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5話
「いやあ、すいませんね。泊めてもらって」
悪びれもなく笑うねえちゃん。
「ほんとだよ。宿泊代とるからね」
「相変わらすケチねアンタ」
「いなやなら他当たれ」
今日はねえちゃんが遊びに来た。なんでも再就職先が決まったらしくその祝いに友達とアイドルのコンサートに行くのだとか。
「あれ、隣……」
「ああ、先月ぐらい前に引っ越した」
「いや、そうじゃなくて」
「ああ……」
ねえちゃんが言っているのはあっちのほうか。
「ここの住んでた幽霊も少し経って成仏したんだよ」
きっと自分が死んだことにやっと気づけたのだろう。あの綺麗な幽霊の気配は僕がゴキジェットを買いに戻った後、綺麗になくなっていた。
「いやいや、さっき隣の部屋に小汚いオッサンの霊が入っていったけど」
「まじかよ、おい! 勘弁してくれよ!」
「あ、そうそう、霊で思い出した」
部屋に上がるとねえちゃんは小ぶりなキャリーケースを開けて何かを探し始める。お、化粧水今でも使ってるんだ。そういや、肌ツヤいいもんな。
「あった、はいこれ。お父さんから」
ねえちゃんが手渡したのは、厳かな文字で書かれた護符だった。雑にしまったのだろう端の方がちぎれてよれよれだ。
「お父さんも母さんも年末ぐらいは戻ってくれないよさびしいってさ」
「いや、絶対神社の手伝いさせられるだろ」
「はは、まさか」
むすっとした俺の顔なんか気付いていないようにねえちゃんは快活に笑う。
ブラック企業を辞めてから覇気がなかったねえちゃんの顔は自信に満ち溢れ、前より綺麗になっていた。
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