわ」
「じゃ、私は防犯カメラの死角のこの場所で待っているわ」
そう言って、地図を指さした。アルティアは車でムハメドを宿舎に送り届け、後は、実行を待つのみとなった。
「やぁ、浩然(ハオラン)さん、おはよう。何か顔色が悪いんじゃないか、これでも飲みなよ、栄養ドリンクだ」
ムハメドは、2本の栄養でリンクの栓を目の前で開け、一本を浩然に渡し、自分の分を一気に飲み干して見せた。それで安心した浩然も一気に飲むとその空き瓶を「捨てておくよ」と言って回収した。
ムハメドは、浩然と歳も近く、事前に友好を深めてあった。勿論、それだけではない。浩然は、ムハメドが一番最初に出会った研究員の犠牲者、陳孫明の後継者だったからだ。陳孫明は、原因不明の突然死として隠蔽されたのは言うまでもなかった。
中酷科学学院武漢病毒研究所の管理体制はずさんだった。実験で使用した動物は時として一般ゴミに紛れて外部に出る。
ある時、陳孫明がゴミだしに行った際、そこに野犬がいた。威嚇され、思わず手にしていたゴミ袋を振り回した。中に入っていたゴミは散乱。何かに滑って転び、実験動物ゴミに触れる。その手で口についたゴミを取った。この出来事の後、研究所内は殺菌処理され、清掃員には注意喚起のビデオとして見せられていた。そのビデオは、今は廃棄されている。
陳孫明は麻雀店に出入りし、趙軍事に感染させた。趙軍事は医師、看護師に感染させた。麻雀店に出入りしていた客は、華南海鮮市場にウイルスを拡散させた。ウイルスは疾病持ち、高齢者を媒介し、その家族、生活区域に感染を広げた。
華南海鮮市場には、野味に興味を持った欧米人や香港人などが観光に訪れていた。その内の香港人の高齢者が豪華客船内に感染させた。初めて世界が確認したスーパー・スプレッダーの存在だった。その検体は、その国の医療機関研究所に送られたが、レベル4の研究所はなく、担当者たちは、細心の注意を図り行動はしていたが、
病気の原因に全く目処が立たず、スタートラインにも立てない状況だった。
ウイルス感染は、武漢を中心に近隣各省に広がっていた。その事実を公にしない中酷は、隠蔽に躍起になっていた。しかし、人民の不安は中央政府の不安へと変化し、「微信(ウィーチャット)」やダイレクトボイスの流出で、世間が怪しげな病気として明るみに出始めた。
隠蔽に限界を感じた中央政府は感染者数を発表するが、感染力からは推察できる被害数値を大きく下回っていた。中央政府は、新型コロナウイルスの死者数を病院で亡くなった者に限定。その中には、疑わしいもの、自宅で亡くなった者は含まれていなかった。
アルティアもムハメドも知っていた。患者の受け入れ態勢が軟弱な現状で、疑わしき者は出来るだけ対処するが、感染者には自宅治療を促すしかなかった。
医師や看護師は中央政府への対応の遅れと不満を進言し始めた。その多くが偽の情報を流し、人民を困惑させた罪で拘束、勧告を受け、投稿は削除され、真実は徹底した情報管理の中で闇に葬られていく。
手を結ぶはずのない諜報員が手を結ぶには、パンディミックの恐怖が現実味を帯びていたからだけでなく、サンプルの提出要求に中共は応えることなく、渋々提出されたサンプルも実際のものではなく、専門家が見ればすぐに分かるような、過去のサンプルに手を加えたようなものだったからだ。
警備室は、研究室の異変に気づいた。研究員の浩然(ハオラン)が倒れたからだ。直様、医師を派遣した。医師は、助手と共に研究室に向かった。一人づつ除菌室を抜け、防護服を装着。医師と助手には除菌室を通過する関係で生まれるタイムラグがあった。「先に行く」と除菌を終えた医師は、助手を残し、研究室に向かった。その後、助手も除菌室に入り、防護服に着替えよとしたその時、背後から何者かに掴まれ、くるっと体を回転させられるとみぞおちに強い衝撃を受け、悶絶し、気を失い倒れた。
ムハメドは、俯き加減で医師に近づいた。医師は助手が来る前に生存を確認しており、直様、助手に運び出すように命じた。医師は「まだ、息がある、隔離室に移すから準備を頼む」と警備室に連絡を入れた。
警備員は、浩然の息があることに安堵し、隔離室の待機要員に連絡をいれ、監視室内の監視カメラに目を移した。そこには助手が、浩然との接触を限りなく避けるため引きずる姿が映し出されていた。その時、警備員の林の携帯が鳴った。出るとムハメドからだった。送信主は、ムハメドの声を再現できる音声装置を使ったアルティアだった。
「どうした、ムハメド?」
「済まない、大事な鍵をそこに置き忘れた、探してくれないか」
「今、それどころじゃない」
「どうした?」
「今、話している時間はない、切るぞ」
「待って、待って、隔離室を使うか?」
「ああ、それがどうした?」
「その鍵を所定の場所に置き忘れたんだ」
「なんだって!それでどこだ、どこにある鍵は?」
「昨日、清掃した時に警告音がなって動転して、ああ、どうしよう、返そうと思って警備室に立ち寄った時に置いたのを忘れたのを思い出して。私、今日は休日で家なんだ。そちらに行けないよ。ああああ、ばれたら首だよ、頼む探してくれ」
「落ち着け!仕方ない、探してやるどこだ?
「確か、モニターの後ろの棚だ」
「待っていろ、直ぐに探す、その鍵は今必要だからな…ないぞ、どこだ」
「ほら、そこに確か青いファイルがあるだろ、その当たりだ」
「ないぞ」
「あるはずだ、早く頼むよ、医師が着くと怒られるよ、早く、早く」
「分かった、落ち着け、どこだ、どこだ、本当にファイルの近くか」
「えーとえーとえーと、あっ、そうだ、そうだ、こんな所に置いちゃダメだと思って、そうだ、そうだドアの近くの冷蔵庫の上だ、そうだ、間違いない」
「冷蔵庫だな、よし、待ってろ。あったぞ。私が届けてやる安心しろ」
「有難う」
警備室は、二人体制。一人は医師の元へ。残っていた林も鍵を届けに向かい無人になった。その様子をムハメドが情報収集にと仕掛けておいた隠しカメラで確認したアルティアは、助手に扮したムハメドに携帯無線で伝えた。それを受けムハメドは、テーブルの上にあった実験用のウイルスの入った試験管とパレットを衝撃に強く、密閉度の高い特殊な素材でできた袋に入れ、盗み取ることに成功した。ムハメドには用意できない高性能な品だった。
ムハメドは、眠らせた浩然と一緒に除菌室に入り、出ると医師が「遅い」と怒り狂っていた。防護服を着たムハメドに変わり、鍵を届けに来た林が防護服に着替え「鍵はここにある」と言って、浩然を隔離室へ車椅子に乗せ、運び込んだ。
その隙にムハメドはトイレに入り、私服に着替え、何も知らない門衛にいつものように陽気に挨拶し、研究所を抜け出した。この日はムハメドの休日。ムハメドがいないことは他の清掃員には当たり前のことだった。これが勤務日なら厄介な事が増えただろうと、ムハメドは安堵感に包まれていた。ムハメドがこの日、研究所を訪れた事が明らかになる頃には、捜索不明となっている。
アルティアは、ルームミラーでムハメドを確認するとエンジンを掛けた。ムハメドを載せた車は、アルティアの仲間の元へと向かった。
「よくやったわね、ご褒美をあげなきゃね」
「それは、それ。解毒剤を忘れるな」
「大丈夫、さぁ、急ぎましょ」
二人を乗せた車は、ある倉庫に入り込み、シャッターが閉じられた。そこには大型のトレーナーと数人の防護服を着た男が待っていた。アルティアは、ムハメドから受け取った袋をその男達に渡した。すると、「少し我慢してくれ」と告げられると車窓から消毒スプレーが放射された。
倉庫にはふたつソファーが離され置かれていた。二人はそれぞれそのソファーに横になり、6時間を過ごした。
「起きろ」
その声にムハメドは目覚めた。
「任務は完了だ、さぁ、約束の解毒剤だ、受け取れ」
ムハメドは手渡されたカプセルを一気に口に放り込み、同じく渡されたペットボトルの水を飲み干した。
「それと、このケースは君の分のウイルスだ。安全に隔離されている。協力に感謝する。ただ、君は保菌者かも知れない。君も知っているように潜伏期間がある。それを知っていて解放するわけにはいかない。そこでだ、まず、日本にある米軍基地に用意した隔離施設で24日間、様子を見ることになる、了承してくれ。長目だが君たちは、武漢の中心地で濃厚接触をしているからな。君の安全を考慮してのことだ、我慢してくれ。間違いなく陰性であると分かれば、君の希望する所へ送り届けるよ」
「感染しているのか」
「いや、簡易検査では君もアルティアも陰性だ」
「分かった。アルティアも隔離されているのか」
「ああ、別の棟にある隔離室でな。お楽しみはお預けだな」
「…」
「君の手に入れたウイルスを君の本国に送るかい?それなら手配するが」
「ああ、頼む」
