疫病神は空を噛む

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 無論、我儘に育った坊達の性格が変わることは無く、寧ろ悪化の一途を辿ることになる。全教科の家庭教師を付けられ、朝太陽が昇ってから夜落ちるまで、机の席から立つことを許されない毎日。二度目の冬、片山が顔を合わせた元悪友達は、別人のように痩せこけていた。結果として全員合格はしたものの、三名の虫の居所は悪いままで、三年間の学生生活を謳歌し、それぞれが大学等に進学して三年、久しぶりに飲む話が上がり、全員内田家に集められた。 「一年、一年だぞ。俺らの一年を無駄にしやがったんだ、あの教師」  コンビニで買ってきた度数の低いビールを飲み干し、アル中のような態度をとる内田に、大島も荒山も同意する。 「数学の神田だろ。あの顔見るだけで吐き気するわ」  最後まで学年最下位に居続けた大島より、荒山は自分の方が嫌だったと主張する。 「俺なんか神田が副担任だったんだぞ。毎日朝も夕方も顔見なきゃなんねんだ、生理的に無理だっつの」  自分の非だと認めていたのは片山のみで、他三名は他の教師をも困らせるほど普通〈ではない〉生徒であった。言ってしまえば歴史ある進学校の汚点のようなもので、両親も参観日や保護者会への出席歴は一度も無い。 「そこで、俺良い事考えたわけよ」  内田が自身のベッド下から引きずり出したまっさらな段ボール箱から取り出されたのは、使用形跡の全く無いボウガン。 「神田、まだ俺らの高校で仕事してんだって。だから尾行してみたら、毎月二回くらい高速通ってんだよ。しかもいつも下りるインターチェンジが一緒なわけ。だから軽くちょっかい出してみようぜ」  内田の購入したボウガンを持って神田雄介の後部に付き、タイミングを見計らってタイヤに向け矢を放ち、首都高上で強制停止させるという作戦だ。 「まぁ、死なない程度に手出すならいいんじゃね」  荒山は勿論賛成し、車を持っている内田に代わり、ボウガンで矢を放つ役割を自ら受け持つ。 「大島はさ、もう警察官なわけじゃん。パンクってことにしてえから、俺らの車GPSで追っかけて、そこら辺をパトロールしといてくれよ。で、警察の応援が来る前に矢を引っこ抜けば、パンクってことにできんだろ」  何とも頭の足りなさが露呈する計画だが、大島も大賛成と言って笑っている。警察がこれであれば日本も末だと思いながら、片山は一人荷物を持つ。 「おい、どこ行くんだよ片山」  遠回しに協力しろと命令してくるような瞳に怯えず、片山は内田の手をはらう。 「俺はパス。もう就職先の内々定もらってるし、面倒なのごめんだから。別に今の内容を誰にも言わなきゃいいんだろ。勝手にやれよ」  〈優等生気取りが〉〈所詮中小企業だろ〉散々な罵声を背後から浴びせられたが、既に友人ではなくただの他人と化した人間から何を言われようと、全く響きはしなかった。  そうして後日流れたニュースに出た名を見て、片山はお気に入りのマグカップを割った。計画通り事故とされてはいたが、ちょっとしたいたずらの範疇を越えており、片山は急ぎ彼らの連絡先を削除する。その時点で警察に全てを伝えれば済んだ話だったのだが、当時の片山にそのような勇気は無かった。
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