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 暗く狭い密室に、止め釘を外す音が響いた。天井が動き、隙間から弱い光が差し込む。 「棺の中は狭かっただろう?」棺のふたを持ったルシアの姿が見えた。「もう出てきていいぞ」  ドラキュリアの少女は起き上がった。顔をきょろきょろさせ、あたりを見回す。  広い居間。造りこそ豪華だったが、もう人は住んでいないらしく、かなりボロボロだった。壁材は色あせ、床板はところどころはがれていた。テーブルや椅子などの家財は白い粉をかぶっている。少女は最初その白い粉をほこりだと思ったが、すぐに灰だと気づいた。それで、昔にこの場所で何があったのかを悟った。  居間の窓は鎧戸で閉めており、部屋は暗くしてあった。ルシアが太陽除けのフードを取る。「汚れていてすまない」  少女はルシアを見た。 「君をかくまえそうな場所がここしかなかったのだ。ここはわたしの生家だ」  少女は首をかしげる。 「生家という言葉は難しいか? 産まれた家、という意味だ」  少女は今度はうなずいた。  少女は棺桶の中から出て、床に飛び降りた。着ているローブのすそを両腕の鉤爪で整える。ふと目を上げたとき、ルシアと視線が合った。少女はハッとして、鉤爪を背に回して隠す。 「どうした? まさか、鉤爪を見られるのが恥ずかしいのか? 奇麗な色なのだから恥ずかしがる必要はないと思うのだが、まぁ、それは本人の考え次第か。わたしも、灰色の瞳をじっと見られるといい気はしないからな」  少女は腕を隠したまま、上目遣いでルシアを見る。 「そでの長いローブを着ていたのは、鉤爪を隠すためだったのだな」ルシアが少女のローブを見た。ローブのそでは、カラミティウェザーとの戦いで千切れてしまっている。「そうだ。命を助けてもらった礼としては釣り合っていないだろうが、君にそのローブのかわりになる新しい服をあげよう」  ルシアは少女の体の前に屈みこむと、手尺で採寸を測り始めた。少女は顔を赤くしてうつむいた。 「よし、だいだいわかった」ルシアは立ち上がった。「わたしはこれから一度王城に戻り、服を取ってくる。あと、リリアも連れて来よう」  少女は顔を上げ、首をかしげた。 「わたしの妹だ。彼女なら君の言葉を聞けるかもしれない。彼女は竜話の巫女だからな」  少女は尻尾を大きく跳ねさせた。少女の予想外な反応に、ルシアのほうも少し驚いたようだった。 「竜話の巫女がどうかしたのか? ああ、もしやファフニールの竜話の巫女と会ったでもあるのか?」  少女はうつむいた。 「⋯⋯ふむ。悪いが、わたしにはいま君が何をいいたいのかわからない。やはり会話はリリアを連れて来てからのほうがいいな」ルシアは外套のフードをかぶった。「二時間ほどで戻る。リリアを探すのに手間取ればもっとかかるかもしれない。悪いがしばらく待っていてくれ。その間、テーブルの上の荷物袋に入っているものを自由に食べてくれてかまわない」  少女の腹がまた鳴った。ルシアがふっと笑う。少女は顔を真っ赤にして、尻尾をばたばたと振った。
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