「では、早速、手続きに入る。外交官特権を利用して安全に送らせるよ。じゃ、あとでPCを届けさせる。そこに宛名を打ち込んでくれ。君の母国の言語に対応している。それとメッセージがあれば打ち込んでくれ。プリントアウトして、一緒に送るから。USBは信用できないだろう、ウイルスが仕組まれているかも知れないからな。だから、手紙にしてもらう。結局はデジタルよりアナログが信用できるのさ、このような事態ではね。ああ、それと私たちに読まれる可能性はあることを配慮してくれ。申し訳ないがその点、含んで貰いたい。信用大事だ。ここでお互いを疑うようでは、新たな危機を招く恐れもあるからな。それは、避けたい。ああ、それと宗教上、または、嫌いな食べ物があれば、一緒に打ち込んでおいてくれるかな。食事しか楽しみはなくなるからね、大事な要件のひとつだ」
「わかった」
暫くして、ムハメドのもとにラップで覆われた1台のノートパソコンが届けられた。そこには1時間程で回収に来るとのメモ書きが添えてあった。
「書けたかい」
「ああ」
「無事、潜伏期間を過ごしてくれることを願うよ。そこからは自由だ。パスポートもこちらで用意しよう」
「助かるぜ」
「不自由は掛けるが出来ることはする。何でも言ってくれ。連絡はあの固定電話を使ってくれ。あと、出歩く事は出来ない、テレビは日本の番組だけだ。ネットは秘密漏洩が付き纏うので使用できない。日本のニュースは、中酷のスパイに操作されていることもあるから注意しろ。隠蔽したいことと世間の知りたいこと、視聴率の狭間で真実は浮き上がってくる。それを見極めることだ」
「どこの国もメディアは、真実を伝えがらないな」
「そうだな、困ったものさ。あっ、それと分かった、いや、分かったかも知れない事を教えよう」
「何だ?」
「君たちの任務は途方に終わるものだったかも知れないってことさ」
「どういうことだ」
「はっきりした事は言えないが、スーパー・スプレッダーは感染した者の何かと反応し変異したのではと言うことだ。君たちが奪取してくれたサンプルは、濃度は高いものだったが症状は重くなるが感染力が増すには、何かが足りないと言うことだ」
「何かって?」
「軍人の俺に聞くな。化学式を教えられても分かる訳がないだろう」
「俺は、分かるぜ」
「そうか、朝食に気をつけろ」
「じゃ、昼食を二倍出してくれるか」
「減らず口め」
「心配するな、私も分からいさ、本当わね」
「命を粗末にするな、冗談が通じない奴など、ごまんといるからな」
「アドバイスをありがとう」
「まぁ、いい。それなりに長い付き合いになる。できれば、いい関係を築きたい、お互いの為にな」
「分かった」
「それでいい」
ムハメドは、部屋に設置されたテレビから日本のニュースで、アメリカでもインフルエンザが猛威を奮っていることを知った。今回の新型コロナウイルスとの関係をムハメドは疑っていた。
日本の米軍基地に着いて思ったことは、アメリカは今回のウイルスに関して準備を終えていたことが基地の様子から感じ取れた。隔離病棟、備蓄された食料、消毒の徹底、防護服の確保など、急場凌ぎとは思えないほど整っていた。これが大国か。そう思い知らされた。
日本のニュースを見る限り、米軍基地の対応は完璧に思えた。どこの国もそうだが最前線の軍には最善の処置が優先され、国民は後に回される。それを踏まえても、日本の対応の鈍さは中酷のスパイが各機関に浸透し、大きな影響を与えているに違いないと思わざるを得なかった。
今更ながら日本はスパイ天国と揶揄される平和ボケに、同じ大国でも仕掛ける者と仕掛けられる者との違いをまざまざと見た思いがした。
中酷と癒着が疑われるWHOの発表とは異なり、パンデミックの恐怖が各国を席巻し始めていた。中酷人の入国禁止、いや、それはアジア人にまで広がりを見せていた。人々の心の奥に潜んでいた人種差別の牙が顕になり始めていた。
明らかになっている情報では死者の多くは、中酷人かその者に関わった者に限られていた。憶測が流れる。
中酷が、アメリカや日本などに散布する目的で作られた新型ウイルスをアメリカが手に入れ、特に東洋人に蔓延するように改良されたものではないか、とか、米中の貿易戦争、5Gの覇権争いのための生物兵器戦争だとか、真偽を疑いたくなるような情報が好奇心を刺激的に掻き立てていた。
白人至上主義者が少なくない欧米人には、東洋人の識別など出来ない。自分たちを脅かすニュースは、今まで燻っていた有色人種への差別意識が、日に日に露呈させていた。
ムハメドは、暇を待て余していた。
中酷の情勢が知りたい。早速、連絡用の電話で要望を伝えた。係りのエドワードが態々、来てくれた。強化ガラス越しの電話でのやり取り。まるで、拘置所のように。
「情報を知りたいんだって」
「ああ、テレビで見る限り大変なことになっている、が詳細は分からない。そこで、ネットでのニュースを知りたい」
「なぜだね?」
「夢に魘されるんだ。無事、ここを出ても、そこは地獄のね。まるで、リアル・バイオハザードの中に放り込まれるような」
「…OK。ネットで新型コロナウイルスのニュースを拾い上げてやるよ」
「Thank you。出来るだけ詳細を知りたい。面倒を掛けるが真偽の是非は問わない、片っ端にお願いしたい。現地の者による投稿はより有難い。言語は問わない。ただ、記事は英文で願いたい」
「知っての通りネットは使えないから、動画と記事をUSBに取り込み、毎朝、渡してやるとするか。それでいいか」
「助かるよ、手間を掛けて済まない」
「いいさ、じゃ、早速、第一弾を用意してやるとするか」
「信じてるぜ、隠蔽のないことを」
「何が隠蔽で、何が真実なんてわからないさ、自分で判断するんだな」
それから小一時間もたっただろうか、エドワードがやってきた、ラップのかかっていないノートパソコンを片手に。それを食事を運び込むベルトコンベアに載せてくれた。このベルトコンベアは出るときは除菌室を通るが、入るときはそのまま運び込まれる仕組みになっていた。
「存分に楽しむがいいさ。拾い上げていて、俺も興味を持ったよ。時間が許す限り、youtubeやネットニュースの記事を取り込んでやるよ。寝不足になっても知らないからな」
「幸い、時間制約がないから好き勝手に楽しませて貰うよ」
「明日からは、USBのみを差し入れるよ、好きに見てくれ」
「済まないな、面倒を掛けて」
「お前、日本人みたいだな。いちいち礼を言う何て」
「大阪で暮らしていたせいかな?軽いカルチャーショックさ」
「そうか、面白い記事も入れておいたよ。まぁ、楽しむんだな、じゃ」
そこには夥しい動画と記事がダウンロードされていた。一体どうやってこんな短時間にこんなに集められたんだ、とムハメドはエドワードの手際の良さを頼もしく思った。なぜかその対応に親近感さへ覚えていた。
真偽の程は多岐に渡る情報から想像するしかなかったが、辻褄の善し悪しで見当をつけていた。
一方、エドワードも情報集に興味を掻き立てられていた。同僚に暇があれば動画や記事をダウンロードするように頼んでいた。同じものがあれば、スキップが表示される。そうしてまとめた物をエドワードは、ムハメドに渡していた。
ニュースを見る限り中酷は映画で見たバイオハザードの様子を呈していた。ここにゾンビでも現れたら映画そのものだ。ゾンビではないが中酷人にとれば、マスクをしない無防備な者がそう見えているのに違いない。
中酷にとって深刻な問題は幾多もあった。借金漬けにして他国を支配する方法は、世界からの非難を受け始め、それを機に世界を中酷化し、完全支配下に置く計画も世界の目が厳しくなっていた。5Gの覇権争いに勝ち、サイバー攻撃と言う最もコストパフォーマンスのいい支配権も、アメリカの強力な妨害によって進捗状況を鈍化させていた。そこに、日本のNECと最大手移動体通信事業者を展開する企業がタッグを組み、6Gを完成させた、と言う知らせが。
EU離脱で混沌とする英国(UK)は、中酷が実質管理するフィーウエルとの提携を発表。UKの発表に驚き、怒りを顕にしたのは、カード大統領だった。
アメリカのドナルド・カード大統領は、大胆な発言と行動力で世界を何かと震撼させていた。SNSで自分の考え思いを伝える。それは、マスコミ、メディアが中酷の金に腐敗し、真実を伝えないからだ。達成事項は報道されず、躓けば批判に没頭してくる。SNSで賛否両論を聞き分け、事案の優先順位を決め、行動していた。この後、SNSが大きな障害となる事をカードは知る由もなかった。
思いつき外交と揶揄されながらもカードの発言力は、注目を集め、間違いなく、世界の対応の動きは早まっていた。既存の常識を覆すやり方に世界は、薄氷を踏む思いで対応を迫られていた。
中酷は、カードの手法にフェイクニュースを流すなどして対処していたが埒が明かず、経済活動に大きな影を落としていた。。
