デビュタント

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「えぇ。最近、これからの事を考えていたら頭痛がひどくって。」 頭を押さえながら唸る。 ナーシャは少し驚きながら答える。 「最近のカイリはまるで機械みたいだったから、人みたいに頭痛がするなんてビックリしたよ。」 フフッ。 あら、こんなちゃんと笑ったのっていつぶりかしら。 「頭痛に効くハーブティがあるから今度来なよ。」 「えぇ、お邪魔させて頂きますわね。」 まるで昔に戻ったみたい。 この時がずっと続けばいいのに。 「カイリ様、アナスタシウス王子。ビビアン王女とセレイ王子方がダンスホールでお待ちです。もう少しお待ちして頂くと伝えておきましょうか?」 ラットが気を使って聞いてくるが、すぐに立ち上がりナフキンをテーブルに置く。 「いいえ、すぐに行くと伝えて。私は少し部屋に戻ってから行くわ。」 遂にを使う時が来たか。 カイリはスッと無表情に戻り、淡々と述べる。 この変わりようにはラットも驚いたようだ。 「承知いたしました。」 ラットももう一人前の侍女になったからか、すぐに対応する。 カイリがそばに置いておくのも分かる気がする。 すぐにダンスホールへ向かったラットに、ナーシャの執事もついていく、が。 「……なぜ居る。」 鋭い目つきでナーシャを見る。 まだ立ち尽くしているナーシャに問いかけるが返事がない。 「カイリは、もうちょっと冷静になった方がいいよ。」 それだけ言うとラット一行の後を追っていった。 なぜ? 私はいつも冷静に、理性で動いてきた。 それが今になって冷静になれだと? 「うっ。」 頭痛が起こり、我に返る。 「ここからよ。」 自分に言い聞かせると、カイリは部屋へ戻った。 「リリアーナ・カイリ姫君、デビュタントおめでとうございます。わたくしカイリア王国、カイリカ・ビビアンと申します。」 「カイリア・ビビアン姫君、デビュタントおめでとうございます。改めましてリリアーナ王国、リリアーナ・カイリと申します。」 社交辞令。 二人揃ってカーテシー。 デビュタントを経て初めて合う令嬢達は、相手が誰であろうと『姫君』を付け、この言葉を捧げる。 「姫君方、デビュタントおめでとうございます。さあ、お顔をお上げください。パーティを再開しましょう。」 社交辞令。 ここまで喋った全てが社交辞令。 最後のセレイの言葉は、二人と同格、またはそれより上の人間が言う事ができる。 この場合、人間界の王子のナーシャより魔法界の王子であるセレイの方が的確と言えよう。 社交界上、私達よりもナーシャの立場はしただから。 「カイリ、まさかリリアーナ王国の王女……王太子妃だったなんてなぜ言ってくれなかったのです? わたくし達はですのに。」 親友…ね。 いい言葉を使ってくれたわ。 私はかばんを机の上に置くと、中身を見せる。 「そう言ってくれて嬉しいわ。貴方にはこれをして欲しかったのよ。」
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