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パイプ椅子に岸辺が腰掛け、田野はその上に跨った。彼のペニスを掴んで誘導しようとして彼を見る。岸辺は既に果てたような表情で自分の秘部を眺めていた。 「そうか、こんなにも素晴らしいものだったんだな…。」 どこか目が潤んでいるように見えて、田野は微笑んだ。先端を膣口に充てがう。ゆっくりと腰を下ろしていくと2人は思わず同時に声を上げた。今まで19年間生きてきて、足りなかったピースが突如嵌ったような喜びを感じる。それは岸辺も同じようだった。今までに見たことのないほど柔らかな笑顔を浮かべて言う。 「すごいよ有紗…気持ちいいよ…。」 「私も、やばいです…もうダメかも…。」 遠くの方で雨粒が叩きつけられていく音が聞こえる。この空間以外が全て偽りのようだった。今彼と繋がっていることだけが事実で、後は薄っぺらい仮面を身に付けている。岸辺がゆっくりと腰をあげると、田野の内腿がぴくぴくと震え始めた。自慰行為では得たことのない快感が走る。田野は思わず首を横に振った。 「ダメ、いっちゃう。」 言葉尻を待たずして激しく痙攣し、田野は全身でエクスタシーを迎えた。餌を求める鯉のように口を開けて未知の絶頂を知る姿はひどく滑稽だろう。しかし彼の前ではどんな表情も見せられる気がした。田野の乳房を揉みしだく岸辺は何度も頭を撫でてくれていた。彼自身も限界なのだろう、時折下唇を噛みながら息を切らしていた。 2人は立ち上がり、田野は麻袋を掴んで腰を高く上げた。果てしなく淫らな立ち姿だが仕方ない。膣口から透明な液体がねっとりと雨のように落ちていきそうだったが、それでも彼を受け入れることを止めなかった。 「あぁ…すごい…。」 唸るように岸辺は腰を前に送った。何の抵抗もなく彼自身が体内に侵入する。引いては失い、押しては得る。そんな終わりのない規則的な運動が人生を表しているようで、田野は麻袋に爪を突き立てた。彼のペニスに適応した鍾乳洞に熱と微かな痙攣が伝わる。それを知った時に田野は慌てたように言った。 「ください、恭一さんの、全部、私に…。」 片手で彼の腰に手を回し、がっしりと固定する。小ぶりな尻を鷲掴みにして岸辺は最後の躍動を始めた。 「有紗、愛してる。」 息を切らしながら漏れた彼の思いに頷き、2人は同時に絶頂を迎えた。獣のように吠えた2人は思い思いの姿で余韻を味わった。麻袋に穴が開いて、大雨のような音を立てて珈琲豆が床に散らばる。深く呼吸を繰り返しながら田野は振り向いた。ベールを突き破ったような開放感に満ちた岸辺の表情が眩しく見える。今の自分たちならどんな犯罪もやってのける、そんな自信さえ田野にはあった。 言葉を交わすことなく唇を重ねた。ようやく岸辺は再起し、きちんとした恋人となったのだ。同じ喜びを噛み締めて2人は深いキスをしながら泣いた。
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