理想≧気持ち?

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理想≧気持ち?

「お前って本当、苗字と見た目が逆だよな~。可哀想に。」 「うるせーよ。ほっとけ。」 こんな風に揶揄われるようになったのは、何時頃からだっただろう。 長井なんて苗字のくせに、全然見た目が長くない。 …要は、身長が低い。 160㎝はあると言い張っているが、計るタイミングによっては160㎝を切っている事もあったりする。 伸び悩む身長に、俺はかなりのコンプレックスを持つようになった。 何で毎回女子があげる理想の男性像に高身長って書いてあるんだよ。 低身長の人権はないのかっ。 お陰でこっちは恋すらまともにできないんだぞ。 大体、最近の女子は背が高すぎるんじゃないか? 何で俺とそんなに変わんねーやつが多いんだよ。 高校の頃は、男の子はこれからが成長期だからと励まされたりもしてたけど、一向に伸びる気配のない身長に、大学に入ってからはさすがの俺も諦めた。 彼女なんて、当然のように居たことがない。 男としてのプライドなのか、コンプレックスの事もあって、彼女との理想の身長差というものが俺にはある。 10㎝以上差があるのがベスト。 ただ、俺と10㎝以上差があるということは、140㎝台の女子が対象となるわけで… 正直、周りにはあんまり見かけたことが無かった。 今まで周りの女子にはアウトオブ眼中って感じの扱いで、友達にはなれても異性として見られたことは多分無い。 女子にすら揶揄われたりしてたし、そんな環境で好きな人が出来るわけはなかった。 そんなある日。 大学の別学部の講義に出た時の事だった。 ん…? なんだあの子。めっちゃちっせー。 「小今井ちゃん、ここ席空いてるよ~」 「ありがとう。」 笑顔で友達の所に小走りで近づく彼女。 その姿を見て俺は、この子だ!って思った。 どう見ても俺より15㎝ぐらいは低そうな身長。 まさに理想。 どうやって彼女とお近づきになればいいのか。 この講義に出ているということは、学部が違うってことだよな。 共通の友人も居なさそうだし… しばらく、出れるだけこの講義に出てみるか。 そして、何度目かの講義の時。 今日も結局ただ講義を受けただけだったな… 溜め息を吐きながら片づけをしていると、彼女が座っていた席にペンケースが置いたままになっていることに気付いた。 なんだ? 忘れ物か? …そうか!これを届けてあげれば話すきっかけ出来るじゃん。 そう思って、急いでそのペンケースを持って教室を出た。 すると、廊下の向こうからパタパタと走ってくる姿。 間違いない、彼女だ。 多分ペンケースを忘れた事に気付いたんだろうな。 彼女は俺の手の中にある物に気付かずに横を通り過ぎようとする。 「あの、小今井さん。」 「…え?」 「これ、君のでしょ?」 「あ、それ…あの、ありがとうございます。えっと…?」 「俺は、長井陸斗。学部は違うけど、この講義だけ受けてるんだ。」 「なるほど、そうだったんですね。私は小今井優美といいます。でも、よくこれが私のって分かりましたね?それに苗字も…」 やべっ、キモイって思われたか? 「あ~、それは…」 俺を見上げるように目線を少し上げる彼女は、やっぱり身長が低いらしい。 俺を見上げる女子に出会えるなんて。 本当に理想的だ。 それに、なんていうかこの子は…可愛い、と思う。 「あの…?」 「…俺と、付き合ってくれませんか。」 「え?」 まさにキョトンという言葉がぴったりな表情の彼女。 そりゃそうだろう。 俺自身も自分が言ったことに凄く驚いている。 「それは…どういう意味の付き合って、でしょう?場所ですか?それとも…」 「…彼女になって欲しいっていう意味で、言ってます。」 色々考えてた順番と違うけど、もう後には引けねー。 「そ、そうですか……えっと、私で良ければ…」 え? 「いいの…?」 「…はい。」 「話したの今が初めてなのに…?」 「…あなたの存在は、気付いてましたから。」 「え?」 この講義しか一緒じゃないし、俺いつも彼女より後ろの席に座ってたのに。 「こんな事言ったら、自意識過剰って思われちゃうかもしれないけど…最近、講義中に視線を感じることがあって。振り向いたら、いつもあなたがいたから。」 「え?!」 俺、そんなに見てた? 思いっきり不審者じゃん… 「見た事無い人だなって思って、ちょっと気になって。それに…かっこいい人だなって思ってたから…」 「えっ!」 俺が? かっこいい…? 人生で初めてそんな事言われたかもしれない。 「だから、嬉しいです。告白してもらえて。」 「…そっか。なら良かった。」 うん、良かった。 理想そのものだし、初めての彼女だし。 良かった、はずだけど… 目の前で真っ赤な顔で笑ってくれてる彼女に、何だかすごく申し訳なくなった。
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