ある日の雨

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ある日の雨

 少年はてるてる坊主の吊るされた窓から外を眺めていた。騒がしい雨音と雨の独特の臭いに頬を膨らませる。 「ひまー」  そう言って少年はソファーにダイブした。家では誰も構ってくれず、てるてる坊主を作るくらいしかやることがない。  少年は、この雨が永遠にやまないような気がした。そして、気がついたら家の周りは雨の水でいっぱいになるのではないか、公園は海に沈んだように姿を隠し、家から出られなくなるかもしれない、などと考える。  少年は何かを思いつき、二階にある両親の部屋へ行き、その窓から外を見下ろした。家の前の道に水が溜まっていないことを確認し、またつまらなさそうな顔をする。 「宿題でもやったら?」  ベッドに寝転んでいる母親が言う。 「学校でやった」 「じゃあ勉強」 「いやだ」 「じゃあ掃除」 「めんどくさい」 「おやつは?」 「さっき食べた」 「夕飯作って」 「うーん、包丁怖い」 「湯船にでも入る?」 「それは寝る前でいい」 「読書」 「そんな気分じゃない」 「私の肩揉んで」 「さっきもやった」 「……ネタ尽きた。もう寝たら? ネタがないだけに」 「うーん五点」  少年は両親の部屋から出て、玄関へ向かった。ドアを開け、外の様子を見る。しかし、窓越しの景色と変わらない。長靴、傘、カッパを順に見て、どうやって雨を凌いで遊ぶか考えた。  長い滑り台の下のスペースで一人サッカー、寂しい。カッパを来てブランコ、顔がびしょ濡れ。鉄棒の練習とジャングルジム、カッパが邪魔。バスケットコートでシュート練習、そもそもゴールにボールが届かない。  考えに考えてもいいアイディアは浮かばない。仕方なくリビングに戻り、ソファーに座ってテレビを付ける。なんかよく分からない番組。チャンネルを変えても同じ。  結局のところ、意味のわからないテレビの前でソファーの気持ち良さに吸い込まれた――  少年は母親の「夕飯できたよ」という声で目を覚ました。カレーのいい匂いが少年に手招きする。少年は勢いよく立ち上がり、キッチンへ走った。  もう、雨の音は聞こえなかった。
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