RAIN3 友達ってそういうこと

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「んん~、これで良かったんだろうか……」  自宅のテーブルに片頬をひっつけて力なく座り込む風吹の前に、カップが置かれる。 「あ、サンキュ」  右手にカップを持った蓮が目の前に座った。 「ハンコ押して提出してきたの?」 「ん……後は向こうがサインして、航生に提出するだけだな」 「へぇ……俺はてっきり『サインして出しておいてね』って言われたのかと……」 「お前みたいなの拾っちゃうような『お人好し』ですからぁ?」 「あら、やっぱり暗喩してるのバレました?」 「教育学部をなめんなよ」  蓮がほほほ、なんて似合わない上品な笑い声を立てるので、風吹は余計にため息を漏らす。全く下手な冗談ばっかり言いやがって暢気な奴、と心の中で呟く。 「ところで、遠藤」 「あ?」 「もう九時過ぎたんだけど、腹減らない?」 「……減ると思うか? 彼女と別れて帰って来た俺の腹なんかが」 「うーん……ま、それでもなんでも腹は減るって言うじゃん」  しかめ面の風吹に対し、明るい笑顔で蓮が返す。 「減ってない」  風吹はふと視線を、胡坐をかいている足元へ落とした。 「……ホントに減らないんだ」  繰り返すと、蓮もさすがにその顔から笑みを消して静かに頷いた。 「俺、コンビニ行ってくるよ」  その一言を残して、蓮は玄関を出て行った。 「……遅い」  歩いて五分かからないコンビニへ行ってから既に三十分。未だ蓮は戻ってなかった。  どんだけ食うもんに迷ってんだよ、と最初は思ったが、妙に胸がざわついてもいた。  風吹は大きく息を吐いてから立ち上がった。 「たいした手間でもねぇし……ビールも切れたし」  自分への言訳を口にして、風吹はコンビニへと向った。  そのコンビニへ行くには、児童公園を突っ切るのが正しい進み方だ。まあ、女性や子供にはオススメしないが、剣道二段の大学生には大いに勧めたい。  風吹はジーンズのポケットに両手を差し込んだまま、ふらふらと街灯の下を歩いていた。 「離せよ!」    そんな風吹の耳に、怒鳴り声が響いて思わず立ち止まる。  なんだ? と、辺りを見回すが人影らしいものはない。幻聴かと歩を進めると、更に茂みが動く音がした。 「冗談じゃねぇよ!」  更に怒鳴り声。 ――ていうか、俺が冗談じゃねぇよって気分?  風吹は一つ深いため息をついてから、茂みの方へ向った。  背の低い針葉樹と、伸びすぎた雑草をかき分け、奥にある朽ちかけたベンチへ近づく。 「なあ、こんなトコでやったらすぐバレるぞ」  風吹の声に、背を向けていた二人が振り返った。若い男だ。自分と同じくらいだろうか。その奥の人影を見て、風吹はため息を吐いた。  奥のベンチに押さえつけられていた声の主が、風吹を見詰める。 「え、んど……」 「お前はコンビニひとつもまともに行ってこられねぇのかよ」  風吹は更にため息をついて、その人に手を差し伸べた。  が、すぐにその手は弾き飛ばされる。 「蓮ちゃんは今夜、俺たちと遊ぶ予定なんだ。横から出てこられちゃ困るな」 「あー……悪いけど、今夜は俺ん家で呑む予定入ってんだよね。先約優先って言葉、知ってる?」  蓮を押さえつけていたうちの一人と対峙する。背丈は同じくらいだった。見目は、自分で言うのもなんだが、勝ったと思った。それから、多分腕っ節も負けないだろう。 「遠藤、俺はいいから!」  肌蹴たシャツを片手で押えて、蓮は言い放った。 「いや、俺が困る。こんな日に一人で呑ませる気かよ。冗談じゃねぇよ。連れて帰る」 「遠藤……」  蓮が泣きそうな顔でこちらを見つめる。昔姉の部屋で読んだ少女漫画の主人公がヒーローに向けた顔、そんなものをふと思い出して、風吹は笑った。 だったら約束通りヒーローになってやる、と風吹は近場に落ちていた枯れ枝を拾い上げ、それを振り上げた。 「コイツと遊びたけりゃ、まず俺と遊んでくれないかな?」  風吹が枝を正眼に構える。 「ふざけたこと、言ってくれるな」  二人は、いやらしい笑みを浮かべた。  が、そんな笑みも数分で消えることとなる。
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