RAIN3 友達ってそういうこと

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 その日の夜、紅音に会った。  いつもの店で待ってる、とラインが届いたのだ。 「昨日、突然帰るなんて、ひどいじゃない」 「ああ……悪かったよ。昼間も航生に責められたばっかりだ」  静かなイタリアン中心のカフェが二人のいつもの店だった。夜はアルコールが出てくる本格的なカフェ。  けれど、今日はアルコールを入れる気分にはならなかった風吹はエスプレッソをダブルで頼んでから、目の前の紅音を見詰めた。 「でしょうね。二人で待ってたんだから。帰りなんて、航生くん、防具二人分担いで帰ってくれて」 「そうだな」 「……ねぇ、どうして?」 「ん?」 「どうして……急に帰ったの?」  紅音の言葉の前に、店員がカップを置く。 「うん…そうだ、これ」  風吹は、その腕の向こうの紅音の目か痛くて、すぐに逸らして鞄の中をまさぐった。  取り出したのは、手の中に納まるほどの上品な箱。濃いブルーのそれに、薄いピンクのリボンが巻かれている。 「これ……何?」  話を逸らされて少々機嫌の悪い紅音は、テーブルに差し出されたその箱をすぐに拾おうとはしなかった。 「いいから、開けて」  エスプレッソに口をつけながら風吹が言うので、紅音はゆっくりと箱に巻かれたリボンを解いて蓋を開けた。 「……これ、何?」 「何って……ブレスレットって言うの? そういうの、お前の方が詳しいじゃん」 「じゃなくて……どうして?」 「昨日のお詫びと、遅れたバースデープレゼント」  風吹の言葉に、紅音はさらりとブレスレットを落した。  テーブルに落ちたそれは、照明に当たりピンク色の石がキラキラと反射する。  ハート型のピンクトルマリン。十月の誕生石だというのは、今日貴金属店の店員に初めて聞いた。 「……紅音?」 「どうして……そんなに、優しいの?」 「……は?」 「聞いてたんでしょう……昨日の話。だったら、普通、別れようとか……そんなふうに言うんじゃないの?」 「別れたいか?」  風吹の言葉に、紅音が唇を結んで俯いた。  その様子に風吹はブレスレットを拾って紅音の手首を取った。さらりとチェーンを引っ掛ける。それは紅音の手首でキラリと光った。 「……風吹……?」 「似合うよ。最後に、まともなプレゼントやれてよかった」 「風吹、待って。別れたいわけじゃないの。よく……わからないの。こんなのズルイってわかってても……航生くんに、惹かれるのも止められなくて……」 「わかるよ。航生はイイ男だから。でも……俺もそんなにデカイ器持ってなくてさ。友達に戻ろう、紅音」  穏やかに最後通告をするのは、一番キツイかとも思った。けれど、その方が、次へ滑り出しやすいだろうとも思ったから。  彼氏の親友へ『乗り換える』。そんなふうに言われるだろう、目の前の『友人』を支えてやれるのは多分自分だけだ。  だから、怒鳴ったり詰ったりして、関係をゼロに戻すわけにはいかないから……そう思った自分は結局まだ、紅音が好きなのかもしれない。恋愛感情とはまた別の階層にある好き、みたいなもの。  だから勿論、守ってやるのは航生だ。自分はあくまでサポート。  今の風吹は、なぜだかそんなふうに結論付いていた。 「風吹、そんな急に……」 「じゃ、また明日。学校で」  紅音の困惑した目を振り払うように立ち上がると、伝票をひらりと摘んで席を離れた。
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