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1.
ここしばらく、初夏の陽気が続いている。
湿度はまだ低い。
日中は急に暑くなったりするけど、夕方になると、風が渡って気持ちがいい。
私は近頃、この公園のベンチで過ごすのが好き。
林は木々が生い茂る、鳥のサンクチュアリだ。
おしゃべりな鳥たちが、さえずりを交わす。
『ききみみずきん』を持っていたら、何て言ってるのか、わかるかな。
ベンチの前には、クローバーのじゅうたんが広がる。シロツメクサが咲いてる公園なんて、どこにでもある。でも身近すぎて、誰も気にとめないんだろうなと思う。
私はしゃがんで、スマートフォンを構える。
ガシャッと撮影音がする。
フレームに収まった画像を見て、ふふふと微笑む。
『白いぽわぽわ
ちょっとだけ足を止めて、見て。
シロツメクサの白い花が、
だんだんと妖精に見えてくるの。
風が吹くと、
ふるふると頭を揺らしてるみたいだから』
コメントを付けて、SNSに投稿する。
私のハンドルネームは千花。
小学校の時、幼なじみで大好きだった男の子が、千という名前だった。
それに、自分の名前が撫子という花の名前だから、組み合わせて付けた。
私だけの秘密だ。
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