RAIN2 恋人ってどういうこと?

1/4
前へ
/20ページ
次へ

RAIN2 恋人ってどういうこと?

「お待たせ」  それから数日経ったある日の道場。稽古を終え着替えた風吹は、恋人と親友の待つ道場の入口へ向った。 「帰ろうか」  風吹の言葉に航生が笑顔を見せる。 「ねぇ、風吹。明日試合なんだって?」  道場を後にして歩き出した紅音が風吹を見上げる。 「あ? ああ。言わなかった?」 「聞いてません」 「あー……悪ぃ、ここんとこバタバタしてたからさ」 「バタバタって?」 「ま、色々な」  風吹が流すと、紅音はぷぅと頬を膨らませた。  しかし紅音にまた人に騙されました、なんて言ったら、だから風吹はお人よし過ぎるって言われるのよ、とため息をつかれるだけだ。彼女の前ではやっぱりカッコいい自分でいたい。 「またそうやって誤魔化すんだから」  紅音が拗ねたように言う。 「ホントに風吹、忙しかったんだよ」  そんな紅音を見て、すかさず隣の航生が助け舟を出した。 「どんな風に?」 「明日の試合、なんと風吹と俺、団体戦の正メンバーになりました」 「嘘、ホントに?」 「ああ。風吹が中堅で俺が副将。ま、Bチームなんだけどね」 「すごいじゃない! 明日、バイトさぼって応援行く!」  紅音が声を張って言い放った。 「でかい声でさぼるとか言うなよ」  風吹は煩そうに言うと、紅音は舌先を出して、そうね、と笑った。  それを見ていた航生が柔らかな視線で紅音を包んでいた。  俺はいい親友を持ったと思う。航生は心底いい奴だ。性格もそうだが、見目も充分だと思う。彼女が出来たら二年はもつ。今は、特定の相手はいないようだけど、時々道場に会いに来る数人の女の子がいるのも知っていた。航生をからかうと、積極的すぎるのはどうも苦手だ、と本音をもらしていた。ただひとつ、こいつの欠点を挙げるとすれば真面目すぎて不器用なこと、だろうか。  人によっては、長所と言うかもしれない。  そんな航生が自分だけではなく、恋人の紅音にも優しくして、仲良くしてくれていることが風吹は嬉しかった。 「とにかく、明日は行くからね。応援」 「はいはい」  紅音の言葉に風吹が頷く。 「航生くん、頑張ってね」 「ありがと、紅音ちゃん」 「俺は応援なしかよ」  笑いあう二人に風吹が割ってはいる。 「風吹の試合、何秒で終わるかな。ストップウォッチ要る?」  紅音の言葉に航生が笑い出す。 「ばっか、お前……毎日来てて稽古見てねぇのかよ」 「そうだよ、紅音ちゃん。風吹は運動神経だけはいいんだから」  尚も笑いながら言う航生に、風吹はふて腐れたように返す。 「運動神経だけかよ」 「お前ならどんなスポーツでもこなせるのに、敢えて母上が剣道をやらせたのはどうしてだっけ?」 「……お前は少し精神を鍛えてこい、ってさ。まあ、道場に航生も居たしな」  昔のことを思い出しながら風吹が答える。小学校の高学年の頃の話だ。故に、航生との付き合いもそこまで遡る。 「へぇ、風吹と航生くんってそんな長い付き合いなんだ」 「まあ、こいつさ、サッカーもバスケも野球も自分ひとりでやろうとするんだよ。スポーツマンシップってのに欠けてたの」 「要は点数入れりゃ勝ちなんだろ。楽勝だろ。サッカーもバスケもゴールは動かないし、野球だってわざわざ俺に球投げてくるんだから打てばいい話だろ」 「なんて、言うもんだから母上が激怒したわけ」  風吹の言葉尻を拾って航生が繋げた。 「柔道と剣道どっちにするっていうから、剣道にしたんだよ。今じゃ流れで続けてるけど……楽しかったな、あの頃」 「へぇ、風吹でも楽しいって思うことあるの?」  紅音は茶化す様に口を挟む。 「いっぱいあるぜ、紅音といちゃいちゃする、とか」 「そういうことを聞いてるんじゃないだろ」  航生が後ろから軽く後頭部を叩いた。 「冗談だろ、殴んなよ」  風吹がたいして痛くもない頭を擦りながら航生を軽く睨む。その視線に笑顔を向けた航生が、とにかく、と口を開いた。 「明日はその鍛えて身に付いたスポーツマンシップを発揮してくださいな」 「あんまり育ってないかもしれないけどね」  二人で笑い合うと、紅音が「またじゃれてる」と言って笑った。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

184人が本棚に入れています
本棚に追加