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RAIN4 踏み出すって簡単なこと
翌日は、蓮も学校へ行くというので、バイクの後ろに蓮を乗っけて家を出た。
足は一晩のアイシングのお陰で大分腫れは引いたようだった。
「帰り、一人で平気か? 自宅まで送るぞ」
信号待ちの間、風吹は後ろの蓮に聞いた。徒歩や公共機関での移動は、まだ辛いのではないかと判断した。
「いや、大丈夫。なんとかなるよ」
「けど、お前、それじゃ治るもんも治らないんじゃないのか?」
「平気。俺、モテるから、送ってくれる奴ならたくさん居るさ」
後ろで笑いながら蓮が言う。風吹は、軽くため息をついてから地面を軽く蹴った。
「そうでしたよ」
青信号と共に、バイクが走り出した。
大学構内を低速で走りぬけ、経済学部の棟へと辿り着くと、風吹はその前でバイクを止めた。
風吹は、車体を止めて自分が降りると、蓮に手を貸してやった。ゆっくりと降ろしてやる姿は、気障な男に見えなくもない。あたりの視線がこちらに集まるのが風吹にも分かった。
「……目立っちゃったみたい」
小さく蓮が呟く。
「はあ? 怪我人降ろすのに、他にどうしろっていうんだよ」
風吹の主張は尤もである。けれど、世間の目というのは、面白い方を向きたがって、面白い方へ解釈したがる。
「さしずめ、俺の新しい男とでも思われてんじゃない?」
「……お前、自分の性的趣向オープンにしすぎだぞ」
「それは維幸さんに言って。『蓮は俺のだから手を出すな』って言って廻ったのはアイツなんだから。俺は被害者」
「つか、経済って、そんなオープンなの?」
「まあ……男が多いのは確かだね。だから、簡単に受け入れられる。勿論、興味の対象として」
「……晒し者って、わけ?」
「ステージの上のお猿?」
「水族館のイルカ」
「イルカの方がまだプライバシーがあるよ」
互いに例えを言い合ってから、蓮がやんわりと笑う。自嘲めいてるのは明らかだった。
「……だったら尚更気をつけろよ」
「足なら、大丈夫だよ」
「ちげーよ。昨日みたいなの。その足じゃ逃げらねぇだろ」
「あ、ああ……! そうだね」
「んな、軽く言うなよ。……もっと自分、大事にしろ」
風吹は蓮の耳元で言うと、すぐにバイクに戻った。
エンジンを掛け、ゆっくりと走り出す。
「遠藤!」
その背中に、蓮が叫んだ。
周りの学生も視線をそちらに集めたが、蓮は気にせず、バイクを止めて振り返った風吹に言葉を繋げる。
「俺、遠藤のこと、好きかも!」
「……………はあ?」
充分間をおいてから、風吹は素っ頓狂な声を挙げた。
「俺は、ノーマルだ!」
慌てて言い返すと、蓮は楽しそうに笑った。
「知ってるよ。友達に好きって言ってもいいじゃん」
「お前が言うとややこしいんだよ。じゃあ、行くぞ」
「うん、ありがとな」
蓮は笑顔のまま、風吹の背中を見送った。
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