「君は私の強い味方」

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* 思いのほか長丁場になった会議が終わり、誰もいなくなった会議室でひとり盛大なため息を吐いた。 「・・・・はあっ、やっっっと終わったぁーー」 誰もいないのをいいことに、私は机の上に突っ伏した。そこへ、 「すげーため息だな・・・・」 誰もいないはずの会議室に突然声が響き渡り、私は弾かれたように顔を上げた。そして、声がした方へと恐る恐る目を向けた。 「・・・・げっ、出た。松村海都・・・・」 いつの間に部屋に入ってきたのか、ドアを背に呆れた表情でこちらを見下ろす同期がいた。 「・・・・おい。心の声がダダ漏れしてるぞ」 そう言われて、私は反射的に口に手を当てた。どうやら心の中で思っていたことが、つい口から出てしまっていたらしい。油断していた。まさか会議の時以外で一番会いたくない同期に、こんな姿を見られてしまうとは。 「な、何かお忘れ物でも・・・・?」 とりあえず、私は笑顔で取り繕ってみせた。 「ああ、ちょっと携帯を忘れて」 松村は携帯の画面を見ながら「またかよ」とめんどくさそうに呟いている。 私はその様子に、ふとあることを思い出した。 「その反応、女子社員でしょ? 松村が自分の携帯忘れる時って、だいたいデートのお誘いで迫られまくってる時だもんね」 松村は同期の中でも一番の出世頭だ。しかも嫌味なくらいイケメンでスタイルも良いとくれば、女子社員は、いや世の女性はほっとかないだろう。 「さっすが美波。同期で一番俺のことよくわかってるな」 松村はにやりと口角を上げてどや顔して見せる。女子はきっとこの顔に騙されるのだろう。 「あんまりわかりたくもないけどね・・・・それより、軽く下の名前で呼ぶのやめてくれる? まわりに変な誤解されたらどうするのよ」 「そう言われてもな〜・・・・だって小鳥遊(たかなし)って呼びにくいじゃん」 「まあ・・・・わからなくもないけど。いや、そうじゃなくて」 つい松村のペースに流されそうになってしまったが、問題はそこじゃない。まわりに誤解されて私が松村の彼女と勘違いされれば、嫉妬されまくるのは目に見えている。実際、松村と仕事を組まされる度に、子供みたいな嫌がらせを受けてきたからだ。私はただ、平穏無事に過ごしたいだけなのだ。 「そんなことより美波、お前最近ずっと眼鏡かけてるよな。何で?」 何でと聞かれ、一瞬ドキリとする。実は仕事に忙殺されてコンタクトレンズを入れるのすら面倒で、しかも肌荒れを隠すのに眼鏡をかけてるなんて絶対言えない。 「・・・・え? いや、なんか雰囲気変えてみよっかなぁ・・・・なんて」 「・・・・ふーん。雰囲気ねえ」 松村はどこか腑に落ちないという顔をしていたが、私はひとまずそれで押し通すことにした。 ふと腕時計に目を向けると12時を過ぎている。もう昼休みの時間だ。私は食事をしに行こうと席を立ち上がった。その時、 「・・・・俺的には、眼鏡してないお前の方が好きだけどな」 こちらが席を立つより前に、ドアの近くに立っていた松村が何か言っているのが聞こえた。 「・・・・え? 今なんか言った?」 「いや、別に・・・・お疲れ」 そう言って松村が先に部屋を出て行った。私も後を追って会議室から出ようとしたが、一瞬、思考が停止した。 「・・・・え? え? あいつ今、私に眼鏡してない方が好きとかなんとか言ってなかった・・・・?」 思ってもみなかった言葉が飛び出して来たので、つい動揺してしまう。確かにそう言ってた気がするのだが、「別に」とすぐ否定されたので、私の空耳だったのだろうかと思ってしまう。 「気のせい・・・・よね? それか、ただのリップサービス的な・・・・」 少々もやもやした気分になったが、私は気にしないことにした。
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