3人が本棚に入れています
本棚に追加
〈ちょっとおまけの2ページ〉
今日の授業は飛行訓練だ。
しかも滅多にない学年混合授業。
飛行なんてカイリ様には簡単すぎるから参加しないと思っていたのに、何故かやる気満々で授業に参加していた。
ずっとそばにいると、些細な事まで分かってしまう。
2月ともなると寒さがまして飛ぶのが難しくなるから、S組も招いて他の生徒を誘導するのが目的らしい。
授業の内容は、今日中に魔法岳まで行きUターンして戻ってくるという至って簡単な内容だ。
私はつい気になってカイリ様に話しかけてみた。
「カイリ様が混合授業に参加されるなんて珍しいですね。気分転換ですか? 確かに魔法岳までの景色はとても綺麗だと噂に聞いています。」
カイリ様が空を飛んだことがある前提で話してしまった。
珍しく本心で笑ったのはそういう事だと知った。
「あら、言っていませんでしたっけ? わたくし、まだ空を飛んだことが無いのよ?」
あぁ、私は何と言う失態を犯してしまったのだろう。
返事の言葉に迷っていると、先生の掛け声が響いた。
「ビビー。こうやって跨がればいいのか?」
「えぇ、そうです。そして授業で習った呪文を唱えれば……ほら。カイリ様には簡単ですわ。」
黒のマントがふわりと舞い、童話に出てくる魔女を思い出させる。
今日は全員私服での参加なので、個性がよく現れていた。
黒いトンガリ帽子に黒のマントがバサバサとバタつき始める。
地面から風が起こりふわりと足が上がった。
「飛んだわ!」
カイリ様の歓喜の声と同時に、一気に浮上する。
さすがカイリ様。
いくら簡単な魔法とはいえど、普通だったら1週間かかるものを一瞬でやってのけてしまうなんて。
私もカイリ様のようになりたい……!!
「カイリ様! 風を堪能するのは良いですが少し景色を見てみませんか? とっても美しいですよ!」
後ろから叫ぶような声が聞こえる。
あぁ、ビビーがいたのだった。
初めての飛行でつい調子に乗ってしまったな。
ここはビビーの意見を聞くことにしよう。
ピタッ。
急ブレーキをかけ、後ろにいたビビーが一気に前に行く。
ビビーの驚かせてしまったことに対して罪悪感はあるが、その顔を見るのは面白かった。
そしてこわごわ下を見る。
「おぉ、これは凄い!」
時刻はまだ早朝。
赤みのかかった雲が辺りを照らしだし、魔法岳へと続く小さな山々が見える。
小さいと言っても日本の富士山くらいはあるわけで、更にその上を飛んでいるから見事に美しい。
「もう1時間も経ったがまだなのか?」
不意にそう思い、ビビーに問う。
ビビーはため息をつくと困ったような顔をして話しだした。
「さっきまでのスピードをずっと保っても、あと3時間はかかりますよ。計8時間そんな事をし続けたらいくらカイリ様でも倒れてしまいますわ。」
箒の柄から片手を離し、徐行を始める。
私もそれにならってゆっくり進み始めた。
そんなにかかるのか。
ふぅ、と一息つき、もう一度下を眺める。
前世で読んだファンタジー小説には、よく空を飛ぶ場面があった。
しかし、実際自分が体験するとなると迫力が違う。
ゆっくり飛んでると、まるで自転車のようだ。
馬車から顔を出している時は顔しか風が当たらないが、こう全身で風を受け止めるのも中々いい。
今は3時頃だろうか。
私が全力で飛んで8時間だとしたら、普通の人達は一体どれぐらいかかるのだろう。
普通に考えると2倍して16時間だろうか。
いや、20時間かかる人もいるかもしれない。
くぼんだ緑色の山に水が張っている。
すごく遠くに一際大きな山が見えた。
「あれが魔法岳です。」
隣からビビーが説明してくれた。
あと3時間、お腹が空いてしまうな。
それよりも足の指先が冷たい。
魔法を使えば一瞬なのだが、そんな手抜きはしたくないと思った。
そして。
魔法岳まで残り1キロ。
最初のコメントを投稿しよう!