1-2

4/8
前へ
/648ページ
次へ
 半時間もしないうちに、アルブラ守備隊は崩壊した。民兵には武器を捨てて逃ようとした者もいたが、アエーシュマ歩兵隊はそれを許さなかった。歩兵隊の弓兵が逃亡者の無防備な背中をクロスボウで射った。仲間を捨てて逃げる者には死あるのみ。それがアエーシュマ歩兵隊の鉄則だった。  アエーシュマ歩兵隊のほうは、数人が軽傷を負っただけで、死者は一人も出なかった。大空中で最強を誇るアエーシュマ歩兵隊にとって、ほとんどが民兵の部隊など相手にならなかった。  ラブリスは十字槍の穂先についた血脂をファフニール兵の死体の衣服でぬぐうと、よく響く笑い声を上げた。「快勝快勝! 今夜の酒は美味いぜ」  ラブリスに続いて、他の隊員たちも歓声を上げる。  だが一人、ルシアだけは笑わなかった。ジョロウグモのバイザーを上げてあたりを見回すと、唇の端に右手の人差し指を当てる。「事が順調に進み過ぎている」  その言葉を聞き取ったラブリスが、ルシアを見た。「アルブラの騎士どもをおびき出して対竜バリスタで蹴散らす、てぇ作戦が効いたんでしょう。騎士がいなけりゃ、こんなもんですよ」 「何か嫌な予感がする」  ラブリスはルシアの勘の鋭さを信頼していた。勝利の笑みを消す。「ファフニールの王都のシェルヴィアから敵の援軍が来る、とか?」 「伝令兵を逃がしていないから、王都がアルブラの異変に気づくにはまだ時間がかかるとは思うのだが」ルシアは唇から指を離した。「どうであれ、敵地で長居は無用だ。竜港の監視塔にアジ・ダハーカの旗を上げて、本軍を呼ぼう」 「へい。おっしゃるとおりに」  ラブリスは気を引き締めた顔でうなずいた。
/648ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加