第2章:雨音

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(とき)がもう無い…何もすな…」 蒼紫色に変色した唇を震わせながら 新兵衛が声を振り絞ると 宗助は彼を抱き抱えたまま着ていた 浅葱色の羽織りを脱ぎ去り 「寒くねぇか?…」 それだけ言うと 新兵衛の身体に被せた。 「雨が…また降って…来やがった。 なぁ宗助…おめぇと一緒に逃散(ちょうさん)して 村を出た日を思い出すな…」 新兵衛が(つぶや)きながら夜空を見上げると 月を覆い隠していた雲が広がり 気が付かぬ内に雨が降り始めていた。 「そうだっなぁ… 俺とおめぇは百姓の三男四男坊だから 家は継げねぇ。どうせ奉公に出される だけだ。一旗揚げてやると言って村を出て… あぁ…あの日もひでぇ雨だったな。 二人で江戸に出て棒手振(ぼてふり)やって 魚売りながら銭を稼いでは剣術道場に通ったな それから新撰組の噂を聞いて京に上って… あんときゃ『剣の腕だけで立身出世する』って おめぇも息巻いてたなぁ」 宗助が新兵衛に語りかけると 彼は弱々しく(うなず)いた。 宗助は自分の身体に伝わる新兵衛の 心の臓の鼓動が 徐々に小さくなっていくのを感じていた。
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