3人が本棚に入れています
本棚に追加
「えぇ。最近、これからの事を考えていたら頭痛がひどくって。」
頭を押さえながら唸る。
ナーシャは少し驚きながら答える。
「最近のカイリはまるで機械みたいだったから、人みたいに頭痛がするなんてビックリしたよ。」
フフッ。
あら、こんなちゃんと笑ったのっていつぶりかしら。
「頭痛に効くハーブティがあるから今度来なよ。」
「えぇ、いつかお邪魔させて頂きますわね。」
まるで昔に戻ったみたい。
この時がずっと続けばいいのに。
「カイリ様、アナスタシウス王子。ビビアン王女とセレイ王子方がダンスホールでお待ちです。もう少しお待ちして頂くと伝えておきましょうか?」
ラットが気を使って聞いてくるが、すぐに立ち上がりナフキンをテーブルに置く。
「いいえ、すぐに行くと伝えて。私は少し部屋に戻ってから行くわ。」
遂にアレを使う時が来たか。
カイリはスッと無表情に戻り、淡々と述べる。
この変わりようにはラットも驚いたようだ。
「承知いたしました。」
ラットももう一人前の侍女になったからか、すぐに対応する。
カイリがそばに置いておくのも分かる気がする。
すぐにダンスホールへ向かったラットに、ナーシャの執事もついていく、が。
「……なぜ居る。」
鋭い目つきでナーシャを見る。
まだ立ち尽くしているナーシャに問いかけるが返事がない。
「カイリは、もうちょっと冷静になった方がいいよ。」
それだけ言うとラット一行の後を追っていった。
なぜ?
私はいつも冷静に、理性で動いてきた。
それが今になって冷静になれだと?
「うっ。」
頭痛が起こり、我に返る。
「ここからよ。」
自分に言い聞かせると、カイリは部屋へ戻った。
「リリアーナ・カイリ姫君、デビュタントおめでとうございます。わたくしカイリア王国、カイリカ・ビビアンと申します。」
「カイリア・ビビアン姫君、デビュタントおめでとうございます。改めましてリリアーナ王国、リリアーナ・カイリと申します。」
社交辞令。
二人揃ってカーテシー。
デビュタントを経て初めて合う令嬢達は、相手が誰であろうと『姫君』を付け、この言葉を捧げる。
「姫君方、デビュタントおめでとうございます。さあ、お顔をお上げください。パーティを再開しましょう。」
社交辞令。
ここまで喋った全てが社交辞令。
最後のセレイの言葉は、二人と同格、またはそれより上の人間が言う事ができる。
この場合、人間界の王子のナーシャより魔法界の王子であるセレイの方が的確と言えよう。
社交界上、私達よりもナーシャの立場はしただから。
「カイリ、まさかリリアーナ王国の王女……王太子妃だったなんてなぜ言ってくれなかったのです? わたくし達は親友ですのに。」
親友…ね。
いい言葉を使ってくれたわ。
私はかばんを机の上に置くと、中身を見せる。
「そう言ってくれて嬉しいわ。貴方にはこれをして欲しかったのよ。」
最初のコメントを投稿しよう!