アメリカを失速させたい、その思いが生物兵器の使用を早めた。ムハメドが中酷で得ていた噂では、コストパフォーマンスのいい生物兵器は2019年4月には完成されていた。当初は、天安門事件の再来を予期させる、膨れ上がった高齢者人口を削減する1億人粛清計画のためのものだった。優先順位が繰り上がったのは、目障りな国への攻撃。貿易赤字と知的財産権の保護を理由に圧力を掛けるアメリカ、発展途上国への支援で争う何かと目障りな日本。インフラへの投資、新幹線の導入、特に新幹線の案件では、横槍を入れ当該国の重要人物を賄賂で撃沈。玉虫色の契約で横取りするも工事は進まない。中酷にとっては、工事を行うことでなく、日本の契約を封じること。その意味では、契約を取り付けた時点で任務は完了。工事など興味がない。相手が文句を言ってくれば借金漬けを盾に圧力を掛ける。そこへ、事勿れ主義の日本が牙を剥いてきた。発展途上国への締めつけは国際問題として取り上げられるまでに。小国日本が目敏くなっていた。
このタイミングで発生した中共が発令した逃亡犯条例の改正案に対する香港でのデモ。香港での容疑者を中酷に引き渡す事項が含まれており、民衆の自由と人権がなくなる恐れが発覚し、世界の注目を中酷は浴びてしまう。
似たようなデモが2014年に反政治デモ『雨傘運動』があった。
一国二制度は建前。香港の選挙には民衆の殆どが参加出来ず、中酷に対して不平不満の声を上げれば、人知れず拘束される。中酷は、香港制圧に四苦八苦していた。その間、各国の関心が集まり、中酷への批判が高まり、香港の制圧が最優先の解決事項となった。
ずさんな管理、その場凌ぎの対応、環境汚染・衛生面の悪化、貧富の差による不満などに足元を掬われ始めた中酷。国土は広いが土壌の悪さや資源不足、人口の増大の焦りは、他国・自国人民に対して、より強固な威嚇行動に突き進ませることになる。
中酷科学学院武漢病毒研究所から流出した新型コロナウイルスは、研究所のある武漢を中心に広がりを見せ始めていた。メッセージアプリ「微信(ウィーチャット)」に「武漢の人々がSARSに似たウイルスに感染しており、自分の病院でも患者が隔離されている」との投稿が寄せられ、話題となり反響が拡散した。中央政府は揉み消し、隠蔽に躍起に。投稿者、その周辺の口止め。記事、アカウントの削除。鼬ごっこは、民衆にリードを許す。隠しきれなくなった中央政府は、被害の過小報告を発表。病院で亡くなった者はカウントし、重傷者を病院外に放り出し、自宅などで亡くなった者はカウントしない。政府の都合を上回る数字になれば、原因不明の死として黙殺。小手先の数字合わせは、拡散の勢いに反比例し、人民の中央への信用度は落ちていく一方だった。
中共工作員がウイルスを使った香港に立ち寄った人民が、発症した。その症状や渡航歴を隠蔽し、感染者は何食わぬ顔で「万家宴」に参加。「万家宴」は、春節を祝う大宴会だ。1月18日に、武漢で行われた春節の到来を祝い、各家庭が自慢の手料理を持ち寄って皆で食べるという中酷南部の伝統行事。4万世帯以上が参加した。この時、武漢市当局は41人の感染を発表し、国内には、人から人への感染は排除できない、としていた時期だった。しかし、宴会は、忠告を無視し予定通りに行われた。この時期の開催を黙認した武漢市当局への批判は、人民の怒りを買った。
感染者はスーパー・スプレッダーとして確認されているだけで十数人に感染さ、二次感染、三次感染、表に出てない保菌者を考えれば、ウイルス拡散として最悪な結果を招いた。注目すべきは、国内で広がりを見せ始めたウイルスより感染率の高いウイルスを香港に立ち寄った者が持っていたことだ。
スーパー・スプレッダーのウイルス確保が任務だったムハメドだが、結局は探し出せず、後にCIAの説明で納得するしかなかった現象だ。
政府は、外出にはマスクの着用を促すだけでなく、情報の拡散にも最高、死刑を視野に入れた罰則を人民に告知する。それでも、危機感は人民に浸透しない。ここで、告知厳守の徹底を目的に刑執行の前例を作るのは容易だが、政府への不安が募る今、強硬手段は反政府の大義を設けるようなもので、表立って動けない状態だった。
中酷の国家主席・周近併は、武漢封鎖を余儀なくされ、その後、人民の行動範囲の広さから区域封鎖は、各地に広がった。住民は移動手段を失った。商業施設、工場、会社も閉鎖。その被害は、中酷だけに留まらず貿易国に甚大な被害を齎した。採算を土返して中酷依存の物資調達を見直す企業も出てきた。中酷に対して、SARS、豚コレラ、今回の新型コロナウイルスなどが起こる確率は高く、好んで進出するに適しているとは思えないことを世界に知らしめる事態になった。
周近併は、2020年1月20日の新型コロナウイルス肺炎に関する「重要指示」を出してから、2回程しか公けの場に姿を見せていなかった。
周には、ウイルス拡散を封印したい自分本位の背景があった。これこそが、新型コロナウイルスを全世界に蔓延させた元凶だった。
2020年1月17日~18日にミャンマーを公式訪問し、19日~21日は雲南省を周が視察することが決まっており、直前のキャンセルは、慣習的に困難だった。雲南行きも護衛や列車の保衛などがあり、ルートを変えるのは容易ではない。そんな時期にウイルス騒ぎが表沙汰になり、周のまわりは、困惑の色を隠せないでいた。
武漢市の周先旺市長は「問題は解決しています。制御可能です」という忖度メッセージを自己保身を考え、周に上げた。周は、苦しむ人民の声でなく、自分都合のいい子飼いの犬の意見を飲み込む。1月17日、李克強国務院総理に北京の政治を全任し、既に危険領域に入っているミャンマーと雲南に出掛けることになる。雲南は息抜きと先人への崇拝、問題は、ミャンマーだった。ミャンマーは、中共貿易で成り立っている国にまで仕立て上げた。その国がスー・チーの出現もあり、民主化が急速に進んでいた。それは、周にとって思わしくない結果であり、次期選挙への手立てを打つ必要があったからだ。
ムハメドは与えられた情報から、周近併の弱点をまとめてみた。「周近併の知られては拙いミス」として、整理してみた。
①忖度をする武漢市の周先旺市長を信じ、上海市公共衛生臨床センターにいる専門家たちの警告を無視し、ミャンマーに行った。
②ミャンマーの帰りに近くにある雲南省の新年訪問に呑気に3日間も費やしたことだ。1月19日から21日にかけての雲南省での「周近併のめでたい姿」を新華網、中国新聞網、中国チベット網には春節巡りを楽しむ動画と写真を残してしまった。
お気楽トンボで視察などを愉しんでいる間、周近併の不在時に全任された李克強国務院総理は、孫春蘭国務院副総理、国家衛生健康委員会、国家疾病センターからの報告を得て、武漢の原因不明の肺炎の推移を観察していた。
●2019年12月8日:
最初の患者(原因不明肺炎)が武漢で発生。
●2019年12月26日:
上海市公共衛生臨床センター科研プロジェクトがプロジェクトの相手である武漢市 中心医院と武漢市疾病制御センターから発熱患者のサンプルを入手し、精密検査。
●2019年12月29日:
湖北省中西結合医院呼吸科・重症医学科主任の張継先医師が武漢の海鮮市場で働く人たちが数多く同類の肺炎に罹っていることを湖北省および武漢の衛生健康委員会疾病コントロール処に報告。
●2019年12月30日午後5時:
武漢市中心医院眼科医・李文亮がグループ内のチャットで「武漢の華南海鮮市場で 7人のSARS(に類似した)患者が出た」と発信。
●2019年12月30日午後8時:
武漢の協和医院の腫瘍科の謝医師が、医師グループのチャットで「華南海鮮市場には行くな。あそこからSARSに似た病例が沢山出ている」と発信。李文亮同様、医者グループ内の発信だったが、それが外部に漏れ、中酷全土に急速な勢いで拡散した。
●2019年12月31日午後2時:
ネットで拡散した噂を受け、原因不明の肺炎が発生し華南海鮮市場と関係していることが報告されており、27例の症例と重症7人開放退院例があるが、「人から人感染」はなく、医者への伝染もない。従って「予防可能で制御可能である」と武漢市衛生健康委員会が発表した。
●2019年12月31日:
武漢市政府常務委員会会議が開催されたが、原因不明の肺炎に関しては一切触れられなかった。
●2020年1月1日:
北京中央の国家衛生健康委員会は、馬暁偉主任を組長とする疫病対策領導小組(指導グループ)を立ち上げ、武漢の調査に入るべきと提言。
●2020年1月1日:
同日、武漢警察の公式ウェイボー(微博)「平安武漢」が武漢の医者らが訴えた情報は偽情報で社会の秩序を乱すとして、8人を摘発したと報道した。
●2020年1月5日:
上海市公共衛生臨床センター(および復旦大学関係者など)が武漢の原因不明の肺炎は、「歴史上見たことのない新型コロナウイルスが原因だ」と発表。
●2020年1月6日:
