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この人はやはり社長としての素質がある。
そんなオーラを感じた。
「今は大学を通いながら経済について習ってはいるんですけど、僕がやりたいことって親の跡をそのまま継ぐことじゃないことに最近気が付いたんです。それで、僕が何をやりたいか……考えて考えてようやく分かったんですよ。僕はヒーローを作りたかったのです。」
―――ヒーローを作る。
普通の人がこれを聞いたらふざけているとしか思えないそんな発言だ。
でも、彼は本気でそれをしようとしているのを感じた。
「それが、『株式会社姫凛ヒーロー派遣サービス』ですか?」
「そうです。」
私の言葉に目もそらさず、まっすぐ見つめ返して答えた。
何をどう具体的に?どうやって?
会社名だけ言われても、その実態ははっきり言って分からない。
でも、どこから聞くべきなのだろうか。
私が言葉に戸惑っていると、先ほどと同じ人懐っこい笑顔に戻った。
「やっぱ、信じられないよね。」
「まぁ、それはそうですよ。」
こんな意味の分からない会社の話を聞かされて、どう信じろというのだろう。
私の答えに福さんは少し残念そうな顔をしていた。
「だよね……でも、ちょっと考えてほしいです。ボクは君のようなヒーロー好きな、情熱的な技術者が欲しい。ヒーローロボを開発したり、みんなをまとめてくれる。リーダーが。」
―――ヒーローロボの開発
―――リーダー
朝考えていたことだ。
私は何がしたくてこの仕事をしているのだろう。
でも、今の私には……
「君にも今の生活がありますからね。この仕事がうまくいくかはまだ分からないし。お返事はすぐにはとは言いません。ゆっくり考えてみて。」
私が返答に困っていると、福さんはそう言って立ち上がった。
テーブルにドリンク代を払っても多額のおつりがくるようなお金を置いていこうとしたので、私は慌てて返した。
まだ返答も決めていないのに、彼にご馳走になるのは気が引けてしまったのだ。
そんな私を一瞬驚いたような顔で見つめていた福さんだったが、またあの人懐っこい顔でにっこりと笑った。
「君は本当に真面目なんだね。ますますうちの会社に欲しくなったよ。」
だがそう言った顔は少し寂しそうにしていた。
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