第1章 雨は咲く

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 20XX年7月。例年通りであれば梅雨などとっくの昔に明け、すべてを溶かしてしまうような夏の日差しが降り注いでいるはずだった。 「東海地方の異常気象は今日も変わらず、雨が降り続けています」  東海三県のニュースがメインに流れるチャンネルに合わせられているのはいつものことで、母が朝のコーヒーを飲みながらテレビに向かってため息を溢した。 「嫌ねえ、雨なんて。洗濯物が乾かへんわ」  連日降り続く雨は雨雲がここら一体に停滞しているのが原因らしく、今週の天気予報は全て雨マークで埋め尽くされていた。 「いってきます」  いつもの黒いリュックを背負って俺は靴に足を押し込んだ。母の「いってらっしゃい」というこれまたいつもの声を背に受けながら、傘を片手に玄関の戸を開ける。  しとしとと静かに降り注ぐ雨粒を見上げて、「今日は小雨だな」と青い傘を空に掲げた。
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