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太陽の鎮魂歌
そっと自身の金髪に櫛を通し、絡まった髪を丁寧に梳かしていく。それが終わったら次はメイク。下地を塗り、それからファンデーション。淡い桃色のチークをつけたら、口紅は少しだけ赤みが強いものを選ぶ。睫毛は――整えたい気持ちはあるが今日はやめておこうと諦めた。なんせもう、デートまで時間がないのである。
「私……可愛い?今日の私可愛い、ですよね?」
フレイアは目の前の鏡に、何度も何度も問いかけた。残念ながら鏡に映る金髪碧眼の女性は不安からしかめっつらで、お世辞にも愛らしいと呼べるような表情ではない。ああせめて、こんな日に寝坊しなければ。そうしたらもっと、ギリギリまで化粧と服選びに時間をかけられたのに、と思う。何故昨夜遅くまでデートのイメージトレーニングをして、夜ふかししてしまったのだろうか。
「フレイア!」
その時、寝室のドアが勢い良く開いた。振り返れば姉のミーティアが、呆れ顔でこちらを睨んでいる。
「まだやってるの!?もう時間切れよ。アルフレートさん、もう広場に来ちゃってるわ!」
「ええ!?」
「化粧にも衣装選びにも、そんなに時間かけるならちゃんと早起きしなさいよね!あんたの遅刻癖はいつものことだけど、女の子がだらしないと嫌われるわよ。ましてや、あんたはこの国の“太陽神”なんだから。神様がズボラだなんて知られたら、どんだけ失望されるやら……」
「わ、わかってる!わかってるってば!」
フレイアは慌てて鏡の中の自分を最終チェックにかけると、そのままスカートの裾をひっつかんで走り出したのだった。
なお、このすぐ後廊下でヒールをつっかけて転び、さらに広場についてから髪飾りを忘れたことに気づいて涙目になるの羽目になるのである。
太陽神フレイア――この国の人々の幸せを祈り、暖かな日差しを司る女神は。残念ながら人間顔負けの、非常におっちょこちょいな性格なのであった。
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