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昼休み、風吹は彼女の姿を探していた。
二講目をサボり、戻ってきたら既に昼だった。
「くっそ……講義中に戻るはずだったのに……」
平日の道なんか混んでないだろうと思っていたのだが、途中事故があったらしく、思いっきり渋滞していた。ただの渋滞ならかわして来れるのだが事故だとそうもいかない。
食堂へ入り、見渡しながら一周する。同じようにカフェの方も覗いたが居なかった。
校舎を出てすぐの芝生を見渡す。
「あ……」
風吹の目に、航生の広い背中が映った。
「探したぞ、二人とも」
談笑する二人に駆け寄って、風吹は近くに腰を降ろした。
二人の笑い声が掻き消え、表情が面の様になる。そりゃ、二人にとって自分は気まずい存在だろう。けれど、このまま距離を置くのは嫌だった。
「な…に? 俺、やっぱ邪魔?」
「あ、いや……そう、じゃなくて。ココに居たくないのは、お前の方じゃないのか? 風吹」
真剣な面持ちで聞く航生に対し、風吹はきょとん、とした顔で首を捻る。
「……どして? 友達と昼飯喰う権利くらい、俺も持ってると思うけど」
「お前……俺のこと、友達っていうのか?」
「……え、俺、絶交されてたの?」
航生はその言葉に、ふ、と笑い出した。
「ホント、昔からお前には敵わないな」
「なんだよ、一人で笑ってんなよ」
風吹が一通りふて腐れると、思い出したように鞄に手を突っ込んだ。
「そうだ、これを渡そうと思って探してたんだ」
取り出したのは小さな紙袋。ジュエリー店のロゴが入っている。
「はい、紅音」
「え……何?」
「うん。開けてみ」
渡された紅音は、驚きながら中を開けた。
「これ、昨日の……」
出てきたのは、銀色がキラリと輝くブレスレット。
「じゃないよ。よく見てよ」
風吹は楽しそうに笑った。
「……石が黄色になってる……もしかして、これ……」
「トパーズっていう石なんだって?」
紅音の顔が歪む。今にも泣き出しそうになって、俯いてしまった。
「何? どういうことだ?」
取り残された航生が突然のことに慌てて風吹を見る。
「取り替えてきたんだ、さっき」
「昨日のと?」
「うん。店の人に無理言って」
「どうして?」
航生が聞くと、紅音が目にいっぱい涙を溜めたまま口を開いた。
「この石ね、十一月の誕生石なの……私の、本当の誕生石」
「あ……そっか、それでお前昨日……」
航生は昨日風吹が紅音の誕生日をしつこく聞いたことに合点したようだった。
「友達としての最初のプレゼント。ちょっと早いけど」
「風吹、ありがとう。すごく……ものすごく嬉しい」
紅音はすぐにブレスレットを手首に巻いた。
「他の男からのプレゼントなんて、身に付けられたらやっぱ嫌か? 航生」
「……風吹以外なら、捨てさせてるけど」
「悪いな、航生」
風吹が言うと、航生がはっとしたようにその顔を見つめた。
「泣くなよ、風吹」
「は? 俺、泣いてねぇよ?」
言いながら、頬を触ると指先に水滴がついてきた。
ふと、空を見上げる。今にも垂れてきそうな厚い雲が、少しずつ滴を零し始めていた。
「雨……?」
「本降りになる前に中、入ろうぜ」
三人は頷き合ってから立ち上がった。
午後の講義に入ると、窓の外は暗く激しい雨音が響いていた。
帰りはバイクを置いて、公共機関を使わなきゃならないな、なんてぼんやり考えながら空を見詰める。
止む気配のないそれに、風吹はため息を漏らした。
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