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カイリの出生
パッと視界が変わる。
「えっ、ええっ!?」
アナスタシウスが間抜けな声を上げる。
雨が降っているのに体は濡れずに、さらに空を飛んでいる。
フワフワと雲のように浮かび、涙宮を見下ろす。
「私の名前は、リリアーナ・カイリ。リリアーナ王国、王太子姫殿下の母とナイトの父から生まれた第一王女よ。」
途端に景色は代わり、黒い部屋へ移る。
「えっ、どうなってるの? 誰の部屋?
見つかったら怒られちゃうよ。」
などとボサいている彼に声をかける。
「大丈夫よ。今は魂だけここにいるから、他の人からは見えないわ。そもそも個々は、私の作った記憶空間だから、実際には存在していないの。」
そこで一息つくと、当事者である私の母が部屋に入ってきた。
大きなお腹をさすりながら、幸せそうな顔をしている。
「これが私のママ。
ママは闇の皇帝ザギエスに13の時に連れ去られたの。元々その時から妊娠をしていたらしいの。
……少し時間を進めましょう。」
すると目の前に歪んだ時計が現れ、グルグルとすごい勢いで針が回りだす。
「どっ、どうしたものか……。」
ボソリとつぶやいたアナスタシウスは、顔が引きつっている。
まるで何をしに記憶空間に来たのか覚えてないようだ。
ピタッと針が止まり、もとの速さで回りだす。
いつの間にか元のあの部屋に戻ってきていた。
ドタバタと言う騒がしい音と共に、二人の女性が、切羽詰まった顔で部屋に入って来る。
「あっちの水色の髪の方がママよ。もう一人は私の侍女のラット。ネズミの魔物よ。
今はね、私を逃しているところなの。闇の皇帝は赤ん坊が嫌いらしくてね。泣き声に苛ついてたのよ。
だからママは私をコッチの世界に逃したの。
……さぁ、戻りましょうか。」
カイリの言葉と共に、眩い光が二人を包み込む。
元の位置、肉体へと入り込む。
「うっ!」
アナスタシウスは、魂と肉体が離れていたせいか、急に入り込んだ衝撃で飛び跳ねる。
限界まで短くしたんだけどなぁ。
「そして私は身分を隠して個々へ来たの。私が見た未来では、七歳。今年中にママがここへ迎えに来るはずなの。だから、私はあなたの指輪は受け取れない。」
一気に話し終えると、どっと息を吐き出す。
チラリと彼の様子を伺うと、凄く衝撃を受けたような顔をしていた。
やっぱりね。
これで諦めてくれたら……「頑張る!!」っと。
そう簡単には諦めてくれないようだ。
「その、僕はカイリの事が好きだから、カイリのお母さんに許しをもらえるまでずっとここに来る! カイリに全部付き合うから!
だっ、だから、指輪をっ……!?」
すごくいい感じの雰囲気だったけど、私が手で遮った。
まだ七歳なのにね。
これからもっといい出会いがあるかも知れないのに。
でも、もうちょっと彼を信用しても良いかな。
「分かったわ。もし、今年中にママが来なかったら、指輪は返す。これは、その時までの『契約』よ。
じゃあ、もう帰って。風邪なんか引かないでよね。」
私はアナスタシウスにローブをかけてあげる。
魔法で乾いた髪が、サラサラと揺れる。
「じゃあね。」
嬉しいのか驚いたのか、中間のような顔で彼は無意識に手を振る。
その後私が水晶で彼を見た時は、すごく元気になっていた。
よかった、あの時全てを話して。
その時から彼女の後ろに、黒い闇が取り巻き始めた。
彼女がこの闇に飲み込まれるか、弾き飛ばせるかは、彼女次第だ。
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