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雨が降る夕暮れ、僕は傘に当たる雨音を聞きながら、絶望していた。
昨日、友人のケイが何者かに襲われた。道に倒れているところを通りがかった人に発見され、ケイは病院に運ばれた。検査の結果、彼に目立った外傷もなく脳にも異常はなかった。しかし、ケイは目を開けず、原因不明の昏睡状態と診断された。
町の防犯カメラには、黒い人影に殴られるケイが写っていたらしいが、犯人は一晩経っても特定されなかった。
今日、高校ではその噂話であふれ、明後日に控えた文化祭の事など生徒達の頭から霞みつつあった。事件の犯人は誰だ、とか、目的は何だ、などと同級生の身に起きたショッキングなニュースについて、意見を交わしていた。
―――正直、目的も犯人もどうでもいい。ケイを返せ。
僕は、はぁぁぁ、と深いため息をつき、傘を強く握った。
雨足が強さを増し、傘に当たる音が強まった。
雨男の僕は、自分や自分の周りの人のイベントが起きた時は、いつも雨だ。小雨、大雨、霧様だったり、スコールだったり。形は様々だが、いつも雨。
ケイの見舞い帰りの今も、小粒の雨がパラパラと降り、悲しい出来事をより一層、感傷的に演出していた。病院で横になった彼はただ寝ているだけのようにしか見えず、安らかな顔をしていた。
「ケイ、目覚めないのかな」
「目覚めますよ」
後ろから可愛らしい少年のような高い声がして、振り返った。
しかし、誰もいない。
「気のせいか?」
「ここです、ここ」
目の前に、てるてる坊主が浮かんでいた。
間違いなく彼(?)は白い布に描かれた口から、言葉を発した。
「嘘、…だろ?」
「嘘じゃありません。私が喋りました」
僕は驚愕し、嘘だ、ともう一度、声を発した。
「残念ながら嘘ではありません」
てるてる坊主はしっかりと言葉を発し、僕を見た。傘に当たる雨音はまた強くなり、ビニール傘越しの雨は、墨汁の様に急に真っ黒になった。
「何だよ、これ。てるてる坊主は喋るし、雨はなんか急に黒くなるし…」
「ちょっとお邪魔しますよっと、私はテルと言います。以後、よろしくお願いします」
てるてる坊主、ことテルは断りもなく僕の傘に入った。
ピンクで描かれた口が雨で滲み、不気味だ。空中にふわふわと浮いており、糸や仕掛けは見当たらない。
僕の頭がおかしいのか?
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