武漢政府、問題は解決したとして武漢市の両会開催に入った。
●2020年1月10日:
武漢市両会が閉幕。国家衛生健康委員会の専門家チームの一人で北京大学第一医院呼吸・重症学科主任の王広発医師が新華社の取材に対し、「疫病は制御できる」と回答した。これは武漢に視察に行った際、武漢政府が「人ー人」感染を示すカルテを隠して、無難なカルテだけを選んで提出した。
●2020年1月17日:
湖北省両会が勝利の内に閉幕したと宣言したその日に、浙江省で新たに患者が5人発生。それを見た、SARSの時に警告を発した中酷最高権威の医学者・鐘南山院士(博士の上の称号)(84歳)が再び警告を発した。そこで国家衛生健康委員会は鐘南山院士をトップとする「最高レベル専門家チーム」を結成して、武漢入りさせることにした。
●2020年1月18日夜:
広東省深圳市にいた鐘南山は飛行機のチケットが買えないので高速鉄道に乗って武漢に向かった。
●2020年1月19日:
鐘南山院士をリーダーとする最高レベル専門家チームが武漢入り。鐘南山院士は武漢政府ではなく、医者仲間から病例発信が成された協和医院を視察。一瞬で「人ー人」感染を見抜き、その足で北京に向い国家衛生健康委員会に報告した。国家衛生健康委員会主任は、孫春蘭国務院副総理に報告。孫春蘭は李克強国務院総理に報告。これら関係者が鐘南山院士と共に「緊急事態」と判断して、雲南省で春節祝いをしている周近併に報告し、事態の深刻さを自覚させ、周近併国家主席の名において「重要指示」を出させるに至った。
ムハメドは、報告書に記された内容から、忖度と隠蔽の常習化と事実関係の確認の脆弱さを思い知らされた。しかし、これは中酷に限った事ではない。何が一番重要なのかが欠如した責任者のいる組織は、本当にクソだと、嘆くしかなかった。それにしてもお粗末な上級国民さんたちだ。その中で、鐘南山院士や真実を危険を冒してでも声を上げる者がいた事に、僅かな救いを感じていた。
パンデミックや暴動が起これば、必ず流れる陰謀説。
5G導入による情報管理戦争。忠酷vsアメリカ。主要なIT部門の特許で圧勝する中酷。アメリカは、中酷主導のフェーファイへの参入・拡大を阻止するためイギリス(UK)、イスラエル、日本などと連合を組み、フェーファイ排除を打ち出していた。その一角のイギリス(UK)が切り崩された。アメリカの焦りと怒り。中酷はこの好機を活かそうと発展途上国への勢力を広げる。では、中共は何故、発展途上国に興味を記すのかは、以下のコメントで分かる。
「資本主義の弱点は貧富の差だ。民主主義の弱点は合議制の多数決だ。大国と小国を同列に扱うなど言語道断。ならば小国も一票だ。大国の五票より、小国の十票が勝る、ふん、馬鹿げている。ならば、我らはその愚かな民主主義を充分に利用させて貰うだけさ、あはははは」
1月28日、ハーバード大学の生物学部長のチャールズ・リーバー教授は、武漢理工大学の戦略科学者でもあり、中酷軍のスパイとなり生物兵器などの情報横流しをした疑いで逮捕される。
ムハメドは、面白い記載を見つけた。アメリカのゼロヘッジのニュースだ。陰謀論、偽情報。悪い噂はあるが、興味は唆る。そこには、武漢ウイルス学研究所の中酷人科学者を特定し、その論文があると言う。その記事の内容は、ウイルスを感染させたコウモリが、病気を発症することなく、体内に長期間保存できる方法を分子構造から研究する、というものだった。
研究の中心人物は、中酷科学院に属する武漢ウイルス学研究所の周鵬。行っていたのは、自然免疫の経路に耐性がないスーパー病原体の研究だった。その研究は一般の疫学的研究ではないのは明らかだった。
2019年11月中旬の時点で、周氏の研究所はスーパーコロナウイルスとコウモリの感染症に関する研究実施を支援するため、経験のない研究者たちを積極的に採用していた。その資金援助は国立優秀青年基金、中酷科学院、科学技術省の主要プロジェクトから出ていた。
人間がその病原体に免疫を獲得する方法を研究するのが疫学的研究だが、周氏が行っていたのは、その逆の治りにくくする、免疫のメカニズムを改変する、とあった。つまり生物兵器としてのコロナウイルスの作成が目的であった、としている。
さらに生物兵器を開発する場合、同時にウイルスや治療薬の開発もするはずだがそれがなされていない、結果、自爆兵器となったのではと締めくくっている。
同じ頃、インド工科大の研究チームが新型コロナウイルスのDNAを分析した結果、HIVのDNAが組み込まれているとの論文を発表した。この配信はbioRxivであり、運営元がCSH(Cold Spring Harbor Laboratory)だった。CSHはアメリカ合衆国ニューヨーク州ロングアイランドにある民間非営利財団による研究所で、生物学・医学の研究および教育を目的としている。最先端の研究で世界的に知られ、ノーベル賞受賞者も輩出している。
中立的な立場の研究所からの論文は、疑念を真実味のあるもへと変貌させた。そこで注目されたのは、2019 nCoVが他のコロナウイルスに存在しない4つのインサートアミノ酸残基が認められたことだ。この4つのアミノ酸残基が交じり合うことは自然界では有り得ず、人工合成されたものであることを否定できない。
その論文に対するバイオテクノロジーが盛んなカナダ、オーストラリアなど各研究者のコメントは批判的だった。それが真実味を濃厚にする。支配層系科学者に取れば、先を越された、と言うことになり、捏造や金、政治で動かされる者達にとっては認められないもの。裏を返せば、反響があるほど真実崩しに躍起になっていると読み取れるものだった。
さらに疑いに拍車を掛けたのは中酷当局が、コロナウイルスのゲノム解析を終え、抗ウイルス薬の臨床実験に取り掛かっていると言うものだった。
対応が、速すぎる。世界中の医療機関が手を焼いていると言うのに。
予め新型コロナウイルスのデータを持っていたと考えるのが妥当だろう。でも、焦ったな、中酷。悪党から英雄への転身を狙ったか。やり方が単純、露骨すぎる。
エドワードが面白い記事も入れておいたよ、と言ったのは、アメリカに亡命した中酷の実業家・投資家の郭文貴の記事だった。
その記事には、2020年2月3日、中酷共産党の公式軍事ポータルサイト「西陸網」には、武漢の新型コロナウイルスがコウモリウイルスによる自然突然変異は不可能だ。人工的に合成されたことものだと主張。最高権力機関である中央軍事委員会のウエブサイト「西陸網」で発表される情報は、最高位層の肯定を得たものだからだ。
その「西陸網」は2020年1月26日には、武漢ウイルスの4つの主要蛋白質が交換され、中酷人を正確に狙い撃ちできるというものだと発表している。これは、当初の目的であったとされる、一億人粛清計画に該当する。さらに不可解なことに4つの主要蛋白質が交換された理由が記されている。SARSウイルスに偽装し、医療関係者を欺くことで、治療の時間を遅らせること。人への感染が力が強力であるため急速に蔓延させ、伝染させられること、が目的だと。
ムハメドは、思った。なぜ、この時点で最高機関がウイルスの特長を述べられるのか、知っていて何故、対策に講じていないのか、賢者を演じたかったのか。結果として、第三者がこれを見れば、武漢ウイルスは実験室が製造と生産に関与していると思われても仕方がないではないか。自分たちの失態から人民の目を逸らさせる為、敵を作り、人民の怒りの矛先を変えるいつものやり方が発動するではないか。
ムハメドの懸念の矛先は、アメリカに向けられた。SARSから武漢新型肺炎まで、アメリカの人種絶滅計画を見る、と言う小見出しで始まる記事だ。その内容は、アメリカが生物兵器を製造し、中酷人を攻撃できるようになったと非難している。続けて、中酷人を選んで殺している。その証が死んだ96%が中酷人だ、この武漢ウイルスは生物戦だと、中共は人民を誘導している。人民だけでなく共産党は既にメディアを買収・浸透している。フェイクニュースもそのひとつだ。
アメリカは、いち早く中酷人の入国を禁止。中酷から帰国させる自国民は米軍基地で隔離・管理し、動向を見守り、本土国民を徹底的に守る政策を取った。他国の対応同じようなものだ。なのに、今いる日本は、今だに中酷人の行き来に寛容だ。
メディアだけでなく政治家にも共産党の買収・浸透が功を奏しているのではと、ムハメドは日本に対して不信感・不安を抱くようになっていた。危機管理と人権。
しかし、日本には、命あっての物種命というのがあるではないか、非道と呼ばれようと毅然とした対応をとってこその危機管理ではないか、踏み切れない政治家への不甲斐なさも感じ得ずを得なかった。
