世にも稀なカーオーナー

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 夜間の走行中、車のヘッドライト目掛けて虫が立て続けに飛んできて虫の死骸がフロント周りに沢山付着するからってヘッドライトに虫除けスプレーを吹き付ける奴ってアンビリーバブルな阿呆じゃな。おまけに吹き付けた後、布で磨けば綺麗になると思って何度もヘッドライトを拭いてその内、白く濁って来ると、うわあ!しまった!やってまった!とか言ってコンパウンドで磨き直すってのも滑稽の極みじゃ。こんな奴とは絶対友達になりたくないと思うのが人情というものじゃが、しかし、こういう妙に間抜けなところがある奴に限って妙に優しいところがあるもので動物保護センターで犬猫を買い取って大事に飼ってやったり、飼い猫がバッタを弄っているのを見て、ああ、いかんいかんと注意して弄るのを止めさせ、バッタを助けてやったり、弱ってる雀を捕まえて餌をやりながら介抱して元気になると、外へ逃がしてやったりする。そういう陰の行いを何よりも第一に重んじられれば、友達として彼を選ぶことが出来るのかもしれないが、自分も間抜けの一員になったみたいな気がするから、これは中々普通の人間には難しいことじゃ。  実際、彼は皆からバカにされている存在で友達がいない。以上の事をわしは彼のブログを見て知った。で、わしは恥知らずにも己の秘密にするべきことを態々カミングアウトする彼を愚かしく思う反面、不憫で堪らなくなったから話し相手になってやろうと国道8号線のパーキングエリアに停めてある彼のホンダビートの横に立ち、白岩川に架かる橋の袂で遠方に聳え連なる雄大な北アルプスを眺め、嗚呼~!OH~!なぞと間抜けな感嘆の声をあげている彼がこっちに来るのを待った。
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