カイリの出生

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翌日。 「アッ、アナスタシウス!? だから風邪なんか引かないでよねって言ったのに!!」 アナスタシウスはフラフラとおぼつかない足でコチラに向かってくる。 「でっでも、はぁはぁ、カッ、カイリに、これを、返さないとと…思っ、て。」 彼は手に持ったローブを私に突き出す。 そんなもう要らないのに。 「もう! 何してんのよ!!」 顔を真っ赤にさせて、アナスタシウスは私に倒れ掛かる。 さすがの私も、昨日の記憶空間に魔力を大量に使ってしまって、今日は魔法を使わないようにしていた。 「どうしよう。できることと言ったら、何か小さなものを出すだけなのに……。 このまま放っておいたら絶対危険だわ。」 考えに考えた末、ある作戦を思いつく。 しょうがない。 他に方法が無いんだもの。 私は魔法でローブを取り出す。 急いでローブを羽織ると、アナスタシウスを担ぐ。 魔力と体力はイコールの関係だからね。 体力には自信があるのよ。 歩くこと20分。 「やっ、やっと着いたぁ。 よし、あともう少し。」 涙宮とは比べ物にならない程の大きな宮殿、王子宮だろうか。 誰か、もしくはアナスタシウスの執事か誰かいてくれればいいのだか。 「おっ、王子!! だから今日は外出は控えてくださいと仰ったのに。 あっ、あの。王子をありがとうございます。 レディ、お礼にお茶でもどうですか?」 「いや、要らぬ。」 小さく手を振ると、執事だろうか。 男の子は困ったように首を傾げ、口を開く。 「ではお名前だけでも。」 「お前の主人が知っているだろう。 これで私は失礼するわ。」 手を振りながら、さっさとその場を去る。 「あっ、この度は王子をありがとうございます!」 男の子はカイリが居なくなったのを確かめると、ボソッとつぶやいた。 「なぜ彼女が王子の指輪を? 貴族のような格好はしてたけどあっちの方には涙宮しかないは……。ハッ!! まさか、ゆっ、幽霊!? いやいや、王子に限ってそんな訳はない。 さぁ、もう部屋に戻ろう。この事はまた明日にしよう……。」 ヨロヨロとした足取りで男の子は宮へ入っていった。 コッソリとその様子を見ていたカイリは、ホッと胸をなでおろす。 どうやら気づいてないらしい。 あと5日もすれば、完全に魔力は回復するだろう。 その時になったら記憶喪失魔法をかければいい。 私はあ〜あ、と声を漏らす。 「私もママみたいにもっと強力な魔力が欲しいなぁ。 まぁ、頑張るしかないか。」 ローブを取り、私は大空に向かって伸びをした。
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