3話

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 あれ以来、あの素敵な殿方に出会えていな。  悲しいけど、私の肌は今日も絶好調。    朝のウォーキングをすましてアパートへと帰っていると。   「……またですか」 「ええ、またですよ」  アパートの前で箒をもった大家さんと、このアパートに住んでいるおばさんが何やら話し込んでいる。 「空き家になったていうのにお昼頃になると物音がするってクレームが」 「やっぱり、一度見てもらったら」  空き家……。空き家ってまだこのアパートあったんだ。 「若い子は怖くなってすぐ引っ越すし、今じゃ一人しかいないよ」 「ああ、あの子ね、可愛らしいわよね」  へへ、ありがとうございます。  こそこそと階段を上がりながら一人ほくそ笑む。  いや、まって。大家さん。いまなんて言った? 『若い子は怖くなってすぐ引っ越すし、今じゃ一人しかいないよ』  若い子って、え、私一人ってことは……お隣は……。    まって、確かお隣って空き家だったはずじゃあ……。  血の気が一気に引いた。  ドクドクと脈打つ心臓がうるさい。  まってまって、まさか……ね。声もちゃんとしたし。  重い足取りで自分の部屋の隣、例の空き家だった部屋のドアを見た。  まさか……ね。 「部屋なんて他にもあるしね」  帰ろ帰ろ。    そう、自分の部屋のドアノブに手を掛けた途端。  ガチャン!   何か皿が割れる音が隣の部屋から聞こえてくると、  ドタ! ドタ! ドタ! ドタ!   と重たい足音が猛スピードで玄関へと近づいてくる。 「ひいぃぃぃ」
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