リリアーナ・カイリ

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「ラット、ちょっとお外行ってくるね。」 「はい。塀の外へは行ってはいけませんよ。 あと、魔法も使っちゃいけませんからね。 それと日が強いので帽子はとらな……」 「行ってきまぁす!」 全くラットは心配症なんだから。 最近の私は外で遊ぶことにハマっている。 私が住んでいる宮は、リア王国の後宮にある『涙宮(なみだきゅう)』。 昔、ここですすり泣く後宮の妃の声が聞こえた事からその名前がついたらしい。 そのおかげか、ラットの頼み通り誰もこの宮には近づこうとしない。 私は外へ出ると、崖の上から続く小川の流れに沿って歩き続ける。 鼻歌を歌いながらキレイな花を摘みながら歩いていくと、桜並木の並ぶ道にたどり着いた。 「どこだろう?」 ふと後ろを振り返ると、ずっと奥までピンク色に染まっていた。 戻らねばならないが、その綺麗さに圧倒され、どんどん奥へと歩いていく。 いくら後宮の庭園だとしても、歩く道が土ではなく芝生なのが不思議だ。 ザクッザクッザクッ。 足で草を踏みしめる音があたりを包む。 風の音があたりを舞う。 「あっ! あれだよ、『涙宮の涙姫(なみだひめ)』!!」 「やっべ!! 呪われるじゃん。」 数人の男児がこちらに近付いてくる。 私はすぐさま杖を取り出し、姿を変える。 「おい、お前が言えよ。」 「俺まだ死にたくないし! テメエこそやれよ。」 「ええっ!? ぼっ、僕が? ……うぅ。しょうがないなぁ。 『涙宮の涙姫。我らに姿を見せて涙宮へ連れて行って下さい。』」 男児が言葉を言い終えると、あたりに風が舞い彼らは縮み上がる。 ちょっと驚かせてみようか。 前の人生で本から得た知識を元に、私は彼らの前へ歩み出た。 『個々は危険な場所。あなた達が来ていい場所ではありません。早くお帰りなさい。』 美しく光り輝く金の髪とどこまでも続く深海のような青い瞳の美女。 18歳と言ったところか。 彼らの言う『涙姫』になりきった私は、我ながら自分の魔法に感心する。 男児たちは呆気に取られ、しまいには怯えるように震えて走り去っていった。 最後に聞いた言葉は、 「ばっ、ばば、バケモノぉ〜!!!」 だった。 私は元の姿に戻ると一息つく。 「やっぱりね。涙姫なんていないじゃないか。」 後ろから不意に声をかけられた。
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