民衆の立場に立たず、真実を捏造し、共産党の思惑に誘導しいている。武漢の疫病発生の責任をアメリカに転嫁し、中酷共産党は14億人を煽動し、アメリカに戦争を仕掛けている。ウイルスに対しての中共政府への怒りをアメリカへ徹底的に向けさせるプロパガンダを仕掛けている、と。
荒唐無稽と、ムハメドは笑えなかった。政府の失態は、敵国に向けたプロパガンダで切り抜ける。隣国にも似たような政策をとる国があるが、臭いものに蓋をして得る利益は、根本の問題に目を伏せているだけじゃないか、と虚しささへ感じてしまう。どの国も似たようなものか…。ムハメドは目を閉じ、虚無感に押しつぶされそうになっていた。
不可解なことが重なる。中酷の失態をアメリカのカード大統領が見逃すはずがない。しかし、自国のインフルエンザ、自身の再任のことがあったとしても静かすぎる点だ。それは、新型コロナウイルスがアメリカのハーバード大学のチャールズ・リーバー教授らから中酷軍の欧米各国へのスパイ活動で生まれたものであれば、殺人ウイルスを開発したのはアメリカである可能性が浮上する。そのウイルスを武漢のラボで手を加えた。それをずさんな管理で垂れ流した。盗んだ中酷、開発したアメリカともに公にできない事情が絡み合い、対岸の火事として扱っているのではないかと。
新型コロナウイルスの起源はコウモリなどの自然界の動物由来のウイルスにしたい、それが本音だろう、とムハメドには思えてきた。
ムハメドは、分子生物学の専門書を数冊、エドワードに依頼した。専門書を手に入れたムハメドは寝食を忘れて読み漁った。ムハメドは元々、医師を目指しアメリカのジョン・ホプキンス大学に入学したが、金銭的事情から道を踏み外し、気が付けば、モサドの一員となった逸材だった。患者の症状から出した結論は、風邪のウイルスにHIVやエボラ、マイコプラズマバクテリアなどをハイブリッドしたウイルス兵器だった。
フェイクニュースも多々あった。高層の住居から拘束しにきた警察から逃れるためベランダから落下する衝撃な映像。しかし、それは仲違いから興奮した住人がべランドを乗り越え落ちた事故では。拘束に来た警官と事故を繋ぎ合わせたものではと疑って見ていた。また、下級職員の買収と言うものもあったがそれは違うと思った。それが可能であれば、潜入していた自分が任務遂行に苦慮などしない。
実際、上級人民と下級人民の隔たりは大きく、蔑む視線は、嫌と言うほど浴びていた。そもそも、管理がずさんとは言え、実験室などの主要な場所には立ち入れなかったからだ。ムハメドが気になったのは、感染の速度の速さだ。
自慢の家庭料理を持ち寄り皆で食べる春節を祝う伝統行事「万家宴」が2020年1月18日に行われた。今年は4万世帯が参加した。蔓延の引き金を引くのに十分な環境だった。この時、武漢市は41人の感染を発表していた。「人―人」感染の恐れは排除できないとしていた時期だった。上海市人民政府は感染ルートを直接感染、接触を通じた感染、そしてエアロゾル感染に注意喚起を促した。エアロゾル感染は空気感染とは違う。飛沫感染の延長だとムハメドは考えていた。空気感染なら研究所や職員その家族、その周囲に広がっていても可笑しくない。現に自分は濃厚接触の可能性があるのに今だに発症していない。保菌者かも知れないが。この段階では、マスク、手洗い、うがい、アルコール消毒を心掛ける。後は、重篤な感染に高齢者や疾病持ちが多い点から、免疫力を強めれば、ある程度は防げるのではないかと推察していた。
幸い米軍の出してくれる食事は栄養価が計算されたものだと思えた。あとは、体力か。そう、思ったムハメドは、ストレッチで汗を搔くことに時間を割くことにした。
香港人のスーパースプレッダーの出現は、デモの抑制だとも推察される。ずさんだったのはその人物の行動パターンを見誤ったか、ターゲットを間違えたか、今となっては知るすべがない。そこに、付け加えられた動画、記事に興味深いものがあった。
ムハメドとエドワードは、イングランド(UK)がフェーファイを受け入れるタイミングで現れたイングランドの「スーパースプレッダー」の足取りを追ってみた。
1月20~23日、
シンガポールの5つ星ホテルで開催されたビジネス会議に参加
1月24日、
フランス南東部レ・コンタミンヌ=モンジョワのスキーリゾートに11人のグループで滞在
1月28日
午後6時50分、イージージェットでスイスのジュネーブ空港を離陸。英ガトウィック空港に移動
2月1日、
英南東部ブライトン近くのパブを訪れる
2月6日、
シンガポールの会議の参加者から感染が確認されたことを知り、ブライトンの病院で診察を受け新型コロナウイルスの感染が判明(イギリスでは3人目)。ロンドンのセント・トーマス病院に移送
2月7日、
接触のあったパブのスタッフが約2週間、自宅待機
2月8日、
フランスのスキーリゾートで一緒にいた9歳児を含むイギリス人5人の感染が判明。子供が訪れた学校は予防措置として閉校
2月9日、
フランスのスキーリゾートからスペイン・マヨルカ島に移動したもう1人の感染も判明
2月9~10日、
さらに「スーパースプレッダー」と接触のあった5人の感染が判明。
イングランド公衆衛生局は「スーパースプレッダー」の足取りを徹底的に追跡し、感染の広がりを把握し、接触した人の割り出しに全力を挙げている。
ムハメドは、自分で情報を得られない不自由さを思い知らされていた。感染者は犯罪者扱いか魔女狩りの対象者か。他人を思いやる綺麗事は、事が起きれば容赦なく対象者に牙を剥く。タブロイド紙が発症者の実名と写真を公表して物議を醸し出している。マット・ハンコック英保健相は既に「深刻かつ差し迫った脅威」を宣言、感染が疑われる人物については公権力を行使して強制隔離する態勢を整えてた。
11日には「状況は良くなる前に悪くなる恐れがある」と警鐘を鳴らす。医師や病院の救急救命科で感染の確認され、一部の学校も閉鎖。ワクチンや治療法がない今は感染者や疑いある者を隔離して時間を稼ぐしかない。簡易検査キットの完成・量産が急がれる。このスーパースプレッダーは、シンガポールの5つ星ホテルで開催されたビジネス会議に参加している。ムハメドは「うん?」と疑問が湧いた。5つ星ホテル?ビジネス会議?中酷には、都市戸籍4億人と農民戸籍が9億人がある。アパルトヘイトってやつだ。都市戸籍を持ち、その中でも共産党員であり役職や利権を有する上級国民が存在する。農民戸籍は下級国民であり極貧の暮らしぶりだ。
今の中酷を支えるのは、都市戸籍の者で成り立っている。よって、実質の人口は4億人だ。この中でも、北京・上海など都市民族が優先される。現に中酷への救援物資は、上級戸籍の住む、北京・上海に送られる。その際、中酷赤十字が物資の横流しで暴利を貪るのが実態だ。
会議に参加した感染源が中酷人であれば、都市戸籍の者か、政府機関の者であることが容易に推察される。だとすれば、共産党の上部にも感染が蔓延しているはずだが、情報管理のせいか被害が聞こえてこない。参加した者は帰国したのか、隔離されたのか、隠蔽されているのか、分からない。
日本ではダイモンド・プリンスと言う豪華客船が、香港人のスーパースプレッダーによって、地獄の日々を余儀なくされている。政府の後手後手の対応は非難されるべきだが、対応を優先する時期だ。失敗は成功の素。諸外国は日本の対応を教訓とし、同じ轍を踏まない対策を取るべきだ。
WHOへの苦言は、その信用性の失墜で信じるに値しないことは、世界が知ったはず。中酷に毒されたWHOは最早、蚊帳の外。その情報に惑わされることなく、危機管理を行うのが最重要課題だ。
感染を拡大させた香港人の感染ルートが不明だ。いや、情報を得られない。明らかにされないのは隠蔽か。なぜ、中酷人ではなく、香港人なのか。ムハメドはそこにきな臭さを感じ得ずにはいられなかった。
ムハメドには、ある懸念が払拭できないでいた。それは鎮圧できない香港デモだ。中酷には世界の目が注がれる中、強硬手段が取れない。そこで、感染を蔓延させ、香港の国民の関心をそちらに向け、ワクチンを持って救世主のように現れ、信頼の回復と中酷の重要性を香港のみならず、世界にアピールする場に利用したのではと考えるようになっていた。
イングランド(UK)もまた5Gの採用と中酷の重要性をアピールするために仕掛けられたものではないのか、そうでなければ、タイミング良すぎるのではと言う思いを払拭できないでいた。中酷は虚勢を張ることで巨大化を投影している実態の疑わしさが付き纏う。観光客が殆どいない街に煌々とイルミネーションが輝くようなものだ。華々しい実態は、閑散。それが中酷ではないか。限られた情報の中でその思いは強くなっていた。
エドワードが面白い映像があると見せてくれた動画ある。周近併が共産党指導者らが執務する北京の「中南海」から8キロ北の地区を視察。マスク姿で市民から感染予防や生活の状況を聞き取ったものだ。これの何が面白いのか?うん?これは?
