第2章:雨音

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第2章:雨音

■ 「宗助、おめぇは(あい)も変わらず鈍くせぇな。 隊服は捨てろと言ったじゃろうに 浅葱色の羽織りは目立っちまう そいじゃから敵兵に狙われるんじゃ。 …しかし喉が渇いたのぅ…水をくれんか。 儂のはもう(から)じゃ」 新兵衛がそう言いながら手前の瓢箪(ひょうたん)を 逆さにして見せると水滴が一二滴だけ (かび)の生えた床に落ちた。 宗助は新兵衛に常日頃から小馬鹿にされるが それも致し方無き事と半ば諦めていた。 新撰組五番隊組長:武田観柳斎が粛清(しゅくせい)された後 後釜(あとがま)(もく)される程、剣術に長けた 新兵衛とは違い宗助は隊の足を引っ張って ばかりであったからだ。 宗助は手前の腰に結び付けた瓢箪(ひょうたん)を外して 新兵衛に手渡す。 「ちっとばかし斬られたくらいで 脚を引き()るおめぇさんを連れて この寺に…辿り着くだけ…でも……一苦労…」 そう言い掛けた新兵衛の顔色は何やら蒼白く 額から滴り落ちる程の汗をかいている。 瓢箪の水も1~2口しか飲んでいない。
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