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 アジ・ダハーカを国花はバラだった。それは初代国王ヒルデブラントの妻がバラを好んでいたことに由来する。  沈みかけた夕日が、アジ・ダハーカ王城前のバラの庭園をさらに赤く染めていた。庭園の中心にはヒルデブラントの石像が鎮座している。ヒルデブラントは勇ましい姿で直立し、右手の薙刀を天高くかざしていた。アジ・ダハーカ史によるとヒルデブラントは薙刀の名手で、その武力は建国時の反乱勢力討伐で大いに活躍したらしい。彼の没後、ヒルデブラントの薙刀はアジ・ダハーカ王の象徴となり、王位の後継者が代々受け継いできた。そしていまはオーヴェルベントのものになっている。とはいえオーヴェルベントがロゼに骨抜きにされてからは、薙刀は宝物庫でほこりをかぶったままだったが。  バラの庭園を越えると、アジ・ダハーカ王城があった。黒御影石を積み上げて築かれたその城は、古い時代に造られたということもあり、飾り気がない。強いていえば、城内から敵を射るために設けられている矢狭間と、石工職人たちが石材に刻んだ署名刻印が装飾だった。とはいえ、豪華な飾りがなくとも、アジ・ダハーカ城が他国の大使たちから侮られることはない。アジ・ダハーカが大国であることを反映しているのように、城もまた巨大だったからだ。城の中心にある本殿は、一つの山と見まがうほど大きい。とりわけ、本殿の中心にそびえる八角柱型の主塔は高大で、城を訪れた者の目を惹いた。主塔の最上階に設けられている展望台に立って周囲を一望すれば、ウールゼルヴを(あるいは大空すべてを)手中に収めている気分を味わえただろう。本殿の右隣には兵舎があり、三千人の兵士を待機させることができた。そして兵舎がそれだけ大きいということは、騎士たちが乗る竜を飼育する竜舎も大きいということである。三階建ての石造りの竜舎は、他国の城一つを丸々呑み込めるほどの規模を誇り、さながら竜の城といったところだった。  桁外れな巨大さのアジ・ダハーカ城を訪れた他国の大使たちは、本国に帰った後、アジ・ダハーカと敵対するのは無謀だ、と主君に告げるのである。
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