国家主席の視察にしては、取り囲む人数が少ない。厳戒態勢を取ったとしても、エキストラを用意したものにしか見えない。映り込む建物も生活感も人影すら見えない。まるでゴーストタウン化した映画のセットか。何より奇妙なのがマスクが粗末なもの過ぎる。しかも、形も色合いも、今、配られてつけたような鮮度の良さが目立つ。小心者の周近併が渦中に飛び込むわけがない、これも仕込まれた指導力アピールの演出確定だな。この視察を受け、通信アプリの「微信」には「武漢へ行け!」と言う見出しが印象的だった。
行動の全てが保身に走るもの。国民が苦しんでいる最中、重要指示をした1月20日にミャンマーへ行ったり、雲南で春節祝賀などをしており、北京にいなかった事実を隠すのに躍起になり、偽装工作を施す有様。パンデミックの責任は、周近併にある。
日本のメディアは、どこを見ているのか。周近併国家主席を国賓として招こうとしている安倍内閣。こうして、外から見ていると他国のことながら、憤慨と共に警鐘を鳴らしたくなるのはなぜだろうか。とムハメドは苛立ちを覚えていた。
ムハメドは、社交的で憎めないキャラクターだった。毎朝、情報を記録したUSBを受け渡す内に、ふたりはすっかり打ち解けていた。ムハメドが熱心に新型コロナウイルスを把握しようとしているのを見て、エドワードは、ある資料を付帯知識として差し入れてくれた。それは今回の拡散するウイルスの概要のようなものだった。
武漢市は、全国都市別人口の第8位での常住人口は1108万人。市街区から直線距離でわずか15キロ程の地に、エボラ出血熱のウイルスを含む自然免疫原性ウイルスや、その他新たに発見されたウイルスの研究を行う、中国科学院の「武漢国家生物安全実験室(National Biosafety Laboratory, Wuhan:武漢NBL」がある。人口1000万人超の大都市近郊に危険なウイルスを扱う研究施設を建設するということは通常では考えられない。新型コロナウイルスが蔓延した武漢市を封鎖。中酷国内の感染者は政府の隠蔽体質から考えて実際の感染者は10万人超え規模に達している可能性は否定できない。中酷国外でも感染者、死亡者が発生している。
武漢肺炎を引き起こした新型コロナウイルスが発生した場所として疑われているのは、武漢市江漢区にある武漢華南海鮮卸売市場(華南海鮮市場)。ここで販売されていた“野味(野鳥や野獣を使った料理)”の食材である“タケネズミ(竹鼠)”、アナグマや蛇などが新型コロナウイルスを媒介して人に感染させたものとの見方は、いつものこと信じるに値しない。そこで、注目されたのが華南海鮮市場近くに有る武漢NBL。そこから誤って新型コロナウイルスと接触し感染した職員が、華南海鮮市場を訪れ、同市場関係者に接触したことにより、市場関係者が感染し、その人物を介在する形で新型コロナウイルスが人から人へと感染を拡大していったのではないか、という疑いが世界中でもたれていた。推測の域を出ないが、前例が中酷にはある。
2002年11月に中国で発生した「重症急性呼吸器症候群(SARS)」は、2003年7月に終結宣言が出されるまでの約9か月間、有効なワクチンも治療法もない感染症として世界中を恐怖に陥れた。しかし、2004年4月には、北京市や安徽省でSARSに類似した症状の患者が複数回発生したことがあった。その詳細は公表されていないが、中酷政府「衛生部」は2004年7月に「学生の規則違反によりSARSウイルスが実験室から流出したことが原因だった」との調査結果を発表したのは異例だった。この時は、WHOへの圧力を掛けられないでいた。
2003年7月にSARSの終結宣言が出された前後に、当時の武漢市長であった李憲生と中酷科学院副院長の陳竺が、細菌やウイルスなどの微生物・病原体などを取り扱う実験室や施設の最高レベルであるバイオセーフティレベル4(biosafety level-4)「BSL-4」の「生物安全実験室」を建設する計画にゴーサインを出し、中酷初のBSL-4実験室を持つウイルス研究施設を武漢市に建設することが決定された。
2004年10月に訪中したフランスのシラク大統領は、武漢国家生物安全実験室(武漢NBL)と命名された研究施設の建設を支援する協議書に調印した。しかし、フランスでは、懸念する声も上がったのも事実。それは、中酷がフランスの提供する技術を使って生物兵器を作るのではないかとの反対意見だ。国家情報部門も政府に対して警告を行っていた。その懸念が現実なものとなった。
2017年2月23日、武漢市を訪問したフランス首相のベルナール・カズヌーヴが実験室の開所式に出席してテープカットを行い、2018年1月5日に国家認証を取得したことによって実験室は運営を開始する。
世界のフランスへ向けられる目は、厳しかった。
そのひとつが2017年2月23日付の英科学誌「ネイチャー(Nature)」の記事だ。開所式を控えた武漢NBLについて、SARSウイルスの流出事故や中酷の官僚主義的な隠蔽体質を理由として、武漢NBLが運用開始後に何らかの人的ミスにより毒性を持つウイルスがBSL-4実験室から流出して中酷社会、或いは世界にウイルス感染が蔓延し、大規模な混乱が引き起こされる可能性があると危険視していた。予測は的中したということになる。
2019年に起きたウイルス・スパイ密輸事件
2019年7月14日、カナダのメディアは「7月5日に中酷出身の著名なウイルス学者である邱香果とその夫で研究者の成克定および中酷人留学生1名が王立カナダ騎馬警察(カナダの国家警察)によって、規約違反の疑いで国立微生物研究所から連行された」と報じた。2018年12月1日に中酷企業「「華為技術(ファーウェイ)」の副会長で最高財務責任者(CFO)の孟晩舟は対イラン経済制裁違反の容疑で、米国の要請を受けたカナダ当局によって逮捕。孟晩舟に続く邱香果の逮捕は、カナダと中酷の外交関係に影響を及ぼすとメディアは大きく報じた。その内容は…。
(a) 2019年3月31日、カナダの国立微生物研究所の科学者がカナダ航空会社「エア・カナダ」の航空機でエボラウイルス、ヘニパウイルスなどが入った貨物を秘密裏に中酷・北京市宛に送付した。
(b)2019年5月24日、カナダ政府「保健省」から上記貨物に関する通報を受けたマニトバ州警察当局が、邱香果と夫の成克定に対し捜査を開始。
(c)7月5日の連行を踏まえて、王立カナダ騎馬警察は国立微生物研究所の職員に対して、「邱香果夫婦は国立微生物研究所を一定期間離れて休暇を取る」と通告し、同僚たちに彼らと連絡を取らないように警告を与えた。一方、匿名の国立微生物研究所職員によれば、研究所は邱香果夫婦と中国人留学生1名に対し、BSL-4実験室への通行証を取り消した。これを受けいち早く、研究所のコンピューター技術者が事務室へ侵入し、証拠隠滅のため邱香果のコンピューターを交換。邱香果は定期的に訪問していた中酷への旅行日程を取り消した。
(d)この後、国立微生物研究所は邱香果夫婦を解雇。邱香果夫婦および中酷人留学生1名が「連行」後にどうなったのかは何も報道がない。「逮捕」というのも一部のメディアが報じたものであり、実際に逮捕されているのか、取調べを受けているのかも不明。なお、定期的に訪中していた際に、邱香果が度々武漢国家生物安全実験室を訪問していたことは間違いのない事実だった。
王立カナダ騎馬警察が邱香果夫婦と中酷人留学生1名を研究所から連行した表向きの容疑は「規約違反」。実際は感染力が強く、致死率の高いウイルスや病原体などを中酷へ密輸した容疑であり、彼ら3人は中酷のためにスパイ行為を働いていたと考えられる。
さらにその後の展開も推察されていた。
カナダから中酷・北京市宛てに航空便で送付された危険な貨物はどこへ行ったのか。カナダ当局は、危険な貨物の宛名を把握しているはずだが、この点については無言を貫いている。ただし、受領した貨物の危険性を考えれば、貨物の受領者は速やかに貨物を安全な場所へ送るはずだ。中酷国内でこうした感染力が強く、致死率が高いウイルスや病原体などを収容する場所として考えられるのは、武漢国家生物安全実験室と中酷農業科学院ハルビン獣医研究所の2カ所しかない。優先的に考えられるのは中酷科学院傘下の武漢国家生物安全実験室であると推察された。
邱香果夫婦によってカナダ国立微生物研究所から盗まれた危険なウイルスや病原菌などは、北京市から武漢国家生物安全実験室へ送られ、厳重に保管すると同時に研究されていたものと思われた。それが武漢国家生物安全実験室職員による何らかのミスによりコロナウイルスの一部が外部へ流出し、人から人への感染によって急速に拡大して武漢市全体をパニックに陥れ、武漢市を起点として中酷の国内外へ感染を拡大していると考えれば辻褄が合う、と。
2002年11月から始まったSARS騒動の際も、ウイルスの元凶は広東人が“野味”の食材とするハクビシンだという説が流れ、相当多数のハクビシンが殺処分された。その後の調査でハクビシンの元凶説は否定され、ハクビシンの「潔白」が証明された。
今回の武漢肺炎でもタケネズミ、アナグマ、蛇などが元凶の容疑をかけられているが、”野味“料理は中酷で古くから伝統的に食べられて来たもので、武漢肺炎を引き起こしたコロナウイルスの元凶とは思えない、と。
この仮説が、正しいかは解明されないだろうが、人為的なミスにより新型コロナウイルスが武漢国家生物安全実験室のBSL-4実験室から外部へ流出したというのであれば、全世界の人々に大きな犠牲を払わせる極めて残酷な出来事ということができる。また、中酷政府の顔色を伺い、新型コロナウイルスの感染拡大に対する「緊急事態」宣言を1月30日まで先送りした世界保健機構(WHO)の責任は重い。その最大の責任者は元エチオピア保健相のテドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長だ。
