理想≧気持ち?

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「お待たせ!ごめんね、陸斗君。ちょっと講義が長引いちゃって。」 「いいよ、そんなに待ってないから。じゃあ行くか。」 「うん。」 優美と付き合い始めて1ヶ月。 お互いの事も少しづつ分かってきて、最初に比べると自然に過ごせるようになった気がする。 最初は緊張と、初めての彼女って事もあって、どうしたらいいのか全然分かんなかったけど。 「今日の映画楽しみにしてたんだ。」 「見たいって言ってたもんな。」 「覚えててくれて嬉しいな。」 先週だったか、彼女がデートの時に見たいと言ってた映画。 今日はお互い講義が3限までだから、その後映画デートをしようって誘ったら嬉しそうにしてた。 今もニコニコして、凄く楽しみにしてるのが伝わってくる。 優美と付き合い始めてから、俺はすぐに彼女の事を好きになった。 素直で優しくて、俺のすることを何でも嬉しそうに喜んでくれる。 初めてのデートもグダグダだったのに、彼女は楽しそうに過ごしてくれて。 最初は理想の身長差だから、優美に興味を持ったし告白もした。 正直優美がこの身長で無ければ、存在にすら気付かなかったかもしれない。 でも今は、身長とか関係なく優美が好きだ。 彼女の事を大切にしたいし、悲しませたくないと思ってる。 だから、俺の理想の事は彼女には秘密にしようって決めた。 もし知られてしまったら、彼女は悲しむだろうし、最悪フラれるかもしれない。 それは、絶対に嫌だ。 だけど、そんな打算で彼女に近付いた俺に天罰が下った。 「あれ?陸斗じゃん。久しぶり!」 「おお。久しぶり。」 映画を見終わってロビーに出ると、高校時代のクラスメイトに偶然出会った。 「相変わらずチビだな~、お前。」 「うるせーよ。」 相変わらず揶揄われる事にうんざりする。 俺を見たらチビって言わなきゃいけない法律でもあんのか? 「あれ?もしかして隣の子、陸斗の彼女?」 「そーだよ。」 優美がペコっとお辞儀すると、納得したように頷いている。 「なるほどね。やっと理想の女見つけたわけだ。」 「理想?」 「おまっ…」 その話だけは絶対されたくない。 そう思って止めようとしたのに、1度開いた口は止まってはくれなかった。 「こいつね、自分の身長が低いのがコンプレックスでさ。彼女にするなら自分より10㎝以上低い女が理想だって昔から言ってたんだよね。それにしても、よく見つけたな~お前。」 最悪だ… こんな形で彼女にバレてしまうなんて。 反応が怖すぎて優美の顔が見れない。 「やべ、バイトの時間だ。じゃあな~。」 余計な事を言うだけ言って去って行った元クラスメイト。 残された俺達の間には、微妙な空気が流れていた。 「…行くか。」 「うん。」 とりあえず映画館を出て、行き先も決めずに歩き始める。 …沈黙が辛い。 やっぱ、怒ってる…よな。 自分に告白した理由が、理想の身長差だったから、なんて。 その通りなだけに、言い訳は出来ない。 だけど、今は優美が好きだ。 それだけは、ちゃんと伝えたい。 「あのさ…」 「…陸斗君、身長がコンプレックスなの?」 「あ~…まぁ、うん…昔から身長低い事で揶揄われてたし。俺、苗字が長井じゃん?なのに身長は低いから、全然長く無いってよく言われてた。」 「…それで、理想?」 「うん…最低だよな。自分のプライドとコンプレックスで、そんな理想持ってさ、それに当てはまる人探すとか…」 本当に、最低だと思ってる。 「私に告白してくれたのも…身長が理由?」 「…最初はそうだった。小さい子だなって、この子なら理想にピッタリだって思って…ごめん。」 「…今も、私と付き合ってるのはそれが理由?」 「違う!今は本当に優美が好きだ!」 「…良かった。」 さっきまでどこか悲し気な表情だった彼女が、いつもみたいに優しく笑ってくれる。 「今もそうだったら悲しくて泣きそうだったけど…今は好きって言ってくれるなら、私はこの身長で良かったって思えるよ。」 「え…許してくれるのか…?」 「私だって最初から好きだったかって言われると違うし、他の人だって最初から大好きだ~って付き合い始める人達ばっかりじゃないと思うの。きっかけはなんであれ、付き合ってからお互いを知って好きになるのも、1つの形だと思うから。」 「じゃあ、別れるとかは…」 「言わないよ?だって今は、私も陸斗君の事好きだから。お互いに好きなら、別れる必要なんてないでしょ?」 「優美…」 彼女が笑顔で隣にいる。 その事に心底ホッとする。 同時に、彼女に対しての気持ちが溢れてきて、伝えたくて仕方がない。 「もう一回、今度はちゃんと告白させて。」 「え?」 「俺は、優美が好きだ。だからこれからも、ずっと俺の隣に居て。」 「…うん。私も陸斗君の事好きだから、これからもずっと一緒に居たい。」 あ~もう本当、何でこんなに可愛いんだ。 「なぁ…抱きしめても、いい?」 「今?」 「うん。今すぐ抱きしめたい。」 恥ずかしいのか、キョロキョロと当たりを見回している彼女を、物陰に連れて行く。 「ここならいいだろ?」 「でも…」 まだ周りを気にしている彼女を、見えないように抱きしめる。 初めて抱きしめた彼女は、小さくて柔らかくて、いい匂いがする。 「陸斗君、もう…」 腕の中から見上げてくる彼女の可愛さに、思わず顔を近づけると真っ赤な顔で動揺したように逃げられる。 「嫌?」 「だって見えちゃうし、恥ずかしいよ…」 「見えないよ。…俺達なら。」 「んん…」 背が低いのも役に立つことがあるんだな。 初めて触れる彼女の柔らかい唇に酔いしれながら、俺はそんな事を思っていた。
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