プロローグ

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プロローグ

私には名前がない。 お母さんは毎日キラキラな格好をして、毎晩違う男の人を家に連れてくる。 その時私は大人しく押し入れに入って朝が来るのを待つ。 時々お母さんの変な声が聞こえてくるけど、何をしているのかは分からない。 何をしているか聞いたは殴られるし怒られる。 そもそも、それが何か知るすべがない。 かろうじて私が小さい頃に買ってくれた日本語を勉強する本で、平仮名や漢字は書けるが、半分は分からない。 最近、お母さんは昼間家を開けるようになった。 私はそういう時、お母さんが捨てた服を着て、本屋さんへ行く。 私は本が大好きだ。 実はこの前、お母さんの服を売ってためたお金で、初めて本を買った。 今巷で流行りの恋愛小説だ。 私もその本の虜になった。 毎日ボロボロになるまで読んでいる。 ある日私はお母さんが帰ってきても押し入れで本を読んでいて、お母さんが扉を開けるまで周りが見えてなかった。 お母さんは当然めちゃくちゃ怒って殴った。 私はずっと誤っていたけど、許してくれそうに無い。 いつも暴言は言われるけど、今日は本当に悲しかった。 「アンタなんか生まれてすぐに殺してやれば良かった!!」 口の中から血が流れ出るのが分かった。 私が大人しくなると、お母さんの怒りも治まって次の日の朝まで私は一人ぼっちですごした。 お昼になって私は本を持って屋上へ続く階段を登る。 (あと1階……。36、35…。) 一段一段数えながら登っていく。 屋上のドアを開けると、今までとは違う綺麗な青空だった。 「キレイ……。」 私はそのまま上を向きながら靴を脱ぎ、端へ歩いていく。 本をギュッと抱きしめると、靴の隣に置く。 「来世はお母さんと仲良くなりたいな。」 真っ青な空に、落ちていく太陽の赤い光が差し込む。 まるで青いバケツの中に赤の絵の具を垂らしたみたいだ。 そのまま空を見つめながら、私は落ちていった。 初めて出る涙が頬を伝う。 「私もリリみたいになりた……。」 最後まで言う暇もなく、グニャリと体が崩れた。
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