彼は、出身国のエチオピアに対する中酷の巨額援助がWHO事務局長としての判断を怠り、武漢肺炎の蔓延を助長するのであれば、自ら事務局長の職を辞任すべきではないだろうか。と括っている。
2004年7月、SARSの際、WHOに圧力を掛けられず、中酷政府「衛生部」は「学生の規則違反によりSARSウイルスが実験室から流出したことが原因だった」との調査結果を苦渋の選択として発表した。その轍を踏まない隠蔽、揉み消しへの圧力だけは、怠ることなく実施した、それが中酷共産党だ。
エドワードは、ムハメドとやり取りを繰り返すうちに、自らが今回の出来事に強く興味を抱くようになっていることに興奮を隠しきれないでいた。地上勤務のエドワードにとって、不謹慎であることは十分に把握しているが「007シリーズ」のジェームスボンドになったような気持ちは抑えられないでいた。
ムハメドもエドワードと話す時間は、至極の時間となっていた。隔離され、他人と話すことのできる貴重さをまざまざと感じさせられたからだった。
エドワードにとっても、最新の情報をムハメドに差し入れ、その感想を語り合う時間は至極の時間となっていた。
中酷共産党中央委員会は湖北省党委員会書記(省のトップ)蒋超良氏の後任に周近併国家主席の側近、応勇・上海市長を、武漢市党委員会書記(市のトップ)馬国強氏の後任に山東省済南市党委員会書記、王忠林氏を充てる人事を発表した。明らかな更迭人事だ。周近併にとって、隠蔽出来る範疇が狭まれてきていた。世界を巻き込むパンディミックの責任が自分に向くかが気掛かりで仕方がない。側近を配することで、内部からの不満を押さえ込むのに必死だった。しかし、側近を配したことで失態は、自らの失態となるまでは考えが及んでいなかった。金と権力でどうにかなる。それが本質を欠いた主導者の実態だった。
新型コロナウイルスの死者や感染者の数が突然、急増したのは世界からの疑惑を払拭するための言い訳、辻褄合わせだった。中酷は、上から目線、被害者意識で独自の基準から国際基準に近づけたものだと主張した。メッキが剥がれれば、さらにメッキを塗り直す、それが中酷共産党のお家芸だった。
エドワードは、ムハメドに世界の反応記事を添付した。
●新型コロナウイルスの病名は「Covid-19」
世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長は2020年2月11日、新型コロナウイルスの病名を「Covid-19」と公式に命名。新型コロナウイルス肺炎の流行を「非常に重大な脅威」と位置付け、国際社会に協力を呼びかた。先に研究を進めていた国際ウイルス分類委員会コロナウイルス研究グループは、新型コロナウイルスそのものについて、SARSの姉妹種「SARS-CoV-2」と名付けいた。
既に研究現場では新型コロナウイルスの配列データベースの共有が始まっており、混乱を招く恐れがあった。
通常、ウイルスの名前を付ける際、「主要症状」(呼吸器症状、神経症状、水様性下痢など)が示されていて、更に「重症度や季節性などの追加情報」(進行性、若年性、重症、冬型など)を含む。また、病原体が既知の場合には、ウイルス名なども加えることが推奨されていた。
SARSは、中酷を連想させるため「SARS-CoV-2」というウイルス名ではなく「Covid-19」という病名を普及させようというテドロス事務局長の配慮が働いた。中酷にはSARSが流行した時に容赦なく、叩かれたというトラウマがあり、WHOにも叩きすぎたという反省が感じられた。
新型コロナウイルスが見つかるまで、人に感染することが知られているコロナウイルスは6種類しかなかった。うち4つは軽度の風邪を起すもの。その他は、2002年以降、動物ウイルスに由来する重度のSARSと中東呼吸器症候群(MERS)が確認されていた。
●SARSと新型コロナウイルスの比較。
[ロンドン発]新型コロナウイルスが中酷から世界に広がっている問題で、中酷の国家衛生健康委員会は14日、中酷国内で1716人の医療従事者が感染し、いち早く異変を医師仲間に知らせた武漢市の李文亮医師(34)ら6人が死亡していた。
湖北省の医療従事者の感染は1502人にのぼり、まさしく「医師は兵士、病院は戦場」(人民日報)になっている実態を浮き彫りにした。中酷共産党の報道管制、情報統制が感染者と濃厚接触せざるを得ない医療従事者に感染を広げてしまった。
元世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局長の尾身茂・独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)理事長は13日、日本記者クラブで行われた記者会見で中酷を礼賛するWHOのテドロス・アダノム事務局長に苦言を呈した。
エチオピア出身のテドロス氏は中酷の武漢市や湖北省の初動の遅れが感染拡大を招いたのは明らかなのに「中酷はよくやっている」と称賛を繰り返し、政治的に中立であるべきWHOの伝統と信頼を損ねた。尾身氏の発言は次の通りです。
2002~03年にSARS(重症急性呼吸器症候群)があった。それまで感染症は日本で言えば厚生労働省の管轄。SARSで香港などへの経済的なインパクトが強く、あれ以来、国際社会は厚労省の枠を超えて各国の首脳、外務大臣が同じことを繰り返すまいと強い関心を持つようになった。2003年から2年半はSARSと同じことをいかに繰り返さないかという議論しかWHOでは行われなかった。国際保健規則が改正され、決まったことが一つある。どうも普段と違うような状況があれば病原体や原因が分からなくてもすぐにWHOを通じて国際社会に報告することだ。
中酷もその議論に十分参加した。SARSの時は中酷政府の意図的な情報非公開が半年間にも及び、WHOが2003年4月に香港や広東省への旅行延期勧告を出した。それに比べれば今回、中酷の周近併国家主席の対応は早かった。しかし、中酷はSARSを起こした同じ国。国際保健規則を巡る議論を湖北省の衛生担当者が知らないということはあり得ない。昨年12月初旬から(原因不明の感染例の報告が)もっとあったはずだ。初動が遅れたということについて中酷はSARSで反省をしているわけだから。
こういう全ての感染症の大流行に共通する要素は、初動の遅れ。西アフリカのエボラ出血熱も現地にキャパシティーがなく、初動が遅れた。今回も武漢市があれだけの事態になったというのは、明らかに初動の遅れがかなりの原因とした。
●テドロス発言はWHOトップとしては残念
テドロス氏から“中酷はよくやっている”“他の国のために一生懸命やっている。心から感謝しています”という発言があった。どこの組織にも欠点はある。WHOにも政治的な圧力は勿論ある。本部と地域の事務局長も選挙で選ばれているから各国の意向は理解しているはずだ。WHOは基本的には、健康を守るために設立されたテクニカルエージェンシー。政治的、経済的な考慮はしても最終的にはテクニカルに行うべきだ。1948年の設立以来、テクニカルなところではこの組織は信頼できるという関係が確立されていた。
テドロス氏の発言は、今の周近併はよくやっていますよ、ただし残念ながら武漢市の対応は遅すぎて国際社会は重く受け止めており、反省すべきですと、これぐらいは最低言わないとWHOのトップとしては不適切だ。
WHO は各国の優秀な人材が周りを固めているから、テクニカルな勧告は彼の発言と違って、イメージが悪くなったので早く是正しないと考えているはず。折角1948年から営々と築いてきた信頼感がなくならないよう早く軌道修正する必要があった。
WHOをテクニカルエージェンシーとして各国の上にいるわけではないが、政治的中立の立場で言うべきことは言った方が良い。初動の遅れでSARSに続き感染を拡大させた罪は重いという結論だった。
●「中酷の行いを認めて何が悪いのか」WHO事務局長
テドロス氏は、新型コロナウイルスの感染拡大について「世界にとって非常に重大な脅威 」と警告する一方で中酷について「もし、中酷の並外れた対策が取られていなかったら、国外でもっと感染が拡大していただろう」と中酷礼賛を繰り返す。
12日の記者会見でも「WHOは中酷の面子を守るためよくやっていると称賛するよう中酷政府から圧力を受けているのか」と質問され、テドロス氏は「全ゲノム配列決定の公開や武漢市封鎖など中酷のしたことを認めて何が悪いのか」と反論した。
世界全体で見ると感染者の99%が、死者の99.8%が中国本土に集中。中酷本土では感染者の81%が、死者の95.4%が湖北省に集中している。テドロス氏は「感染拡大防止のため都市を封鎖した武漢市は英雄的だとイギリスの理事は発言した」と自分の発言を擁護した。事務局長選を争ったイギリスのデービッド・ナバロ元国連事務総長特別顧問は、英紙フィナンシャル・タイムズに「テドロス氏は非常によくやっている。彼は中酷と協力しなければならない。中酷を非難しても何も始まらない。テドロス氏はボタンを掛け違えないようにと必死だ」と皮肉に評価した。
テドロス氏は、記者会見でこう続けした。「中酷人女性がドイツから上海に戻った後に感染が判明した際、直ちにドイツに知らせて感染拡大を防いだ。われわれは真実を語る必要がある。中酷がWHOに称賛を求める必要などない。周近併は自ら感染拡大防止の先頭に立っている。こうした政治的リーダーシップは称賛に値する。全ての加盟国が中酷を称賛している。今は特定の国に烙印を押して非難している場合ではなく、力を合わせてウイルスと闘うことだ」 パンデミック(世界的な大流行)を防ぐには感染の99%を占め、情報量が圧倒的なエピセンター、中酷の協力が欠かせない。大国になった中酷を面と向かって非難するより持ち上げた方が賢明だというのがテドロス流のようだ。
