リリアーナ・カイリ

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ラットが私を人に合わせたがらない理由は、こういう事になるからだろう。 あの日から私は一度も外へは出ていない。 理由は、彼の気配を感じるから。 魔力持ちなら誰でも持っている波長でわかる。 私は水晶を取り出すと両手で抱えた。 「個々に、リア・デ・リドル・アナスタシウスを映し出したまえ。」 水晶は水色に光り輝くと、アナスタシウスを映し出す。 今日はあいにくの雨らしく、ずぶ濡れになりながら雨の中、ひとりで立っていた。 美しい狼を思わせる銀の瞳からは光が失われており、少し疲れたように見える。 きっと指輪を作らせた事で、彼には婚約者がいる事になっているのだろう。 王宮内ではそれを取り繕っているに違いない。 彼はすっと体の向きを変えると、諦めたように帰り去っていく。 「待って!!」 聞こえるはずの無い声が、部屋に響き渡る。 私はローブを手に取ると、急いで宮を出た。 「かっ、カイリ様!? 急にどうされ…… あぁ、食器がまだ残っていたんだわ。しっかりと洗わなくちゃ。」 こんな雨の中、外へ行くのを許可するはずのないラットに、申し訳ないが魔法をかけて見て見ぬ振りをしてもらう。 (まだあそこにいて!!) 私はローブをなびかせながら、滝のような雨の中走っていく。 「待って!」 アナスタシウスの腕を握る。 「一度振った相手にまた会いに来るなんていけませんよ。」 さっきよりは元気になったのであろう。 背中がシャキッとしている。 アナスタシウスの腕をつかむ手に力を込め、そして 「私の、全てを、話すわ。」 振り向いた彼の目と私の目が見つめ合う。 きっと、この目線が交わった時から、運命は変わってしまったのだろう。 まだこの時は、この先自分の運命が悲惨な事になってしまうことは知らなくてよかったのか。 ラットに止めてもらっていればきっとこの先、あのような悲劇は怒らなかっただろう……。
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