1.同期が居候することになりました。

23/31
前へ
/240ページ
次へ
「いや、寝る場所があるからいいなんていう問題でもないよね?それにさっきサラッとスルーされたけど、私、一応女だよ?付き合ってもない男と気軽に同居できるわけないじゃない」 「大丈夫!在原さんのことは女の子として見ないようにするから。在原さんも、俺のことは気にしなくていいし」 仲林くんが、明るくにこりと笑う。 別に意識されたいわけじゃないけど、キラキラした笑顔で「女として見ない」とか言われると、それはそれでなんかムカつく。 「やっぱり、今すぐ出てってくれるかな?」 小さなダイニングテーブルの横に置いてある仲林くんのスーツケースを外に運び出そうとすると、彼が慌てて立ち上がった。 「いやいや、ちょっと待ってよ。今まさに、もうすこしで交渉成立って感じだったよね?」 「どこが?気のせいじゃない?」 廊下と呼べるかどうかもわからない狭いスペースにスーツケースを押しやろうとすると、仲林くんがそれを全身で食い止める。 それから、胸の前で手を合わせると必死な様子で私に頭を下げた。 「お願い、在原さん。あと2ヶ月分くらいの給料が入らないと、家借りるための敷金とかその他諸々の費用が足りなくて……」 「貯金は?」 「…………」 冷たい声で尋ねたら、手を合わせたままそっと視線をあげた仲林くんが、私を見つめたまま無言になる。 その反応は…貯金ないのか。 永田さんが仲林くんと別れた理由がほんの少し垣間見えたような気がする。
/240ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1558人が本棚に入れています
本棚に追加