テドロス氏は2017年7月にWHO事務局長に就任後、ジンバブエの独裁者ロバート・ムガベ大統領(当時、故人)をWHOの親善大使に任命。しかし、国際的な抗議を受けて、すぐに撤回した。世界保健総会にも中酷の政治的な圧力を受け、3年連続で台湾を招待しなかった。権威主義的な支配と人権侵害で批判を集めているルワンダのポール・カガメ大統領が、世界保健総会で医療政策の成功をアピールする基調演説を行ったこともある。しかし、WHO事務局長のとんでも発言は何もテドロス氏に限ったことではないようだ。
米外交評議会のスチュワート・パトリックは、外交雑誌フォーリン・アフェアーズのブログで次のような懸念を示していた。「香港出身のマーガレット・チャン前事務局長は、北朝鮮の医療制度は医療スタッフが不足していないため、多くの途上国の羨望の的だと話したことがある。結局、WHOの意思決定は自由を制限する恐れがある加盟国主導のプロセスだ」とパトリックは指摘した。
●大型爆撃機を台湾領空に接近させる中酷人民解放軍
新型コロナウイルスの流行で台湾は、WHO加盟国ではないものの、リアルタイムの情報を入手できるようオンラインを通じて会合への参加を認められた。しかし、台湾は、世界から中酷の一部とみなされ、航空便がキャンセルされるなど大きな経済的な打撃を受けていた。この最中、中酷人民解放軍の戦闘機は、台湾領空への接近を繰り返しているため、再選を果たしたばかりの蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は「軍事的に国を脅かすより、武漢ウイルスと闘え。大型爆撃機H6では新型コロナウイルスと闘えない」と反発した。
貿易赤字を減らすため中酷に貿易戦争を仕掛けたカード米政権は、新型コロナウイルス対策を進めるため米疾病予防管理センター(CDC)や1億ドルの支援を提案。
テドロス氏の出身国エチオピアへ一番多く直接投資している国は中酷で、昨年全体の約6割を占めていた。周近併が国家主席に就任してから劇的に国連への拠出金も増やした。エチオピアだけでなく国連機関も中酷の影響力には抗えなくなってきているのが現実だ。
2019年12月1日、感染源とみられる華南水産卸売市場(武漢市)に出入りしていない肺炎患者を武漢市金銀潭医院が発見していた。(2020年1月24日に同病院胸部外科の首席医師が医学誌ランセットで発表)
12月8日、武漢市が新型肺炎患者を報告。12月下旬、武漢市内の複数の病院に連日、発熱などを訴える市民数百人が詰めかけた。12月30日、武漢市衛生健康委員会が2つの文書で新型肺炎患者が華南水産卸売市場で見つかったため、医療施設は、リアルタイムで患者数を把握して治療に当たり報告するように指示を出した。
李文亮医師がメッセンジャーアプリのウィーチャット・グループで同級生の医師ら約150人と患者の診断報告書を共有し、「華南水産卸売市場で7人のSARS患者を確認」と発信して、治療に当たる際、注意するよう呼びかける。後にそれが、新型コロナウイルス肺炎と判明する。31日、武漢市衛生健康委員会は「27人が原因不明のウイルス性肺炎にかかり、うち7人が重症。しかし、人から人への感染はまだ見つかっていない」と発表した。
中酷が、WHOに武漢市で新型肺炎が発生していることを報告。2020年1月1日、華南水産卸売市場を閉鎖。2日に清掃や消毒を実施。武漢市公安当局が「ネット上に事実でない情報を公表した」として李文亮医師ら8人を処罰したと発表した。
ムハメドは、時系列でまとめてみた。
1月5日、中酷当局がSARS再流行の可能性を否定。
1月6~10日、武漢市人民代表大会。
1月7日、WHOによると、中酷当局が新型ウイルスを検出。新型コロナウイルス(2019-nCoV)と名付けられる。
1月9日、中国疾病予防管理センター(CDC)が新型コロナウイルスの全ゲノム配列決定を公表。中酷国営中央テレビ(CCTV)が武漢市で新型コロナウイルスが確認されたと報告。
1月11日、中酷当局は初の死者(61)を発表。華南水産卸売市場で買い物をしていた男性で、1月9日に死亡。
1月11~17日、湖北省で人民代表大会
1月13日、WHOがタイで女性の感染者を報告。中酷国外では初の感染者で、武漢市からやって来た。
1月14日、WHOが記者会見で、武漢市で新型コロナウイルスが検出されたと認定
1月15日、日本で武漢市滞在歴がある肺炎患者から新型コロナウイルスを確認。日本国内1例目。6日に受診した際の報告だった。
1月16日、武漢市で2人目の死者
1月17日、アメリカの3つの空港で武漢市から到着した乗客のスクリーニングを開始
1月18日、伝統行事「万家宴」が開かれる
1月19日、SARSが流行した当時、広東省で広州市呼吸器疾病研究所の所長を務めていた鐘南山氏(83)が新型コロナウイルス専門家チームのリーダーになり、武漢市金銀潭医院を訪れる。武漢市疾病予防管理センター(CDC)も状況を把握し、国家衛生健康委員会が緊急会合
1月20日、鐘南山氏が「現在の統計によると、新型コロナウイルス肺炎は確実に人から人に感染している」とし、初めて新型コロナウイルス肺炎の深刻さに気付く。
・中酷で3人目の死者
1月22日、WHOが新型コロナウイルス肺炎の流行で初の緊急委員会「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」との結論には至らず。委員間で意見が対立。
1月23日、1100万人都市の武漢市を閉鎖。中酷当局が中酷で最も大切な祝日、春節(旧正月)の関連イベントを中止させる。
・WHOが、中酷国外では人から人への感染を認める証拠がないと発表。
1月24日、中酷が武漢市で1000床の臨時病院の建設開始。
1月25日、湖北省で集団隔離された都市の人口は合わせて5600万人に。
1月26日、WHOが新型コロナウイルスのリスクを「高い」と変更。
1月28日、周近併とWHOのテドロス氏が北京で会談。
1月30日、WHOが、緊急事態宣言。
2月1日、李文亮医師が、ミニブログサイト新浪微博で新型コロナウイルス肺炎と診断されたことを明らかにする。
2月2日、フィリピンで死者。武漢市から来た男性で、中酷国外では初。
2月4日、人民日報が「中酷共産党政治局常務委員会が3日の会議で明らかになった欠点や不足への対処能力を高めることを確認した」と伝える。
2月7日、李文亮医師が死去
2月11日、テドロス事務局長が、新型コロナウイルスの病名を「Covid-19」と公式に命名。一方、国際ウイルス分類委員会コロナウイルス研究グループは新型コロナウイルスそのものについて、SARSの姉妹種「SARS-CoV-2」と名付ける。
2月13日、中酷共産党が湖北省と武漢市のトップを更迭。
2月14日、中酷国家衛生健康委員会が国内で1716人の医療従事者が感染し、6人が死亡していることを発表。
というものだ。勿論、ムハメドは鵜呑みにはしない。記事の収集に悪意が、またはエドワードの意思が働いたかも、とも疑った。しかし、時系列で検証し、中酷が行った事を照らし合わせると、その醜さが浮き彫りになった。ムハメドは、中酷が他国に対する反論、反応の記者会見にも注目した。どれもこれも、自己弁護か相手への中傷、脅し、制裁しかなかった。これは、羊の皮を被ったコブラと付き合うようなものだと、感じずにはいられなかった。
いつものようにエドワードが日課を消化しに来た。見た目にいつもより、にこやかな雰囲気だった。
「どうしたんだ、何かいいことでもあったか?ご機嫌そうだが」
「ああ、ご機嫌だ。いいことがあった」
「なんだ」
「おめでとう、明日にでもここを出られる」
「本当か」
「嘘などつく必要があるのか?」
「いや…。やっとここを出られるのか、そうか、アルティアは?」
「もう、退院して本人の希望で早速、新たな任務に就いている」
「そうか」
「残念だったな、御馳走にありつけずに」
「俺にはまだ早いみたいだ。刺激が強すぎるかもな」
「強がりを言うな。まぁ、いい。それでこれからどうする。海外への渡航は当分ままならないぞ」
「どうするものか、正直、悩んでいる」
「どう、したい」
「出来るならば、ジャーナリストになりたいね。中共についてもっと調べたくなった。自分の意志で、調べたいんだ」
「うん、それはいいかもな。それなら協力できるかも知れないぞ」
「それは、助かる」
「じゃ、その門出に君の国に君の死亡を知らせないとな」
「そうだな、それが一番簡単な方法だ」
「じゃ、ウイルスを送った宛名を利用しよう」
「どうするんだ?」
「君はウイルス感染で死亡。それを遺品整理した者がこの宛名を見つけ、第三者の善意者として、君の死亡を知らせるんだ」
「分かった、俺がその第三者に成りすまして手紙を書けばいいんだな」
「ああ、ポストにはアメリカから投函するから、その第三者がアメリカにいても可笑しくない様にな」
「わかった」
「じゃ、新しい身分、戸籍が必要だな。それはこちらで用意しよう。その為には、アメリカに尽くしてもらわなければならない。得た情報をアメリカに渡す。それでどうだ。まぁ、君の情報によってはまた、諜報員のような真似をしてもらわなければならないだろうが、それ位はいいだろう。それを了解してもらえれば、報酬も活動費もでる機関に属してもらう。ただ、基本的には自由に活動してもらう、それでいいか」
「OK。それ位はしないとな」
「分かってもらえて嬉しいよ」
「これからは、友人だ、エドワード」
「ムハメド、いや、これからはなんて名乗るんだ。手続きにも必要だぜ」
「そうだな…。そうだ、ジェームス・スミスってどうだ」
「007か。まぁ、いい。じゃ、これからはジェームスだな」
「ああ、Mのエドワード」
「Mか、秘密兵器は何も与えられないけどな」
「いいさ、これで十分だよ」
「そうか、早速、手続きに入るよ。ちょっと時間は掛かるが、もう少し、ここで我慢してくれ、立ち入り禁止区域以外は自由に出歩けばいい。その日が来るまで」
「Thank you」
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