生きているれば人は変われるのか、変わるのか

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生きているれば人は変われるのか、変わるのか

「らしさ」というのがあって、「自分らしい」というのは自己評価で「あのひとらしい」というのは周りがその人をどうみているのかという評価ともいえる。  パーフェクトな人はなかなかいないというのが世間のなんとなくの風潮だとして、つまりは短所長所はある意味表裏一体であることの表れでもある。  人は失敗したときに短所のせいにし、成功したときには長所のおかげだと自他ともに納得をすることが多く、ゆえにネガティブな結果に対して「自分はかわらないといけない」と自分を責め、「あの人のそういうところが駄目だよね」と他人を責めるのだと思う。  さて、成功者の中にはそんな自分の短所を改善して成功したとするサクセスストーリーがよく見られるし、よく噂話と知って聞くことがある。その意味では人は変われるのだと啓蒙することは至極ありきたりのようであるにもかかわらず、それがなかなかできないという「あきらめ」が存在するのはなぜだろうか。  当たり前のように人は変われない。Aという人物がBという人物に変身することは不可能なのだ。「変わる」というのを成長ととらえればそれは当たり前に人は変われる。それはむしろ変わらないことが難しい。  つまり人は簡単に変わるし、簡単には変われないというのが俯瞰でみた時のひとの営みなのだろうと思う。あこがれる何かになることは容易ではないが、変化を拒むこともまた容易ではない。なりたい自分になるということはなれなかった自分にはやれそうにないという感覚はずっと付きまとうのだろうし、それを実践して見せた人にとってはそれこそこが成功のカギであると言いたいこともよくわかる。  さて、違う側面から人が変わるかどうかについて考えてみる。  お金のことになるとあの人は別人になるとか、酒を飲むと人が変わったように暴力的になるとか、いい人なんだけど異性のことになるとまるで別人になるとか、そんなことがある。  これらは総じて他人がその人をどの部分を見て、どう評価しているかという話であって、その人の過去や環境や生い立ちや血筋や社会的地位など、あらゆる観点からその人を評価すれば、納得のいかないようなケースは極めて少ないように僕は思う。  或いは科学的に説明のできる遺伝的な依存症というのもこのケースには含まれるだろう。どんなに家庭的な性格をしていてもギャンブルや酒で家庭が崩壊してしまうという話はどこの社会でもある話だ。  知らない人にとっての豹変を「悪魔憑き」のような民俗的オカルト現象とする例の話も好物なのだけれども、ここでは人間関係によって人が変わっていくという話をしたいと思う。  結婚してからあの人は変わったとか、だれだれと付き合うようになって性格がかわったというたぐいの話をしたいと思う。たとえばとてもよそよそしい感じの付き合いしかできなかった人が急に温和でフレンドリーな挨拶やスキンシップをするようになったとか、そういう話である。  人は社会の規範に合わせて生きることを得意とする生き物で、家庭、家族、地域コミュニティ、学校や職場など、集団生活をするなかでの自分に合って尚且つ他人に迷惑をかけない生き方を選び、そこに自分を落とし込んでいく。  もちろんその逆にすべて自分の思い通り、自分がストレスに感じないようにそれらの環境を作り変える人もいる。  前者を順応タイプ、後者を支配タイプとした場合、これらの人物がそれぞれ逆の属性に目覚めたときに他人から見るとずいぶんと変わったなと思われるのだが、当人からしてみるとそれは気が付かなかった近道を見つけたり、見えていなかった景色に立ち止まったりすることと似ていて、自然なふるまいであることが多い。  逆にそうした「気づき」ではなく、影響力の大きな相手に矯正されるということがあり、これは不自然であり、その影響下の中で本来あるべき自分とのギャップにストレスを感じ、ある種の精神的病やアルコールなどに逃避し依存症に近い状態に陥ることがある。  極端に言えばそれは洗脳や精神的支配という暴力である。  そしてもっとも理性から外れ暴力的な人が変わるきっかけは「本気で人を好きになる」ということではないかと僕は考えている。どうしようもなく誰かのことを好きになったとき、人はそれまでの人ではいられなくなる。  生きていれば一度くらい、そうした「好き」を体験できるのだろうか。まだ先は長いと僕は思っているので、それもまた生きているうちの楽しみの一つなのだと思う僕は、10年前とは確かに変わっているなと思う。  ゆえに人は生きていれば変われるし、変わるのだと思う。50歳を過ぎていようが、妻子があろうが、そんな瞬間がないとあきらめるよりはいいように思う。  夜空には未確認飛行物体が、湖には未確認生物が、誰も住んでいない洋館には幽霊がいるかもしれないと思っていたほうが、人生は楽しい。それらに恋愛を加えたところで、謎は謎のままがいいことには変わりはしないのだから。
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