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告白の行方
「えっ? 今何て‥‥‥?」
言われたことが到底理解できないとでもいいように、真宙は目をまん丸くして俺を見つめる。
その瞬間、両想いではないだろうかと勝手に期待していたのが見事に外れ、俺の胸に羞恥よりも恐れがせり上がった。
鳴り始めた予鈴の音が、何もかも終わりだな、取り繕う時間もないぞと、脅しをかけるがごとく二人きりの教室に響き渡る。
感情がせめぎ合い、パニックに陥りそうになるのを何とか踏み止まれたのは、驚愕した真宙の表情が一変して、弾けるような笑顔に変わったからだ。
「ひょっとして、なんかの罰ゲームか? 誰か聞いてたりして」
見惚れるような笑顔は、勘違いしていた俺には目の毒だ。
もし、真宙が恋愛慣れした奴ならば、日ごろの俺の態度から、人目を気遣ってさえ隠しきれない真宙への熱情をとっくに感じ取っていたはずだ。
大学に入って間もない俺たちは、まだどことなく制服を脱ぎ切れていない青臭さがある。それは真宙も同じで、身長こそ平均はあるものの、まだ大人の男になりきれていない線の細さや、整っている顔には少年の面影が残っている。
文句なくかっこいい真宙を、アイドルのように崇めたであろう女子生徒は、きっと沢山いたに違いない。
ある意味常識の中でまっすぐに歩んできた真宙の無垢さが、俺の想いや欲望を酷く汚れたものに感じさせた。
つい目で追ってしまう真宙と何度も視線が絡んだのは、同じ課題で組んだ同級生に対しての単なる仲間意識だったというのか。
胸の内で葛藤する俺の思いを想像だにしないであろう真宙が、信頼に満ちた眼差しを俺に向ける。残酷な笑顔が俺を打ちのめす。
「ああ……バレたか。ちょっと賭けをして負けたんだ。よりにもよってお前に告れって言うんだもんな」
俺は今、自然に笑えているか? せめてお前の傍にいられるように、演技はできているだろうか?
俺の怯えも、悲しみも知らない真宙が、俺の腕を叩きながらウケまくっている。
「やっぱりか! びっくりさせるなよ。マジかと思った。祐樹は俳優になれるよ」
「ハハハ……俺は俳優より、伯母のように俳優にメイクを施すメイクアップ・アーティストの方がいいな。去年の夏に伯母のいるロスに渡って現場を見せてもらってから、美大で人物像を描くよりも、直に人の顔に触れて芸術的に仕上げたいと思うようになった。特に映画の特殊メイクに興味を持って、目指してみたいと思ったんだ」
真宙は笑みで細めた目を、またまん丸く見開いて興奮気味に言った。
「すごいな祐樹! そんな大きな夢があるんだ。俺はお前を尊敬するよ」
真宙への恋心をまだ煮詰めてもいない夢で誤魔化すことで、友情よりはランクが上だと思える尊敬を勝ち取り、プライドは保たれたはずなのに……
ただ、ただ、苦しくて……
心を偽り友人のフリをすることに耐えられなくなり、俺は逃げた。
大学を辞め、アメリカにいる伯母の元へと。
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