カイリの出生

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「ただいま。」 取り敢えず平常を保ちながら部屋へ戻る。 ドアノブを目の前にして、さっきの事がフラッシュバックした。 「なん、で…何でなの!! なんでいつも誰からも愛されないの!? なんで誰も助けてくれないの!!」 部屋には防音強化のシールドが常に張ってあるため、外に声が漏れる心配はない。 うわー!と大声で泣きながら、最終的にベットに潜り込んだ。 「もしかしてママはもう戻ってきてるのかな。」 水晶に手を伸ばしかけたが、辞めた。 また同じような苦しみを味わうのは懲り懲りだ。 私は、驚異的な魔力回復能力を持つサファイアを枕元に置いて、目を閉じた。 翌朝、と言うか5日後の朝、私はスッキリ目が覚めた。 やはり完全に魔力が回復するまでには5日いるらしい。 さすがに吐血をしたから少し予定より魔力回復は遅くなったんだろう。 ラットが心配して今日の外出はやめた方がいいと言われたが、コッソリと水晶を手にして宮を出た。 アナスタシウスにも会いたいしね。 適当な場所に座って両手で水晶を包み込む。 「ここに、リリアーナ王国王太子妃殿下、リリアーナ・リリを映し出せ。」 水晶は美しく輝くと、私を取り囲んだ……。 「あら、ロワデベット様。お久しぶりですね。容姿がお変わりになりましたわね。」 「えぇ、あの事は本当に黒歴史ですわ。」 「「「「オホホホホホホホ。」」」」 各国のお姫様達が扇子やら袖やらで口を隠して笑う。 その中の一人、きっとそうだ。 ママだ。 「先月、こちらへお帰りになられたのですよね? お体は大丈夫ですか?」 確かあの大きな冠をつけてるのは、ラカンスター王国のシュネーメンシュ王女様だ。 「えぇ。毎日夜伽はされましたけれども特にこれと言ったことはありませんでしたわ。 昼間は自由に過ごせましたから。」 特にこれと言ったことはありませんでした? 私はまだ公にしないのかな。 それよりも先月にもう戻って来てたなんて。 「そういえば最近、カイト様を見かけませんがどうかされたのですか?」 真っ赤なドレスを着て一番目立っている、カイリア王国のアイリス王女が質問をする。 「姉妹国であるリア王国の王子様が風邪をひいてしまったので様子を見に行かせたのです。確か今日帰国する予定でしてよ。」 今日!! ならまだあそこにいるかも知れないわね。 「リリ様、第一子のカイリ様の事はお気の毒ですが、第二子のご妊娠おめでとうございますわ。」 ロワデベット王女が手を叩いてお祝いする。 第二子? もうママは妊娠したの? 「ありがとう。カイリの事は本当に残念だわ。まさか病気で亡くなってしまうとは存じてもいませんでしたわ……。」 ママは本当に私を悲しんでいる様子だった。 今にも泣きそうな顔をしている。 だが私は怒りを覚えた。 誰から教えられたのか知らないが、それだけを信じてしまったのだから。 私の遺体を見に来ることすらしなかったから。 ママは一人でいる私を差し置いて自分だけ幸せになった。 ママはすぐに迎えに来るといったのに。 パリン!! 木に投げつけた水晶が音を立てて割れた。 「なんで!? なんでいつもこうなの!! パパもママも皆して私のことは知らん顔するもの。私はいらないんでしょう! 所詮私はザギエスの屋敷で生まれた子供だもの! ……こんな世界、もう嫌だ。」 私はその場を走り去り、宮の敷地内にある滝の影で、一人泣いた。 前世も今世も、親には恵まれなかったらしい。 なぜだろう。 原作ではすぐにママが迎えに来てくれたはずなのに。 私がアナスタシウスと出会ったから? そうとしか言いようがない、が……。 そうか、今日まではパパがこっちに居るんだ!! 魔力も完全復活したし、ちょっと見てみよう! もしかしたら…もしかしたら…!! 私は全力ダッシュで、王宮へと向かった。
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