RAIN2 恋人ってどういうこと?

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「ごめん……風吹」  翌日の試合会場。防具をつけたままの航生が壁際で試合を見守っていた風吹に頭をたれた。 「気にすんなよ」  風吹は航生が隣に座ると、面の結び目を解きながら言った。 「けど……」  面を外した航生が風吹に視線を合わせる。風吹は軽く首を振ってから「整列だ」と言って立ち上がった。  試合は二回戦で終わった。  一回戦で大将が負傷するというアクシデントに見舞われた風吹たちは、とりあえず残りのメンバーを繰り上げて先鋒に補欠を加えた。中堅まではみごとに崩され、風吹で巻き返した。大将同士の一戦、辛くもこちらの負けとなった。  航生は、それを悔いているらしい。 「なあ、航生。もうそんな顔すんなよ」  着替えて鞄に防具を詰めながら風吹はぼうとしている航生を見上げた。立ち尽くしたままの航生は、まだ着替えすら終わっていない。 「……風吹が大将だったら良かったのにな」 「ばっか。俺が向こうの大将に負けたから、お前に代わったんだろうが」 「先鋒からずっと抜いてきて、体力だって落ちてた。逆に俺が抜いて、風吹が戦ってたら……」 「ホントに航生はバカだな」  立ち上がって、航生の手から防具を奪ってそれを彼の鞄に詰め始める。 「バカってな……」  航生が風吹を見やる。その視線に風吹が笑いかけてから口を開いた。 「人生において後悔ほどばかげたことはない」 「……誰の言葉?」 「遠藤風吹。知らないのか?」  風吹が笑顔を向けると、航生もようやく顔を綻ばせた。 「よく知ってるよ」  そう小さく呟いて。 「二人ともお疲れ!」  会場の外に出ると、入口に手を振る紅音が立っていた。 「お前、ホントにバイトさぼったのかよ」 「うん。白谷紅音は只今三十八度の熱を出して自宅のベッドで休養中です」  紅音が小さく舌先を出して笑った。 「航生くん、惜しかったね、二回戦。向こうの大将逃げすぎだよね。審判絶対贔屓してるよ」 「ありがと。でも、仕方ないよ。次の試合までせいぜい頑張るさ」 「その意気! じゃあ、これから残念会しようよ」  紅音の提案に、二人が頷く。 「ここはぱっと呑みに行こうか、航生」 「たまにはいいかもな」  航生もようやく自戒の念から解かれた様に笑った。    入ったのはチェーン店の居酒屋。最近では珍しくない、個室ばかりの店だった。防具や竹刀を担いだままだったので荷物を気兼ねなく置けるのは有り難い。  最初の一杯から、片手で余るくらいの杯を重ねた頃、風吹はトイレに一度席を立った。 個室の障子を閉めてトイレへと向う。  航生と紅音が仲良く談笑していた姿を思い出し、不意に風吹に笑顔が零れる。初めの頃は、こうして自分だけが席を立つなんてことは出来なかった。紅音はよく喋るが意外に人見知りなところがあって、仲のあまりよくない人相手だと、急に無口になってしまう。航生は、元来お喋りではない。口数が少ないからといっていつもしかつめらしい顔をしているわけではないのだが、恐いんじゃないかという印象を持たれがちなのだ。  間に風吹が居ないと、三分と間が持たなかった。今なら多分三十分、いや、三時間だって平気だろう。親友と恋人と自分、今のこの関係が心地いい。
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