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復讐開始
「やぁ、ゼン子爵。」
「これはこれはセレイ王子様。お初にお目にかかります。……ところでわたくしに紹介したい人とは一体…?」
単刀直入に聞いてくるところがゼン子爵らしい。
貴族派としてはリリアーナ王国と仲の良いラカンスター王国は嫌っているのだろう。
「最近僕の王国で優秀な情報屋がいてね。今日はゼン子爵に会いたいと彼女が言ったものでね。特別に僕が紹介してあげたのさ。 ではお手を。」
派手に派手すぎる馬車から降りてきたのは、黒い襦にピンクの裙に薄緑の帔帛を身に着けた美女、バイオレットだった。
アメジストで出来た蝶の仮面と、真っ赤な血のような髪がよく似合っている。
そこに差し色として水色のサファイアの簪が、より一層彼女を美しく見せている。
腰につけた緑色の帯にはブラックダイヤモンドがつけられており、主張をしすぎず隠れなさすぎず良い味を出していた。
靴は裙の裾で隠れるのでシンプルにピンク色の靴を選んだ。
彼女の手には、きらびやかな宝石で飾り付けられたオペラグラスが握られていた。
「まぁ、ここは風が強いのね。せっかく綺麗にセットした髪が崩れちゃうわ。
あら、わざわざ執事長を寄越すなんて、それはそれは大きなお屋敷なんでしょうね。執事長、はやくわたくしを本館2階東側から2番目南側の部屋へ連れて行って頂戴。」
わざとらしくオペラグラスを掲げ、あたりをキョロキョロと見渡す。
「バイオレット……。失礼ですよ、こちらから呼んでおいてそれはいけないよ。
この方がゼン子爵だ。謝って。」
セレイも演技に磨きをかけてきたようだ。
さすがカイリ様は何から何まで完璧である。
「まぁ! 質素な服を着ていたものですからつい執事長かと存じ上げてしまいましたわ!
申し遅れました。わたくしこの世の情報屋、バイオレットと申します。以後、お見知りおきを。」
カイリ様のような優雅な揖礼は出来ないけれど、教えられた通り左手を前にして、相手の目を見ながらお辞儀をする。
鮮明に覚えている。
初めての授業の事。
「全く……さっき言ったでしょう。貴方には男性の動きをしてもらうって。忘れたの?」
言われた通りにやったはずだ。
女性は右手を前にして……あ。
「申し訳ございません、カイリ様。」
今度は左手を前にしてお辞儀をした。
ちゃんとカイリ様の目を見ながら。
あの時のことを思い出すと、自然と笑みがこぼれた。
しかし、子爵には恐ろしく見えたのだろう。
爛々と獲物を狙う野獣のような赤い瞳と不敵な笑みが子爵を畏怖させた。
「バ、バイオレット嬢。すぐにご案内いたします。」
リリアーナ王国式のお辞儀をした子爵は何とも惨めだった。
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